“シャムロック”タクシーって知ってる？

「なにこの写真。どこで撮ったの」

「えー、四条通っすけど。京都の」

「ふーん。で？　歩行者が横断歩道を渡っている時はクルマはちゃんと止まってなさいね、っていいたいの？　それにしちゃなんだかわかりにくい構図ねえ。まさかこんなのを、いま受注してる交通安全キャンペーンのパンフレットに使おうっていうんじゃないよね？」

「いや、別にそうじゃないんすけど。特にアングルとか構図とかナニも考えず、ひじょーにてきとぉに撮った写真」

「…はぁ、それで？」

「いやあの、手前のクルマのですね、行灯を見てほしいなあと」

「あんどん？」

「ほら、タクシーの上にぽちっとついてるやつ」

「ふーん、あれ行灯って言うんだ。で、それがどうかしたの」

「いやもう一枚、アップで撮ったんすけど」

「や、よーするに、一部のアイルランド愛好者のあいだでは“シャムロック・タクシー”と呼ばれているとか、いないとか、そんな話で」

「なあにそれ」

「いやじっさい、ワタシの友人知人には、京都に来たらこのタクシーに乗りたがる連中が多いんですよ。わざわざ2台も見送ったヤツもいたほどで」

「ヒマなのねえ、あなたの友達って。で、なによ、ホントにアイルランドの会社がやってるの？ここって」

「いえね、このタクシー会社はヤサカグループといいまして、べつにアイルランドとは何の関係もなさそうで。単にクローバーをマークに採用しただけのようですねえ」

「なーんだ」

「でもねえ、ここはいろいろ話題作りに頑張ってまして、京都にたった4台しか走っていないという『幸運の四つ葉のクローバーバージョン』タクシーはわりと有名だし、他にもヴァレンタイン・ディ限定で『ピンクのクローバー』に塗り替えちゃった、という話も」

「へえ、そんなの見たことないわよ。っていうか、いちいちそんなの気にしてタクシーつかまえてないって、ふつう」

「ま、話のネタにってやつでしょうね」

「で？　肝心の交通安全キャンペーン用の写真はどれ？」

「いや、あの、実は、まだあんまりいいのが撮れてないんで」

「ちょっとぉ、納期がないんだから！　遊んでないで仕事しなさいっ！」

「ひぇ〜い、タクシー飛ばしてもっかい撮ってきま〜すぅ」