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[CD]: toorama : mordvin songs
toorama MORDVIN SONGS-Songs from Erzyan-Mordvin
MIPUCD 502/Mipu Music Oy/1996
日本ではブルガリアン・ヴォイスばかりが有名だけれども、東ヨーロッパ周辺のコーラスは、どこの国も面白いものが多いように思う。…などと偉そうな書き出しで申し訳ない。実際には私もそれほどたくさん聴いたことがあるわけではなく、せいぜいノンサッチとかキングレコードあたりが出している民族音楽シリーズのレコードをチェックしている程度なんではありますが。
確かにブルガリアン・ヴォイスの場合、一度聴いたら忘れられない強烈なハーモニーという強みはあるけれども、それに加えてしっかりとしたセールス・プロモーションが奏功しているのも確かだ。ご存じの方も多いと思うが、マルセル・セリエが制作/録音したブルガリア国立放送合唱団(フィリップ・クーテフ創設)のものだけが、晴れて『ブルガリアン・ヴォイス(正確には Le Mystère des Voix Bulgares=ブルガリアン・ヴォイスの神秘)』と呼んでいいんだそうだ。ま、『六甲のおいしい水』みたいなものなんでしょうかね。
まあともかくアレのおかげで、バルカン半島はおろか広く東欧にはブルガリアン・ヴォイスしかないようなイメージさえできてしまった。なるほど、ブルガリアのあの女声コーラスが面白いことは認めよう。だけれども、たとえばそれじゃ男どもはいったい何をしているのだ? 彼らは歌を歌わないのか?
そんな疑問に応える…というわけでもないが、この一枚はどうだろう。ただし、これはバルカンものではなく、地理的にはうんと離れたロシアは MORDVA モルドヴァ共和国の男声合唱である。ややこしい話だが、ルーマニア系の国 MOLDVA(旧名モルダビア)のことではない。モスクワの東、ヴォルガ川中流に位置する小さな共和国だ。モルドヴィアとも呼ばれるからさらに混乱しやすいんだけれども、L と R では全然違う国であります。…ま、こう書きながらも、私も行ったことも見たこともない土地なので、何のイメージも湧かないんですけれども ^^;)
toorama のメンバーは、男性ばかり6人。ソプラノヴォイスの少年もいて、「男声合唱」というごつごつしたイメージはなく、もっと軽やかである。そのハーモニーは天にも突き刺さるかのような衝撃的なものではなく、はるかにおおらかで、人なつこい。
モルドヴァはゆるやかな丘陵地帯と平原が多く、大陸性のおだやかな気候の土地だそうだ。なるほどそう言われてみると、ここに収録されている音楽もそれにふさわしく、とてもゆったりとした懐の深いものに聴こえてくるから不思議だ。
それから、このCDには楽器をいっさい使っていないのも特に気にいっている。だからアルバムぜんたいが非常に落ち着いているし、たとえば夜中などに小さな音で静かに聴くのにはちょうどいい一枚なのだ。もちろん大音量で聴くと、コーラスに包み込まれるような感じがして、それもまたいいんだけれども。いずれにせよ、人間の声だけでつくりあげられたハーモニーが、なんと微妙で繊細な美を表現していることか。繰り返し聴いても聴き疲れしないのは、やはり人間の声の持つ力のゆえだろう。
「コール・アンド・レスポンス」というのとは少し違うのだろうけれど、数小節ソロでリードをとり、続けて全員のポリフォニー・コーラスになる、という唱法がほとんどのトラックで聴ける。ブルガリアン・ヴォイスにも確かそういう演目があったように記憶しているが、ひょっとするとユーラシアからバルカンまで、かなりの範囲で一般的な歌唱スタイルなのだろうか。
全16曲で、ブックレットには歌詞の英訳も載っている。たぶんサリ・カーシネン好みなんだろう、これがフィンランドの MIpu Music からリリースされているというのも面白い。
2004 04 26 [face the music] | permalink Tweet
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