Riverdance—29年目の「25周年」

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 1994年のユーロビジョン歌謡祭で幕間の出し物として演じられた、たった7分間のパフォーマンス。評判が評判を呼び、翌年に二幕もののステージショウとして制作されたのが『リヴァーダンス』です。以降、ほぼ休むことなく世界中のどこかの劇場で演じ続けられてきました。
 そもそもの出発点から数えると2024年は30周年となるのですが、舞台作品としての『リヴァーダンス』はまだ29年目。来たる2025年には『Riverdance 30 - The New Generation』と銘打った全英ツアーがすでに決定しています(8月から12月にかけての長期ツアー。前売りチケットはもう発売されているそうで)。なにやら新機軸が期待できそうな副題ですな。

 日本では、2015年に20周年記念公演が東京・富山・名古屋・大阪の4都市で行われました。あれから9年。今年2024年に、ついに7度目となる<25周年記念>来日公演が実現しました。
 …ん? 計算が合わないぞ。初来日が1999年だったから、そこから数えて25周年という意味なのかな、でもなんか中途半端だなあ? と、1月の発表以来ずっとモヤモヤしていたんですが、実際のステージを観てその疑問が氷解しました。
 要するに、本国では2020年初演の「25th Anniversaryバージョン」のパッケージが、今になってようやく日本でもお披露目できた、ということなんですね。来年には次の「30周年バージョン」が控えていますから、この25周年版が演じられるのもギリギリ今年が最後。COVID-19パンデミックがなければ、もしかするともっと前に来日を果たしていたかもしれないし、あるいはステイホームがもっと長引いていた世界線だったら、日本では結局観ることがかなわなかった幻のバージョンで終わっていたかもしれません。
 実は個人的にも、この5月は喪主として気ぜわしく動いていたので、タイミング次第ではせっかく買っていた前売り券がムダになる可能性もあるなあ、と半ば覚悟していたのでした。かろうじて5月25日(土)の昼公演に駆けつけることができたのは僥倖という他ありません。
 というか、がっつり喪に服している期間中でもあり、心身ともにまだまだ観劇する余裕はないなあ…と出かける前はちょっと気が重かったけど、やっぱり観に行って正解でした。こういうときにエンターテインメントの力を感じることができたのは何よりでしたねぇ…(しみじみ)。

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 本公演は「25th Anniversaryバージョン」のパッケージ…と先に書きましたが、セットリストじたいは20周年のものと同じです。冒頭とフィナーレに過去の映像を後方スクリーンに映して、リヴァーダンスの歩みを印象づけるという演出が加わっただけ。ですが、そんな単純な仕掛けがオールドファンにはずっしりと来るんですね。初代プリンシパルのマイケル・フラットレー/ジーン・バトラー、ビデオテープを何十回も繰り返し観た96年ニューヨーク公演のコリン・ダンはもとより、99年初来日公演のブランダン・デ・ガリやフィドルのアイリーン・アイヴァース、そして我らがマリア・パヘスなど、懐かしい姿が映る度にじわじわとこみ上げてくるものがあります。下の写真は撮影OKだったフィナーレより。ステージ上の全員が、スクリーンに映る先輩方を讃える、いい場面です。

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 全体のパフォーマンスも、わたしが観た回では15年公演に比べると安定していたように感じました。ダンス・演奏ともにきっちり基本に忠実な印象。前回、とくにイリアン・パイプスのMatt Bashfordさんの崩し方が不満だったんですが、今回のCathal Crokeさんは端正な演奏スタイルで好感が持てます。

 演目は同じでもタイトルが変わっているのがひとつふたつあって、たとえばずっと「The Russian Dervish」として演じられていたナンバーは今回「The Derivish」に改題してました。もちろん昨今の政治的な意向が興行界にも及んでいることが大きいのでしょうが、もっと直接的に、この演目を担当するダンサーのひとりAnton Tiplovさんがウクライナ出身であるということの方がより強いのかもしれません。95年の初演以来ずっと、背景スクリーンにはモスクが描かれていたんですが、今回は満天の星空のみという図柄に差し変わっていたのも同じ理由でしょう(ちなみに、2020年に発売された25周年DVDにはモスクも大きく映し出されているし、クレジットにも'Riverdance Russian Ensemble'と記されています)。第二幕のゴスペル・ナンバーもなくなったし、全体的に宗教ぽいイメージをどんどん漂白していってる傾向にあるようです。
 さらに言うと、ここはずっと男女ペア×3の6人編成でやっていたシーンなんですね。それが今回は1ペア減って4人に。3組それぞれ見せ場があったのが1組減ったため、曲そのものも短くなってしまいました。好きな演目だっただけにちょっと残念。

 20周年公演で初登場した新曲「Anna Livia」は、映像としては25周年DVDにしか収録されていないはずですが、米ABCテレビがプロモーションの中継をYouTubeに上げてくれています。ありがたや。

 過去にやっていた「Oscal an Doras」や「Rí Rá」といった<声とダンスの共演>パートの現在版という位置づけになるのかな、昔の演目はリルティングやマウスミュージックを基調とした男女ミックスの群舞だったのに対し、今作ではジェームズ・ジョイス『フェネガンズ・ウェイク』から採られたリリックを使った女性陣のみのタイトなハードシューズダンスで、コンセプトが大きく違っています。でもまあ、意図はどうあれ、これはどう見ても女性版「Thunderstorm」でしかないよなあ。こういう新作を観るたび、やはりオリジンであるマイケル・フラットレー/ジーン・バトラー両人による振付の革新性と、同時に今なお古びない堅牢さに驚かされますね。

* * *

 平日の公演は東京も大阪も空席が目立っていたなんて噂も聞こえていましたが、わたしが観た土曜昼はほぼ満席だったんじゃないかな。前半こそややおとなしめだった客席も、後半にいくにつれ手拍子や歓声で大いに盛り上がってました。

 グッズはおろかパンフレットの販売すら無いのには面食らいましたが、これは本国の方針なんでしょうか。かつては公式サイトでもDVDはじめいろんなグッズを通販していたように記憶してるんですが、やはりCOVID-19のダメージから立ち直るため経費削減が最優先となっていると想像します。他の国はいざ知らず、日本じゃ25th Anniversaryのロゴさえ入っていればクリアファイルでもなんでもバンバン売れるように思うし、入場料収入に加えてグッズ販売が多少なりとも売上に貢献してくれそうなんですがねえ(とはいえ25thバージョンはもう終わりだから、売れ残るリスクを負ってまで今さら作りたくなかったんでしょうか)。さらに言えば<25th版DVD>はこれまでリージョン1のものしかなかったから、ようやく日本国内対応版が手に入るかなあ、などとちょっと期待していたんですけれど。
 ただ、せめてペラ1枚でもいいから、公演記録として日本ツアーのメンバー名と演目が入ったリストは配布して欲しかったところです。公式サイトから演目キャストは確認できますが、シーズンが変わればサイトの内容も変更されるだろうからアーカイヴとして残らないのが悲しい(大阪公演最終日では前回公演のパンフから演目リスト部分をコピーしたチラシがどこからともなく現れた、らしいです)。

 30周年、さらにその先に向けて、少なくとも本国ではまだまだ意気盛んな様子の『リヴァーダンス』ですが、8度目の再来日があり得るのか、どうなのか。今回の興行成績、さらには円安がどこまで続くんだってあたりももちろん影響大でしょう。判断が難しいところでしょうかねえ…。

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2024 05 26 [dance around] | permalink | comment (0) このエントリーをはてなブックマークに追加


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