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Russian Folk Song & Dance
Russian Folk Song & Dance
78 min. KULTUR International Films
ISBN1-56127-107-1
1981年にリリースされた作品。時代を感じさせるのは、やはりそのタイトルだろうか。これだけ見事にバラバラな4つの「国」のうたとダンスを、“RUSSIAN”の一語でまとめてしまうことの不思議さに、当時だれも疑問に感じなかったのだろうか。いや、感じていたからこそ、この10年後には「ソヴィエト連邦」という名称が世界地図上から姿を消したのだろうけれど。
このヴィデオに“ロシアの一地方の民族ダンス”として収められた地域は、ウクライナ、ロシア(といっても出演ティーム名はシベリアを冠している)、ウズベキスタン、モルドバの4つ。現在では、このうち3つまでが「独立国家」である。自立した民族国家として、そのアイデンティティを思う存分主張できるようになったいま、このヴィデオが主張している「自分たちの豊かな伝統文化」は、いったいどうなっているんだろう。「あのころは本意じゃなかったけど、しょうがなかったんだもんね」なのか「政治体制がどうであれ、わしらは同じことしかやれないもんね」なのか。具体的に表現上に大きな変化がおこったのか、あるいは。
ま、これらの地域はソヴィエト時代から突出して民族的・個性的だったからこそ、こういうヴィデオ作品の収録に選ばれたのだ、という推測も可能なんだけども、さて本当のところはどうなんでしょう。
4、5年前、このヴィデオのレビューを某パソコン通信の某会議室に書いたことがある。若干の加筆修正をして、以下に再録します。
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まず登場するのがウクライナ。ここに見られるのはダンスも歌も典型的なスラブ…と書きたいところですが、「典型的スラブ」がどんなものかいまいち良く分かっていないので、「私のアタマの中にあるステレオタイプとしてのスラブ」と記しておきましょう。出演は Pyathitsky Folk & Dance Ensemble の皆さん。いわゆるクラシックバレエ的な訓練を積んでいる方たちらしく、ふんだんに出てくる練習風景も、バーを使った基礎から始まるという、現代的に整備されたものであります。逆説的なもの言いですが、<いかにもスラブ>と思う理由のひとつがその辺にあるのかな、例えば「モイセーエフ・バレエ」なんかを観たときにも感じるような、非常に人工的に<造られた>民族音楽であり民族舞踊である、という感触が、最後まで残りました。それは教科書的な民俗芸術であり、うんと悪くいえば、土産物屋の店先にきれいに並べられた、一見手造り風大量生産品。だから、このEnsemble が出てこない、どこかの村での結婚式?の様子を紹介したシーンが、逆に新鮮で面白かった。
ウクライナと、3番目に登場するロシア(シベリア)はスタジオ収録なのですが、対照的に全編オールロケで踊りまくって感動的なのが次のウズベキスタン。
私は、ウズベクについてはその音楽も含めて殆ど何も知らず、このヴィデオを初めて観たとき強烈にノックアウトされました。人びとの顔はアジア的であり、音楽はトルコっぽいし、出てくる建物はイスラム様式で、さらにはインド風味のダンスまで出てくる…あとで調べたら、確かにトルコ族の圏内であり、ということはイスラムでもあるのでほぼ納得は出来たのですが、それでもこの「フュージョン」ぶりはくらくらするほど刺激的です。ぱんぱんと乾いた音が気持ちいい片面太鼓のドイラ(ちょっと欲しくなりました )、ウズベク風アルプスホルンのゴンカ( …とは呼ばないかも知れない。<ゴンカ>はチベット名だそうで) など珍しい楽器もじっくり観られるのが嬉しい。イスラム寺院風建物の中での、インド風に踊る女性+ドイラのおじさんの、2人だけのセッションが身震いするほどカッコいい。おそらく、全編中の白眉。
3番手はロシア。出演は Siberian-Omsk Folk Chorus で、出し物はなんとミュージカル(!)。若い男女のラブストーリィっぽいんですけど、途中を省略している事もあって、どうもよくわからない。セットの色彩センスや造形感覚に、ロシアならではのものを感じますが、う〜ん。アメリカ製エンターテインメントに慣れきっている眼でみると非常にツライものがあります。劇中にやる、カスタネットを使ったアクロバティックなソロ・ダンス芸以外に観るべきものなし。
しんがりに控えしは、モルドバであります。モルダヴィアって言い方もするかな。英名は MOLDOVA 。ロシア連邦内には、モスクワの東にモルドヴァ MORDOVA っつー共和国がある(こっちは合唱なんかがステキ)ので、ややこしくってしょうがない。Lの字の方は、ルーマニアのお隣さんです。実際、民族的・文化的にはロシアよりもはるかにルーマニアだそうで、ここに出てくるダンス・音楽も、そのまんまルーマニアと言って差し支えないでしょう。
4つの中では、いちばん「すばしっこい」印象ですね。よくもまあ、あんなに足が回るもんだ、というくらい速いステップの連続です。こちらも全編野外ロケなので、踊っている内に足下から砂煙がわき起こってきたのには笑いました。あんたはエノケンかって(笑)。
野生味というか、男っぽさをいちばん強く感じたのも MOLDOVA でした。特に、森の中で男性ダンサー十数人が繰り広げる Sward Dance は<血沸き肉踊る!>という言葉がぴったり。観終わったあと、思わず拍手喝采してしまうこと請け合いであります。
ヴィデオのラストをかざるのは、よく知られた名曲「ひばり」。先程書いた、踊ってる内に砂煙がもくもくと立ち上ったのが、これです。はじめて見たときはコマ落とししているんではないのか、と思いましたです。
一編の手頃な短さといい、バラエティの豊かさといい、飽きさせないヴィデオ作品であります。
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冒頭に書いたように、ここで見られるうたやダンスを、はたして彼らが今でも歌いかつ踊り続けているかどうかが気になる。1番目や3番目なんかは、なんとなくあぶないんじゃないかという気がしないでもないんだが。
ともあれ登場から約四半世紀、こういうヴィデオ作品が今なお市販され続けていること自体が、奇跡と言っていいかもしれない。
【追記】
モルドバの「現在」について、《週刊文春》2003年12月25日号に短い記事が載っていたので紹介しておく。1940年にソ連に併合されたモルドバは、1991年に独立。今なお住民の3分の2がルーマニア系であるにもかかわらず、かつての祖国との再統合を望む声は皆無に近いという。記事では、分断以降の60余年という時間の長さと、チャウシェスク時代のルーマニアの恐怖を記憶しているためと指摘している。
2003 12 19 [dance around] | permalink
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