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[CD]:The Carter Family
オリジナル・カーター・ファミリーの全曲集といえば、かつてLPレコード10枚組、という強力なボックスセットが出ていた(1974年、RCA RA−5641〜50、参考)。当時の私には高嶺の花もいいところで、のちにCD復刻(1992年)されたらしいのだが、それもうっかり見逃してしまっていた。
英国のJSPという会社から、このCD5枚組のボックスセットが出たのが2001年。おそらく好評だったのだろう、2年後におなじく5枚組で第2集が発売された。ちなみに、第1集(1927〜1934)はテネシー州やニュージャージー、ケンタッキーなどで録音されているが、1935〜1941年録音の第2集はほとんどがニューヨーク制作だ。収録曲数は両方あわせると257曲におよぶ。RCA全集版には含まれていない30年代後半の録音が聴けるのが貴重。なにより、このボックスセットはお手頃価格なのがありがたい。私は大阪・梅田のタワーレコードで買い求めたのだが、第1集・第2集あわせても、邦楽の新譜を3枚買うよりもはるかに安いのだ。
この手の廉価版CDボックスというと、音が悪かったり編集がいいかげんだったりで、まあとりあえず音さえ鳴ってればいいか、というモノも中にはあるんだけれど、このセットはその辺がわりとしっかりしているのが嬉しい。音に関しては、戦前の録音でもあることだし、聴く前からだいたい想像はつく。正直、ヴォリュームをあげるとヒスノイズもきついし(聴き続けていると不思議に気にならなくなるものだが)、録音時期によってはクォリティにばらつきもあるけれども、まあがんばっている方ではないかな。Sara のオートハープがはっきり聞こえるのは、ありがたい。
録音、ということでいえば、意外に後期のニューヨーク録音の方が重苦しかったりするのだが、これは録音機材のせいなのか、原盤の状態なのか、あるいは演奏者がわの問題なのか、もっと複雑な要因がからんでいるのか。ともあれ、1927年から28年あたりの最初期のプレイは、やはりそうとう素晴らしかったのだ、ということはあらためて感じた。演奏者の「気合い」の度合いが、あきらかに違うのだ。うたも演奏もスコーンと明るく突き抜けていて、スピード感もあるし、とにかく感覚がモダンなのがびんびん伝わってくる。こうしてまとめて聴くと、カーター・ファミリーが現れた当時の衝撃がよく分かる。
この全集は録音年月日順に並べられている。録音データがきちんと記載されているのはさすがだ。また、各巻のスリーブ裏面についている解説もこのシリーズのために書かれたもので(筆者は Louisa Hufstder)、コンパクトながら全巻通して読むと彼らのバイオグラフィと音楽的業績が一通りわかるようになっている(と、思う。まだ全部を読み切れていないので^_^;)。これで歌詞までついていたら何も言うことはないのだが、さすがにこの価格でそこまでは無理か。ま、歌詞だけならSong texts of the original Carter Familyというサイトなどもあることだし、わたしとしてはなんの不満のないボックスセットであります。
Louisa の解説のなかで私が興味深かったのは、コピーライト表記の件。カーター・ファミリーの演奏する曲はほぼ全てがA.P.カーターの名前で著作権表示されているのだが、もちろんA.P.が書いたオリジナルばかりではない。彼らが吹き込んだ曲にはヴィクトリア期のパーラー・バラッドや作者不明のゴスペルも多いのだが、そういう“Public Domein”をA.P.名義でどんどん出版し、ロイヤリティはプロデューサーのラルフ・ピアと折半したという。こういうやり方は、長い間あたりまえのことだった(たとえば、五十嵐 正さんのブログ"Tadd"pole galaxy:Public Domain Reform参照のこと)。20世紀の商習慣はそれとして、おそらくこれからの研究者は、さらに「そのオリジン」を辿っていこうとするだろう。本シリーズの解説書でも、わずかながらその一端に触れているのは、いかにも21世紀に入ってからのCD全集らしいと思った。
10枚も聴くのはちょっと多すぎるというなら(確かにおなかいっぱいになります)、やはり前期の第1集がおすすめ。タワーには、ヒット曲だけを集めた620円の1枚ものCDも売っていた(こちらは店頭で眺めただけなので、発売元・品番とか正確なタイトルは忘れました)ので、とりあえずという向きにはこちらの方がいいかも。
The Carter Family 1927-1934
JSP RECORDS JSPCD7701(2001年)
The Carter Family volume2 1935-1941
JSP RECORDS JSPCD7708(2003年)
Sleeve art:Andrew Aitken Design
2004 06 14 [face the music] | permalink
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