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Songcatcher

 2000年に作られた『歌追い人』という映画が、ようやく日本公開された。3年前の映画が今頃になってであれなんであれ、こうやって字幕付で観られると言うことを、まず喜んでおきたい。自分自身のルーツとは何の関係もないよその土地の伝統的なうたやダンスなどに、どうしようもなく惹かれてしまう人にとって、これは観ておかなければならない物語である。
 

 時は1907年、所はアメリカ東部のアパラチア山中。ニューヨークの大学の旧態依然な環境にうんざりした女性音楽学者が、妹を頼って山奥の学校に単身たどり着くところから物語は始まる。イギリスの古いバラッドの研究者である彼女が、この地が「古いバラッドがそのまま残された」黄金の地であることを発見するのにそう時間はかからなかった。貧しく排他的な村の人々の暮らしぶりに時にたじろぎながらも、彼女は精力的に<うた>を訪ね、記録していく。いつか本として出版し、自分を認めなかった中央の大学社会を見返すための、それは彼女なりの復讐でもあった…。
 
 物語がなかばあたりまで進んだところで、あ、これは『ガッジョ・ディーロ』だ、と思った。これは1997年のトニー・ガトリフ監督作品で、ロマのことばで「よそ者」を意味するこの映画も、封切り当時、伝統音楽好きのあいだにすくなからぬ衝撃を与えたはずだ。
 『ガッジョ・ディーロ』との関連性が頭に浮かんだのは、登場人物のひとりが女主人公に「おまえさんはよそ者だからな」という意味のセリフを投げつけるシーンがあったからだが、それを抜きにしても、このふたつの映画はストーリーの骨格がよく似ている。「幻の歌」を探している主人公が、およそ一般社会から忘れ去られているかのような貧しい土地にたどり着く。当初は土地の人たちから好奇と警戒の目で見られていた主人公が、徐々に受け入れられ、やがて村人のひとりと恋に落ち、結ばれる…といった展開や、そのあと主人公を襲う衝撃的な試練など、物語の顛末はほとんどそっくりといっていい。
 
 『ガッジョ・ディーロ』が当時話題になったのは、主にそのエンディングにあった。「幻の歌」を追い求めていた主人公が、ある事件をきっかけに、結局自らその音楽を封印してしまうのだ。「よそ者には、触れてはいけない世界というものがある」——と作中の人物が言ったわけではないが、私はあの映画の結末をそう受け止めた。だからこそ、『歌追い人』の女主人公が、実のところ、途中まではどうしても好きになれなかった。彼女の熱心な「歌追い」が、<純粋な学術的好奇心>から生まれ来る(と、少なくとも彼女は信じている)行為であればあるほど、それじゃあアパラチアの村人はモルモットか何かなのかい? あんたにとってこの村の<うた>は、新発見の遺跡か新種の動物なんかと同じなのかい? という苛立ちをぬぐい去ることができなかったためだ(こういう感想は、私のガクモンコンプレックスとどこかでつながっているかもしれないが)。
 
 作中「この村の人たちにとって、<うた>は生活そのもの、人生そのものなんだ」と自ら気付くシーンもあって、そのあたり「主人公の成長」もしっかりフォローしているのだが、さてそうなると、いよいよ物語をどういう形で納めていくのだろう、というのが興味深くなってくる。『ガッジョ・ディーロ』では<うた>は主人公によって永遠に閉じこめられてしまったが、彼女の場合は解放させるのか、それとも? …映画の後半から終盤にかけて、私はただその一点を気にかけながらスクリーンを見つめていた。
 
 映画の結末がどうなったかは、ここには書かない。おそらく、そのうちDVDの日本版が発売されると思われるので、今回チャンスがなかった人たちには、ぜひその時を気長に待っていただきたい。ネタを割らないように自分の感想だけを言えば、「ああ、この人ならこういう行動をとるだろう」と充分納得させられるものであった。ただし、自分がもしその場にいたのなら、果たしてどういう道を選んだか。見終わってしばらく時間がたった今でも、その問いは私の心のどこかに突き刺さったままなのである。

 劇中、踊られるダンスは「アパラチアン・クロッギング」。嬉しかったのは、ここでのダンスが、観客に見せるためのものではなかったことだ。登場する楽器なんかが、時に立派すぎるんではないかい?という気がしていたので、ダンスシーンも「妙に上手かったらやだな」などと思っていたのだが、いやいや、このシーンは楽しかった。

2003 12 05 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

 力作ですねー。続ければ日本で評判のサイトになることを保証します!
 楽器はデーモン閣下の番組で見た博物館収蔵のものとは月とスッポンの立派さでしたね。その点はタイタニックと同じ。ダンスはタイタニックの完敗(笑)。リリーの成長は冒頭の生徒に向かっての講義が伏線になるだろうと,最初にスレた見方をしてしまったので後半の展開は安心して見ていられました(損したかな)。その分,ディレイデスやおばあちゃんの歌や景色を堪能しました。私が最もガツンとやられたのはリリーと同じく,集会所の殴り合いの後,やられた男もやった男も歌で心を表現する所。詩の象徴を言語体系に使用した宇宙人と地球人のコンタクトのSFがありまして,同じセンス・オブ・ワンダーを感じました。とにかく歌を聞きたい。早くDVDが出てくれることを望みます。

posted: わたなべG (2003/12/05 17:21:34)

さっそくコメントありがとうございます。
そっかー、冒頭のエピソード。まだ物語世界に入りきらないうちに起こった出来事はけっこう抜けていますね、ワタシ。
映画を見終わったあと、私ももう一回歌が聴きたくて、サントラCDを買ったんですけれども、こいつはイマイチでした(^_^;)。

posted: とんがりやま (2003/12/05 23:25:26)

なるほど、ガッジョ・ディーロですか。

私も観たことがあったんですが、まったく思いつきませんでした。

「歌追い人」レンタルで出ていたので、借りて観ました。
音楽は期待以上に良かったです。

私はほとんどなんにも考えることなしに、この映画を観ていました。
ああこの曲いいな~この場面いいな~という感じです。
もうちょっといろいろ考えて観たほうがいいかなとも思います。

こちらのブログは非常にレベルが高いですね。
少し拝見させていただきましたが、画像のきれいさといい扱う題材という投稿文といい、ひとつ飛びぬけているように感じます。
参考になります。

もしこのコメント、しょーもないということでしたら削除してください。
お邪魔しました。


posted: slowcd (2004/11/01 12:05:07)

>slowcdさん
 はじめまして。お褒めいただき恐縮してます。
 DVDの方の感想は、
http://www.tongariyama.jp/weblog/2004/10/dvdsongcatcher.html
 にも書いてますので、合わせてご覧ください。

 今後ともよろしくお願いします。

posted: とんがりやま (2004/11/01 16:56:31)

 

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