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南海ホークスがあったころ
連日のプロ野球界の騒動を眺めているうち、そういえば、とこの本を思い出した。ちょうど一年前の2003年7月に発売された本だが、まさか翌年こんな騒ぎが起ころうとは、著者もまったく思わなかったに違いない。
「南海ホークス」が「福岡ダイエーホークス」に変わることが決まったのは1988年のシーズンだった。そうか、あれから16年か。長いような、短いような。南海ホークス最後の試合を描いた水島新司『あぶさん』41巻(小学館・ビッグコミックス)は、いま度読んでも涙ものであります。
日本のプロ野球史を「パ・リーグ」から描く、それもファンの視点で描く、という一点において、この本は貴重である。著者である永井良和氏には『社交ダンスと日本人』(晶文社刊/ISBN4-7949-6066-2/1991年)、橋爪紳也氏には『日本の遊園地』(講談社現代新書1520/ISBN4-06-149520-8/2000年)という著書があって、私はそれぞれの本を非常に面白く読んでいたし、かつ昭和のプロ野球史にも少しは関心があったので、この本はすぐ買って、あっという間に読み終えた。両著者の研究フィールドが都市の社会学——それも関西圏が中心だ——という個人的に非常にとっつきやすいジャンルなので、そのふたりの共著となれば、これはもう買うしかないっしょ、読むしかないっしょ、なのである。大阪の書店では当時どこでも平台に山積みになっていたのだが、他の土地ではどうだったんだろう。
ベースボールという競技はどういう経緯で日本的に「興業化」したのか。かつての関西プロ野球チームのオーナー企業はなぜ私鉄ばかりだったのか。どうして日本のプロ野球は巨人中心になったのか。そして、そのなかで何故阪神タイガース「だけ」がセ・リーグなのか。野球ファンはどうしてセ・リーグばかり注目するようになったのか。近・現代の文化史の一断面として、古い野球ファンならあるいは「常識」かもしれないこれらのことどもを詳しく追った同書は、オリックスと近鉄両球団の合併がなぜこれほどまでに社会問題になっているのかいまいちピンとこない向きにとってはまたとない「歴史の教科書」になるだろう。大阪随一の野球チームといえばそれはすなわち南海ホークスで、しかもジャイアンツの最大のライバルだった時代が確かに存在したという事実を、人は簡単に忘れるべきではない。巨人=阪神戦を「伝統の一戦」と呼んでなんの躊躇もない、軽佻浮薄なスポーツ新聞からでは決して得られない「もうひとつの野球史」が、ここにくっきりと描かれている。
この本が出た時、『週刊ベースボール』誌の書評欄に「あまり売れないだろうな、この本」と書かれて、他人事ながらがっくりした記憶がある(2003年9月1日号)。そりゃあパ・リーグってのは、今やとことんマイナーな「ジャンル」なんだろうけどさ。せめて野球専門誌くらいは、もっと提灯持ちしてやりなよぉ。
ということで、ここんところ「にわかパ・リーグ・ウォッチャー」になった方にこそ、この本をおすすめしますです。ここに詰まっているのは、単なるノスタルジーだけではないはずだから。
●南海ホークスがあったころ 野球ファンとパ・リーグの文化史
永井良和・橋爪紳也共著/紀伊國屋書店/2003年7月刊
ISBN4-314-00947-0 装幀/緒方修一
2004 07 02 [booklearning] | permalink
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