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9分間で旅する、極限から極限への世界

EAMESFILMES.jpg ミッド・センチュリー・モダン・デザインに偉大な足跡を残したイームズ夫妻は、同時に映像作家としても非凡な才能を示しましたが、その代表作として誰もが挙げるのはやはりなんと言っても「POWERS OF TEN」でしょう。日本でも過去に何度かTV放送されたり、レーザーディスクでリリースされたことがあります。また、最近では、2001年に東京と大阪で開催された『イームズ・デザイン展』に合わせて発売された DVD にも収録されているし、同展覧会場でも上映していたから、ご覧になった方も多いでしょう。
 
 
 
 
 
  
●EAMS FILMS チャールズ&レイ・イームズの映像世界
 アスミック・エース・エンタテインメント AEBW-10061
 58分/カラー(一部B/W)/NTSC/リージョン2
 Package Design:Lucia Eames/2001年
 
 
 シカゴのミシガン湖畔にピクニックに来たカップル。昼食を終え、男は芝生にごろんと寝そべる。この男を囲む1メートル四方を、1メートル上空から捉えたショットから、映画は始まります。10秒後に10メートル離れ、以後20秒後に10の2乗メートル(100メートル四方が視界に入る)、30秒後には10の3乗メートル(1000メートル四方)…という具合にカメラを引いて…つまり、男から遠ざかっていくわけですね。1分後に地球全体が見えますが、そのあとも視界はぐんぐん離れていきます。太陽系を飛び越え、銀河系を脱出し、10の24乗…つまり地球から離れること1億光年の先にまで到達すると、今度は逆コース。あっという間にピクニックの男に近づき、10秒ずつかけて10のマイナス2乗メートル、10のマイナス3乗、マイナス4乗…とミクロの世界へ潜り込みます。最後に10のマイナス16メートル、つまり原子核の内部に辿り着いて、映画は終わります。この間、映画自体はわずか9分足らず。まことに壮大な「ピクニック」です。
 
 目眩がするほどの圧倒的なスケール感をともなったこの映画は、イームズ夫妻が1968年に「ラフ・スケッチ」として映像化。その後、1977年に IBM がスポンサーとなり、さらに精度を高めた映画「パワーズ・オブ・テン」として完成します。オランダの科学者 Kees Boeke が1957年に『Cosmic View, the Universe in 40 Jumps』という本で提示したコンセプトを元にしているとは言え、ここまで感動的な映像として表現できたのは、やはりイームズの才能というべきでしょう。
 
 「Powers of Ten」はエデュケーショナル・ソフトの優良コンテンツとして早くから評価が高く(80年代初期にはもう日本語版書籍が出てました)、凝った作りの公式サイトも有名ですね(Powers of 10って Trage Mark になってるんですね…汗)。このサイトから書籍やインタラクティヴCD-ROMなどの関連商品も買えるようです(ちなみに、書籍の日本語版は日経サイエンスから、インタラクティヴ CD-ROM 日本語版は DATT JAPAN からそれぞれ発売されています【2005年12月追記:すでにDATTからの販売およびサポートは終了してます】)。
 
 
 また、イームズ映画とは別に、Molecular Expressions というサイトでもこの「スケールの大冒険」を疑似体験することができます。
 Secret Worlds: The Universe Within
 
 ここの見せ方は、イームズのそれとはかなり違いがあって、面白いです。イームズの偉い点は、まず人間を起点にしたところで、そこから“2001年宇宙の旅”へ、あるいは“ミクロの決死圏”へと、双方向の旅行を一気にやってのけてみせます。このあたり、「ヒトのサイズ」が常に仕事の基本となったイームズ夫妻の<プロダクト・デザイナーならではの発想>といえるでしょう。対してこのサイトは一直線。極限の宇宙から始まり、だんだん地球に近づいていって、地表の植物(オークの木の葉っぱ)にズームインし、さらにその内部へと進むことになります。ここには一切「人間」が出てこないんですね。もっとも、ヒトを出してしまうとまんまイームズのパクリになってしまうために、出したくても出せなかったのかもしれませんが…。
 ま、いずれにせよ、根本のアイディアが面白いから、このサイトだって眺めていて飽きさせません。上記Powers of 10の公式サイトが、微に入り細を穿つような構成でかなり「お勉強モード」になっているのに比べると、こちらは英語がわからずともじゅうぶん楽しめます。
 
 こういうのを見ていると、たいていのことはささいなコトじゃないの、っていう気分になりますよねえ。
 
 

2004 08 04 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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