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GOOD OL' CHARLIE, GOOD OL' DAYS

ブックデザインのステキさが、上の写真から伝わるかどうか。どなたもご存じ、Charles M. Schulz(1922-2000) の PEANUTS COMICS であります。
もっとも、この本はコミックスではなく、Artbookです。PEANUTS の前身である『Li'l Folks』を含むシュルツ氏のごく最初期の作品や、エンピツ書きのラフスケッチ、50〜70年代に制作されたキャラクター・フィギュアなどを多量に収録していて、この不世出の漫画家を知る上で、本書が貴重な資料になっていることには間違いないのですが、それ以上に、編集やブックデザインがいかにもアメリカっぽくて、いい感じなんですね。
●PEANUTS The Art of Charles M. Schulz
Pantheon Books, New York/Random House Inc./初版2001年、上の写真は2003年のペーパーバック版
Edited by Chipp Kidd
Cover Design by Chip Kidd
Cover Illustrations by Charles M. Schulz
Cover Photography by Geoff Spear
ISBN0-375-71463-4
リンクした Pantheon Books のサイトには、最初の版と思われる(ハードカバー本だったのかな?)表紙が載っています。そちらは直接手にとってみたわけではないので、比較するのは少々無茶なんですが、表紙デザインは私は断然こちらの Paperback 版が好き。アメリカってつくづくポップ・アートの国なんだなあと、こういう本を見てるとしみじみ嬉しくなってきます。
本文に掲載している作品も、切り貼りの版下や昔の新聞の切り抜きをそのまま複写するなど、時代の雰囲気をそっくり再現している感じ。すっかり日にやけた新聞紙に、四隅に変色したセロハンテープの痕があるあたり、はっきり言って泣けますよこれは。日本で同種の本を作るなら、たぶんできるだけ原画から忠実に版を起こし、原画以外の「ノイズ」は製版技術を駆使して可能な限り消そうとするでしょ。もちろん、それはそれで良さがあるんでしょうが、それじゃあもちろん「ポップ・アート」にはならないんですね。
いま「ポップ・アート」と書きましたが、オリジナル原画よりも新聞や安雑誌などに大量に印刷され、複製されたモノそれ自身に対する信頼の方が高いというか、端的にそちらを「善」であるとする態度というのがここにはあって(巻末に寄せられた画家アンドリュー・ワイエスの言葉を借りるなら、これもまた American way of life ということになるでしょうか)、同時にそれらが無邪気に「善」でありえた時代への愛情が、この本の隅々にまで詰め込まれている……などという風な、妙な分析をしてしまうのは、たぶん私がアメリカ人ではないからかもしれません。
けれども、ここに収録されている図版に1950年代の(ということはPEANUTS の歴史からいえばごく最初期の)ものが比較的多いのは、おそらく偶然ではないでしょう。PEANUTS コミック・ストリップのタイトルに、作者はときどき『featuring "Good ol' Charlie Brown"』と付けていましたが、それに倣うなら、本書のバックグラウンドには『featuring "Good ol' Days"』とでも言うべき性格づけがなされているように、私には思えます。
編集とデザインを手がけた Chipp Kidd という人はグラフィック・デザイナーでもあるそうで、言われてみればなるほどとナットク。こういう作り方は、実は想像以上に手間がかかるものですが、<わかっている>人の手になる仕事というのは、やはり見ていて気持ちがいいものです。
2004 08 02 [design conscious] | permalink
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