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タイポグラフィを「知る」一冊

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 モダン・タイポグラフィの流れ ——ヨーロッパ・アメリカ1950s-'60s
 田中一光・向井周太郎監修/トランスアート刊/2002年3月初版
 ISBN4-924956-73-2  ブック・デザイン/木下勝弘
 
 
 近代グラフィック・デザインは、20世紀初めのさまざまな前衛芸術運動から多くを得ている。タイポグラフィの領域でいちばん最初のエポック・メイクとなったのは、1928年にドイツのヤン・チヒョルトが著した《DIE NEUE TYPOGRAPHIE》という一冊のハンドブックで、この書によってそれまでの種々の実験や試みが体系化され、理論的に整備されていったと言われている。

 本書は、そんな前史を踏まえつつ、20世紀のグラフィック・デザイン史上に花開いたタイポグラフィの精華を、50年代から60年代にかけてのヨーロッパとアメリカに求め、豊富な作例とともに系統的に紹介する本である。
 本書のもととなったのは、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで1995年と1996年に開かれた展覧会だが、同書はさらに収録作を追加しているという。200ページに満たないヴォリュームのなかで(ややアメリカの比重が多いとは言え)これだけの作例を集め整理する作業だけでも、相当な労力を必要とするだろう。本書刊行に携わった方々の熱意が伝わってくる。
 
 本書のいちばんの功績は、同時代の作品をヨーロッパ側とアメリカ側にわけて整理し提示していることだ。こう対比することによって、それぞれの特徴がとてもわかりやすくなっている。
 見た目の印象だけでいうと、ヨーロッパの作品は純粋に造形美を追求し、アメリカのそれは時にユーモアを交えつつ、より親しみやすい表現を試みているようだ。ただ、それを「抽象のヨーロッパ、具象のアメリカ」とひとことでまとめてしまうのは性急すぎるかもしれない。ヨーロッパと言っても、ここに収録されている作家はスイスやドイツやオランダやハンガリーなどが主体で、たとえばフランスやスペインやイタリアの作品は見あたらない。ラテン系の国々に見るべき作品が全くなかったとは考えにくいが、少なくとも「タイポグラフィ」というジャンルにおいては、独自性を強く主張できるところまではいかなかったのだろうか。
 
 
 商業デザインは「所属している国家の勢い」というのが端的にあらわれやすい。その時々の政治状況や経済力・文化的成熟度まで、ある意味「とてもわかりやすい」表現ジャンルと言ってもいい。大衆文化史や社会学的な読み解き方にとどまらず、今後ますます幅広い研究が可能な素材であると思う。
 なにより「ことば」を素材に使うタイポグラフィには、メッセージ性がよりダイレクトに伝わりやすい利点がある。ということは、「タイポグラフィ」を切り口として現代世界史を編むことだって不可能ではないはずだ。
 
 だとするならば、じゃあたとえば上に書いたように南欧はどうだったのか、あるいは同時期のアジアは、アフリカは、中東は、南米は…と、読者によってはさらに広く深く知りたくなってくるかもしれない。そんな興味をもつきっかけとしても、本書の果たす役割は大きいと思う。専門の研究機関による論文は知らず、一般に刊行されたものとして、今まで商業デザインにあまり関心がなかった人にも「機会があったらパラパラと眺めてごらんよ」と勧めたくなる一冊であります。確かに専門用語はいっぱい出てくるけれど、ま、図版の方が多いしね(^_^)。

2004 01 25 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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