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クリスマス・プレゼントの思い出。

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 新訳 飛ぶ教室
 エーリッヒ・ケストナー著/植田敏郎訳/文研出版
 1969年刊/浜田弘康・画
 
 私が小学校にあがった最初の年のクリスマス・プレゼントとして、父親からこの本をもらった。
 私と違っておよそ読書には縁遠い父が、慣れない本屋さんの中で、本を読むのが好きそうな自分の子どものために一所懸命選んでくれたのだと思うと、なんだか微笑ましい。エーリッヒ・ケストナーというドイツの大作家の名前などもちろん知らないから、おそらくこの風変わりな題名だけで手に取ったんじゃないだろうか。なにしろ「教室」が「飛ぶ」くらいだから、学校が舞台の、おもしろおかしい物語だろう、くらいにしか思っていなかったはずだ(本好きの母親ではなく、これは父親が選んだ本だということは、後年本人の口から聞いている)。
 

 プレゼントとして本をもらったことが、よほど嬉しかったに違いない。なぜなら、他の年にもらったおもちゃの類はまったく記憶にないからだ。自分に甥っ子や姪っ子ができてからは毎年のお年玉として、彼ら彼女らにお金ではなく本を一冊ずつ贈り続けているのも、子ども時代のこの体験からきている。
  
 「小学中・上級向」との表示があるこの本は、たしかに、小学校低学年の子どもには、なかなか手強い相手だった。一日数行読むのがやっとという日もあったし、どれだけがんばっても2ページ以上は進めなかった。この当時から寝る前に布団の中で本を読むことが多かったが、プレゼントしてもらった翌日からずっと読み続け、読み終わった頃には春になっていた。その後も、何年かにいちどくらいの割合で、読み返している。さすがに今では数時間で読み終えてしまうが、ときどき、2、3行読むのにとても真剣だったあのころを懐かしく思うことがある。それにしても、本を読まないひとが選んだにしては、このセレクトは凄いと、今でも真剣に思う。 
 
 
 ケストナーと言えば、今では高橋健二訳が定番になっているように思う。おそらく日本のケストナーファンで、ロングセラーを続けている岩波書店版を読んだことがない人は、まずいないんじゃないだろうか。
 けれども私にとっては、《飛ぶ教室》といえば植田敏郎訳のこの一冊きりである。ジョニーにも、マルチンにも、ちびのウリーにも、禁煙先生にも、今さら他の人の翻訳で会いたくない。
 そういえば、この作品がついに映画化された。しかしやっぱり、私は見に行かないだろうな。
 
 
 …写真は、書名にふさわしく(?)ちょっと飛ばしてみました。本は放り投げてはいけません(笑)。Merry Christmas and Happy New Year!

2003 12 24 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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