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衝撃的、ですか? THE CAR MAN
ザ・カー・マン Matthew Bourne's THE CAR MAN
制作・振付・演出/マシュー・ボーン
ワーナーヴィジョン・ジャパン WPBS-90116
AMPの来日公演は、アダム・クーパーが大ブレイクしたあの《白鳥の湖》も《ザ・カー・マン》も、結局どれひとつ行けなかったワタシである。くやしい。だから、このDVDが出たと知ったときは喜び勇んで近所のショップに走った。で、買ってしばらくそのままになっていたんだけど、正月休みにようやく観ることができた。やれやれ。
ビゼーの《カルメン》…オペラはもとより、バレエや映画にもなった有名なあの作品を、マシュー・ボーンがどう解釈し彼流に変換させるのかがみもの…な筈である。ただ、以前BSで例の《白鳥の湖》を眺めたことがあるんだけれど、そのときはあまりピンとこなかった記憶がある。ワタシの中で<男性だけで踊る激しい白鳥>と言う風な、センセーショナルな宣伝文句が先行しすぎたきらいがあったのかもしれない。ま、このときはテレビをただ漠然と眺めていただけだったので、それだけで善し悪しをどうこう言うのは失礼極まりないってものだが。この《ザ・カー・マン》でも、すんげえエッチだ、とかなんとかいう評判をそれとなく耳にしていたが、ワタシとしてはそういう事前情報はできるだけカットするように努力していた。
まあそれでも断片的なコトバは入ってくるもので、たとえばこのDVDのジャケットにしてからが、まずオモテに「衝撃的な、欲望のダイナマイト・ダンス」(デイリー・メール)ときた。裏面では「騒然として、性欲と激しさでものすごく熱い豪華なショーだ」(イブニング・スタンダード)。うーむ、このテの新聞・雑誌の評価記事ってのは、どこまで信用していいんでしょうか。
The CAR MAN、直訳すると自動車おとこ。「舞台は1960年代アメリカのとある片田舎の自動車修理工場。工員募集の貼紙を見てふらりとあらわれた男がもたらす悲劇を描いた作品。」…ひとこと紹介すれば、こんな感じでしょうか。悲劇といっても、不倫ありバイセクシャルありで、インモラルな故に起こるたぐいのもので、物語の舞台になった1960年代の観客になら、たぶんすぐさま上演禁止になるほどの大スキャンダルな設定だろうけれども、21世紀の観客にはどうなんだろう。これが疑問点の一。二つ目は、流れ者の男が、まわりの人間をすべて狂わせてしまうほどの性的魅力を持っていることを、こちらに納得させてくれなければならないわけで、セリフがないこの舞台では、当然ダンサーの肉体とそのダンスでしか表現できない。これ、言うのは簡単だけど、そんな存在感を持ったキャラクターって、映画俳優でもなかなか難しいのでは。しかもこの男、最初から最後まで、周りの人間をたらしこむしか能のない男。とくに悲劇(殺人事件)が起こってから以降は、性格がすっかり破綻してしまい、ただの情けないヤツになってしまうのだ。キミはいままでセックスだけで世の中を渡ってきたのかね、この町に来るまで何をしていたんでしょう。
いずれにせよ、セリフがないショウでは、複雑な状況説明だとか繊細な心理描写が難しいのはしょうがない。付録の特典映像で演出家本人も言っているように、映画的な手法をふんだんに取り入れることによって、その弱点は大幅にカバーされていると思うし、アイディアの豊富さには感心するんだけれども、その分ストーリィをきっちり語りきることに重きを置きすぎているように感じてしまった。ダンス作品は、ダンサーの身体が物語る方が面白いと思うんだけど。…つまりは、良くも悪くも「演出家の作品」なんですね、これ。
ワタシの好みとしては、マシュー・ボーン、どうも合わねぇや、であった。ところどころ、地を這うような群舞の振付なんかは面白かったし、衣装デザインのせいもあってみんなセクシーに見えるから、けっこうドキマギする場面もあるんだけど、それが「ほら衝撃的でしょ」といわれると、どうも。
彼がこの春持ってくるのが《くるみ割り人形》だそうで、この人は過去の名作を自己流にアレンジすることしかできないんだろうか。「誰もが知っている作品をいじることの難しさ」っていうのもわからなくもないんだけれど、《ザ・カー・マン》では今までにない斬新な解釈をぶつけるというよりも、自分の記憶の引き出しにある昔の映画やショウなんかのさまざまなアイテムを、あれこれコラージュして楽しんでいる、マニアックなコドモの遊びみたいに思えちゃったのだ(この作品だけの手法なのかもしれないんだけど)。
いかん、新年早々なんだかケナしてばっかりだ。ファンの人、ごめんねぇ。
2004 01 06 [dance around] | permalink
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