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[Live]:ジェフ・マルダーを、磔磔で聴く。

 ふだんなかなかライブハウスに足を運ぶことができない生活なので、うかつにも磔磔が30周年というのをまったく知らなかった。なんとなく、もっとずっと以前からやっていたような気がしていたのだけれど。
 磔磔にはじめて足を踏み入れたのはいつだったか、そのときの出演者が誰だったか、今となっては全く思い出せないが、私が音楽に夢中になりだした頃には、すでにある種「聖地」のような存在になっていたように思う。今でも独特の「匂い」を持っている、いかにも学生の街・京都にふさわしいライブハウスのひとつと言っていい。
 
 「初めての出逢い」の記憶が曖昧なまま、という点では、私にとってはジェフ・マルダーも似たような存在かもしれない。洋楽を好むようになったごく最初期、1970年代後半から80年代初期あたりにかけて、今で言うアメリカン・ルーツ・ミュージックばかりを浴びるように聴いていた時期があった。LPレコードなんて年に数枚しか買えない。だから友人先輩ラジオのエアチェック等々、いろんな手段で借りまくり聴きまくっていたのだが、そんな中にジム・クウェスキンやイーヴン・ダズンといったジャグ・バンドも混じっていた。
 たとえばマリア・マルダーの名前をマッド・エイカーズで覚えたように、ジェフ・マルダーの名前もジャグ・バンドのレコードのクレジットで幾度となく目にしていて、いつの間にかその名を記憶したのだと思う。特に音楽的ヒーローでもアイドルだったわけでもないんだけれども、信頼できそうな好ましいミュージシャン。そういうポジションで、自分のなかに刻み込まれたのだろう。
 「原風景」などと書くほどのものでは、決してない。ジェフの音楽や、あるいはジャグ・バンドだけを必死になって追いかけていたこともないし、むしろ全く聴かなかった時期の方がはるかに長いのだから。とはいえ、今ではジェフ・マルダーという名前が、私の中で甘酸っぱいようなくすぐったいような感慨と共にあるのは、それなりにこちらも年を重ねたせいだろうか。
 
 
 
 さて、ジェフ・マルダー at 磔磔だ。上に書いたように、個人的には両者とも「気が付けばそこにいた」存在である(世に出たのはジェフの方が10年以上早い)。だから、というのでもないだろうが、ジェフはまるでこのハコが生まれたときからずーっとここに居るような顔をしていたように、私には見えた。そう、彼は実に自然に、店の風景に溶けこんでいたのだ。なんだかそれだけで、もう嬉しくなってくる。
 場内が静かに暗くなって、ふと気が付けばジェフ・マルダーはもうステージに座っていて、おもむろに……あれはダブル・オー・シリーズだろうか? やや小振りのマーティンを淡々と爪弾きながら、ブルーズを歌いだす。ピックを着けず、指の腹で弦をはじく。その音色も、そして彼の声も、とてもあたたかだった。
 
 ライブが始まってからの約2時間は、至福のひとときだった、と書くのがもっともふさわしいだろう。熱心なジェフ・フリークではないから彼のレパートリィなどほとんど知らないのだが、どのナンバーも古い友人のような懐かしさを覚えるのは何故なんだろう。私はひたすら、ジェフ・マルダーのギターが刻むリズムに身を委ね、トニー・マーカスのフラット・マンドリンが奏でるブルージィなメロディに恍惚となり、そしてフリッツ・リッチモンド(そういえばこの名前もジム・クウェスキン・バンド以来だ)の飄々としたプレイに大笑いしていればよかったのだ。
 音楽と、それを演奏する人と、さらにそれを包む空間に、何の気兼ねもなく身を任せていられることの快感。ユーモアもメランコリーも、うち解けたリラックスも繊細なこころ配りも、どれもみなこの場にあった。それも、とても上質で品の良いかたちで。「都会的で知的なリヴァイヴァリスト」というかつてのイメージはそのままに、さらにオトナの熟成された味わいがプラスされて、ジェフ・マルダーの歌声はすうっと私の中に沁みていった。
 
  
 
 28日の京都公演が終わると、ツアーとしてはあとは30日の東京を残すのみだ。アンコールの時だったか、ジェフが「もうすぐ日本を離れるんだ…」と寂しそうに話すと、すかさず客席から「ずっとおったらええねん」と声が飛び、客席中に共感の微笑みが広がった。
 ぜひまた来てね。

●2004年4月28日/京都・磔磔にて。

※今回のツアーの、横浜でのライブの様子が、Smackwater Jack:ひみつの契約は毎日交わされているの中に、とても素敵な文章で記されています。こちらもどうぞご一読を。

2004 05 01 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

こちらのエントリをご紹介いただいて(しかも最上の言葉で)、遅ればせながら大変恐縮です。ありがとうございます。

「都会的で知的なリヴァイヴァリスト」という表現は、まさに膝を打つ絶妙な語感でして、そうそう!それを云いたかったんだ!と感心しきり。会場の雰囲気も、音楽の素晴らしさも、とんがりやまさんの音楽遍歴を含めて幸せな気持ちで拝読しました。好きな音楽について、好きな文章で表現されたものを読む至福です。ああ幸せ。やっぱ大人は違うな。はやく大人になるぞ。

GWは私にとって仕事週間でしたのでコメントはできませんでしたが、他エントリの音楽他、自分にとっての未開の地に踏み込むきっかけとして大変面白く拝見しております。これからもよしなに。

posted: swj (2004/05/05 21:00:35)

コメントありがとうございます。
本文には書きませんでしたが、トリオって形式が割と好きなので、そういう点でも満足度の高いライブでした。

posted: (2004/05/06 11:05:36)

はじめまして。swjさんのところから飛んできました!
磔磔は私も、原点でメッカなんです。今回の30周年も、すっごいめんつでしたね。
学生の時に通い詰めたのも今は昔。今は遠くにいるので指くわえてました。
ジェフと磔磔は、本当に自然に昔からそこになる、というような組み合わせですね。
素敵なレポ、堪能しました。特に
>ユーモアもメランコリーも、うち解けたリラックスも繊細なこころ配りも、どれもみな>この場にあった。それも、とても上質で品の良いかたちで。
ああ、わかるわかるわかります〜〜〜!!!それでうよね!
極上のすばらしさというか、音楽と人間の奇跡的な蒸留酒のような、そんな感じ。
私は、今回のライブに行けなかったのですが、めちゃくちゃ後悔してきました(泣
また遊びにきます。今後ともどうぞよろしく…。

posted: sato (2004/05/09 10:20:04)

はじめまして、コメントありがとうございます。
磔磔は、真ん中のあの柱がなけりゃもうちっと見やすいのになぁ、とも思いますが、アレも「味」のひとつでしょうね。
たまに夕方頃、店の前を通ることがありますが、早い時間から学生たちが並んでいるのを見ると、やっぱりうらやましいです(^^;
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。ライブレポなんて年に数えるほどしかできないですが…。

posted: (2004/05/09 23:49:33)

 

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