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[DVD]:水月

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 今年2月に初来日公演も果たした台湾のクラウド・ゲイト舞踊団の DVD。国内盤ではないが日本の普通のプレーヤーでも OK で(NTSC。リージョンコードは1〜5、7、8)、日本語字幕も選択可能(他に仏語、スペイン語)。もっとも、ダンス作品そのものは言葉を一切使わないから関係ないんだけれども、特典映像の『Behind the Scenes』が日本語字幕で観られるのがありがたい。それもちゃんとした日本語なのだ。版元はドイツの会社のようだが、これには偉いッ! と特記しておく。海外盤でたまに日本語字幕のつく DVD があるが、中にはひどい翻訳のものもあるからねえ。
 
 残念ながら来日公演には行くことができなかったので、私はこの DVD が初めてだ。台湾で絶大なる人気のモダン・ダンス舞踊団である、ということ以外に予備知識もなにもない。まずは観ることが先だ。
一見してすぐに分かるのは、 『Moon Water』での身体の動きの基本は、そうとう東洋的だ。腰を落としたどっしりとした構え、腕を直角に曲げ手首を内に返すポーズなどは、そのまま気功か太極拳のそれを思わせる(本編の後で見たのだが、コレオグラファー Lin Hwai-Min は特典映像収録のインタビューで、太極拳の動きである、と何度もコメントしていた)。ミューシャ・マイスキーの奏でる J.S. バッハの無伴奏チェロ組曲にあわせて、ソロから10人の群舞まで、さまざまなバリエーションが演じられる。
 
 太極拳的身体、ということとおそらくは関連するんだろうが、この作品にはあまり「人間くささ」を感じない。時にユニゾン、時にハーモナイズされた動きが次々にあらわれる構成は、まるで風や水の流れや波紋を思わせる。『水月』というタイトル通り、自然界を支配する「目に見えない力」をそのまま具象化した作品だと思う。このあたり、西洋のモダン・ダンスがどれほど身体を無機質/抽象化しようとも、ダンサーのオーラや演出家の芸術観がそこはかとなくにじみ出てしまうのとは、拠って立つ位置を全く異にしているのではないだろうか(たとえば、男女一対が登場する舞台で「ジェンダー論」から完全に無縁になれる作品はごく少ないのではないか)。
 
 ラスト近く、気がつけばステージにホンモノの水が流れている。徐々に舞台は水でいっぱいになり、ダンサーはあたかも湖面を滑っているかのようだ。天井近くとホリゾントに取り付けられた鏡が青く光り、幻想的な光景が現出する。

 
 DVD『Moon Water』を興味深く観終えて、ナマのステージならもっと凄かったんだろうな、と思いつつネット上を検索してみた。いくつかのサイトを読んだが、必ずしも誰もが高評価というわけではなかったようだ。退屈した、という感想が少なからず見られた。
 海辺で波打ち際を眺めるのって、退屈しないと思うんだけどなあ。
 
●Moon Water  Cloud Gate Dance Theatre Of Taiwan
 Choreography by LIN HWAI-MIN
 65 min.+ Special Feature 20 min.
 Sound Format:PCM Stereo, Dolby Digital 5.0, DTS 5.0
 ART HAUS MUSIK 100 375/2000年
 Package Design:Kinowelt Home Entertainment GmbH


2004 06 27 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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