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誰か新版を出してくれぃ
現代舞踊学双書5 フォークダンス 民族性と舞踊技術
J.ローソン著・松本千代栄校閲・森下はるみ訳
大修館書店刊/1975年初版
ISBN4-469-16195-0 装幀/近藤敬三
実技書も含めて、日本語で読める民族舞踊の概説書は、とても少ない。フォークダンス自体は決して人気のないジャンルではないと思うのだけど、どうも「書物」という形式には向いていないのだろうか。踊ってナンボだもんなぁ、やっぱり。
本書は昭和50年初版ながら息が長く、今でも新刊書店で見かけることがある。原書の Joan Lawson 《EUROPIAN FOLK DANCE Its National And Musical Characteristics》が出版されたのがいつなのか、正確なところはわからないが、訳者あとがきで「原書をはじめて手渡されたのが1971年」とあるから、本書にしるされている内容は、おそらく1960年代までの事情を反映していると思われる。
原題にもあるように、この本が取り扱うのは「ヨーロッパ限定」である。かろうじて中東とスラヴも入っているが、アジアやラテンなどにはまったく言及されていない。今ならこれは考えられないことだろうが、逆に言うと、ヨーロッパのダンスだけを調べたい向きには、いちばん詳しい本だということもできる。もっとも、やはり出版からそれなりの時間が経っているので、民族性を解説している部分などは理解に苦しむ箇所もあるし、またダンス自体についても、その後の新しい動向や流行などを含め読み手がフォローしなければならない部分は多い。たとえばこんな一節。
アイルランドでカップルダンスが踊られなかった理由は、舞踊教師が自分のお手本を農民に伝える媒体となった宮廷がなかったことで説明がつく。(p.26)
たしかに原書が出た時点では、セット・ダンスはまだリバイバルする以前だったとはいえ、ここまで断言されるとちょっとどうかと思う。あるいは
残念なことに、これら舞踊教師は、辺ぴな村々の踊りに関心を向けなかったし、今もなお、わずかに残っている労働の所作ぶりに、全く注意を払わなかった。このような舞踊教師の弟子たちが郷里にもどると、彼らは農民の流儀(スタイル)に自分たちの洗練された流儀をおしつけ、その結果、村の踊りは、その枠にはまらぬ自然さを失った。演じられる腕の動作の唯一のもの、それも滅多に今では見られないものは、“仕事歌”として知られる<ジグダンス>の中の、こぶしでおどすような動きのみである。(p.201)
先の引用箇所とも考え合わせると、ローソン氏がアイルランドのダンスを取材するにあたって、おそらくゲーリック・リーグをその情報源に頼わざるをえなかっただろうと思われる(文中の「“仕事歌”として知られる<ジグダンス>」が具体的に何を指すのか不明だが、ケーリー・ダンスの中には、労働のしぐさの名残りかと思えるような動きをするものもあるから、おそらくそれのことかもしれない)。著者は本書の中で、アイルランドのダンスが画一化された経緯をかなり批判的に紹介しているのだが、その後セット・ダンスはリバイバルしブームともなったし、シャン・ノース・ダンスやオールド・スタイルのステップダンスだって「滅多に今では見られない」ながらも、21世紀でもどっこいまだまだ滅びてはいない。
「へえ、1960年代当時はこんな状況だったんだ」がよくわかる資料としての価値は、確かにこの本にはある。アイルランドの項目ばかり検証してしまったが、今から本書を読むには、同様の作業が全てのページに必要になるかもしれない。とはいえ、書かれていることがまったく古びてしまったかというと、そうでもないだろうとも思う。私としては、現時点の研究成果を踏まえた、新しい「ヨーロッパの民族舞踊の概説書・入門書」が読んでみたいのだ。どなたか書いて(あるいは、訳して)くれませんかねぇ。出しても売れないのかなぁ。踊ってナンボ、だもんなぁ、やっぱ。
2004 01 15 [dance around] | permalink
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