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踊りの宇宙

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三隅治雄著/歴史文化ライブラリー142/吉川弘文館/2002年7月刊
ISBN-4-642-05542-8  装幀/山崎登

 「日本の民族芸能」という副題が付いていることからもわかるように、主に日本の舞踊についての概説書である。しかし、「民俗芸能」ではなく「民族芸能」という表記に注目してほしい。そう、この本は、日本の舞踊の特質を、世界的なレベルで比較考証しているのだ。こういう本は、ありそうでいて、いままであまり類書がなかったように思う。
 

 本書は日本舞踊が若い学生の間でほとんど好まれていないという現状報告を糸口にして、そもそも日本舞踊はどういう経緯で今に至ったかという歴史解説を縦糸に、そして日本舞踊は世界の民族舞踊と比べどこがどう違い、あるいは共通するのかという問題意識を横糸にして編まれている。平易な文章と著者の豊富な経験が相まって、とても読みやすく楽しい一冊だ。
 
 日本の伝統音楽や日本舞踊に関するもので、こんなに一気に読み通せた本は、私はこれまで出会ったことがなかった。特に興奮したのが、日本列島から朝鮮半島へ、さらにユーラシア大陸を西へ西へと横断していき、ヨーロッパで独自に発達したバレエの話で締めくくられる<第三幕 踊りの地平線>の章。これまで、民族音楽やダンスについて述べているほとんどの本が、アフリカ大陸のみだとかカリブ海周辺のみだとか地域を限定しているなかで、本書のようなユーラシアをひとまたぎした視点のスケールの大きさには圧倒させられた。なにか、これまでバラバラにみていたものが一気につながって、視界がすうっと広がったような、爽快な気分にさせられるのだ。
 
 ただし、これで日本舞踊を見るのが楽しくなるかどうかという点に関しては、正直言って難しいと思う。むろんこれはひとり著者のせいではなく、日本の伝統文化ぜんたいが負うべき重大な問題である。本書の最後に置かれた、「幕外のつぶやき」という文章の一節を引いておく。
 

 所作事に見る、豊富な古典・故事の引用と多彩な修辞に飾られた詞章は、言語芸術宣揚に執心してきた日本文化のひとつの精華で、ほんとうなら、これくらいの叙述にへどもどしない読解力・鑑賞力は、学校の国語教育・音楽教育で養われてきてよいはずである。が、事実は、その力が年々弱まり、一々の解説なしには、理解し得ない時代が来ている。

2003 12 06 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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