« カモンの謎 | 最新記事 | A Happy New Year »
「手ざわり」を求めて
ABZ-more alphabets and other signs
Edited by Julian Rothenstein and Mel Gooding/CHRONICLE BOOKS
First published in 2003 (U.S.A.)
ISBN0-8118-3981-8 Cover design/Azi Rad
本書は1920〜30年代のヨーロッパ/ロシアをメインに、19世紀後半から20世紀中頃までの、日本も含む世界各地のさまざまなタイプフェイスを集めたスクラップ・ブックである。各々のデザインを系統立てて分類・整理し…といった研究本ではない。さしずめ「デザイン好きのための絵本」といったところか。タイトルからもわかるように、とりわけタイポグラフィ・マニア、フォントマニアには嬉しい一冊かもしれない。
こういう本を眺めてつくづく思うのは、古いデザインには、ハンドクラフトならではの微妙なゆらぎが生み出す「手ざわり」が感じられるということだ。なんでもコンピュータで作ってしまえる現代のデザインが、もっとも苦手としている部分でもあるのだろう。何十年も昔のグラフィックが人気を集めているのは、だからとってもよくわかる。
それにしても、だ。本屋に行けば、まるでモダニズム全盛なのはどうしたことか。音楽やファッションでの「懐古趣味」はせいぜい60年代〜70年代がいいとこだが、グラフィックや建築などの分野になると、さらに3〜40年を一気に遡ってしまう。個人的には、もともと両大戦間の時代の文化(音楽や映画も含めて)には少なからず興味があるから、資料が充実するのは嬉しいんだけれども、それだけで美術書コーナーの一角を占めるほどになってしまうと、ちょっとびっくりする。これはどうやら、単なる復古趣味としてだけでは片づけられない側面があるのではないか。
「手ざわり」ということで思い出した。今年は、ブックデザイン関連書が大量に出たことも興味深かったのだ。私の目に入った範囲だけでも専門誌は創刊されるは、雑誌で特集が組まれるは(これもそう)、単行本が出版されるはで、まるでちょっとしたブームの様相を呈していたのだ。
たしかに、書籍は物体としてそこにあるモノだ。デザイナーにとって「自分の作品だ」と言える実体があるというのは、やはり嬉しいんだろうな。ディスプレイ上でなんぼ凝ったコトやったって、所詮ヴァーチャルじゃないの、という気分なんだろう。だからかどうか、紙の素材感にこだわったり、特殊印刷を多用したり、あるいは通常の印刷工程では非常に難しい加工を施してみたりと、<流行のブックデザイン>には「コンピュータでは逆立ちしたってできないこと」へ向かおうとする意志が強く感じられるのだ。これを、ひとまずは「手ざわり」への意志と言い換えてもいいかもしれない。結果としての作品が、その意図を充分達成しているかどうかは、別としても。
「手ざわり」への意志。それが、莫大な設備投資と絶え間ないヴァージョン・アップに追いかけまくられる宿命にある<コンピュータでのデザインワーク>へのアンチテーゼなのかどうか、それはなんとも言えない。「デザイナーの感性はコンピュータの限界をとっくに見切ってしまった」とでも書ければ格好いいのかもしれないが、かといっていまどきのグラフィック・デザイナーからMacintoshとIllustratorやPhotoshopを取り上げてしまえば、赤子同然だろう。アドでもエディトリアルでも、コンピュータ導入前に比べてデザイナーのスキル自体はレベルダウンしていると、常々指摘されてもいる。
しかし、少なくとも、これだけは断言できる。グラフィック・デザインの現場にMacが君臨して約十年、当初から「コンピュータは道具であって目的ではない」と叫ばれてはいたが、全体的な意識が「わしらはコンピュータをどう使うのか」から「そもそもわしらは何を創りたいのか」へと、ようやく向いてきた。だとすれば、デザイン界はいよいよこれからが面白くなるはずである。さぁ果たして、来年以降どうなるか。
…おっと、来年って、もう明日じゃないの。どちらさまも、良いお年を。
2003 12 31 [design conscious] | permalink
Tweet
「design conscious」カテゴリの記事
- 中川学さんのトークイベント(2018.07.16)
- 大塚国際美術館へ(2017.07.17)
- 『デンマーク・デザイン』展(2018.05.06)
- 薄井憲二さんのバレエ・コレクション!(2018.04.08)
- ブランドとしての<ブリューゲル>(2018.04.01)