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アクロバットとダンス

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アクロバットとダンス
石井達朗著/青弓社・寺子屋ブックス02/1999年8月刊
ISBN4-7872-7112-1  装丁/鈴木堯+瀧上アサ子[タウハウス]

 本書のあとがきに<アクロバットはダンスに比べて一段低い位置におかれるきらいがある>という一節があり、言われてみればわたしもまた、漠然とそんなイメージを持っていたと気がついた。

 


 「バレエのポワントを考える」という副題のついた第一章「フェティッシュでアクロバティックな姿態」で、まず著者は強烈なノックを読者に浴びせる。バレエで「この世のものならぬ存在」を表現するためのテクニックとしてポワントが編み出されたとき、それはとんでもなくアクロバティックな技法だったと著者は言う。いや、今だってポワントなんておいそれと一般人にできるものではない。しかし、ポワントなしのクラシック・バレエなんてイメージしにくいほど、ごくあたりまえのテクニックになっているのも確かだろう。バレエとアクロバットは、今でこそすぐには結びつかなくとも、その成り立ちの過程においてはかなり密接な関係にあったことを、本書はじっくり教えてくれるのだ。
 
 ポワント開発の歴史で読者の度肝を抜いたあと、本書はいきなり南インドのサーカスにとび、さらにバリ島の呪術舞踊、中国のスペクタクルな雑技へと世界を駆けめぐり、最後に現代舞踊の最先端を紹介して終わる。取材範囲がとんでもなく広いのだが、踊り手(あるいは演じ手)の身体性という点にフォーカスが絞られているので散漫な印象はなく、むしろ次々と珍しいトピックが綴られるので、読者としてはその快感に身を委ねていればいい。
 
 
 サーカスや曲芸、シルク・ドゥ・ソレイユのようなスペクタクルなエンターテインメント、あるいは新体操やフィギュア・スケート競技を観ていると、そのあまりにも驚異的な身体の使い方に驚く。「まるで人間業じゃねえ」などと思ったりもする。しかし、よくよく考えてみれば、どんなダンスでも、日常生活と比べればそうとう奇異な身体の使い方を強要するものだ、という事実に気づく。たとえそのダンスが小さな子どものお遊戯レベルであっても、リズムに合わせて動くとか、決められた振りの通りに動くとかの、一定の「約束ごと」に自分の身体を押し込める限り、やはりそれは「奇異」なのだ。
 
 人間の身体そのものを、日常のありかたからできるだけ遠くへ飛ばそうとするという点でダンスとアクロバットは共通していて、さてそれではその両者を分かつものは何か。「芸術」と「芸能」あるいは「ショウ」と「見世物」のあいだにはどれほどの距離があるのか、あるいはないのか。読み終わってしばらく、そんなことを考えさせられた。

2004 03 27 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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