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「調べる」という技術

面白い。役に立つ。そして、スカッとする。
Bee's Webさんの2004年7月27日付の日記で教えてもらったこの本、私はあっという間に読んだが、といって決して軽い内容ではない。
●自分で調べる技術 市民のための調査入門
宮内泰介著/岩波アクティブ新書117
ISBN4-00-700117-0/2004年7月刊
装丁者名記載なし
「マスコミが伝えてくれなかった」と私たちは言いがちです.「マスコミはもっと〜について伝える必要がある」という言い方もよく聞かれます. しかし, これは, これからの時代, 言ってはならない禁句ではないかと思うのです. (11ページ)
と著者は言う。私たちの興味の対象が人によって千差万別である限り、「知りたいこと」はそれぞれ異なるはずである。だからこそ、「知りたいことは自分で調べる」に限るのだ。
毎日テレビや新聞を賑わせているさまざまな問題について、マスコミが伝えるニュースだけで「うむ。全部わかった」という人はいないだろう。興味がないからどうでもいいや、という人なら、あるいはいるかもしれないが。
毎日を生活していく上で、「え、これってどういうこと?」とか「なんでこういうことになってしまったの?」という疑問は無数に存在する。そういうとき、自分で調べるという「技術」を持とう、と著者は主張する。
技術指南の書だから、この本はとうぜん具体的な「調べ方のノウハウ」の解説が主な内容になる。
と書くと、インターネットを扱い慣れた方なら「なんだ、検索のコツを書いたものか」と思うかもしれない。そうではない。たしかに、「調べる」ということについて、今やインターネットは欠かせない道具であることも確かだが、著者のスタンスは違う。
歩いて調べる, 人の話を聞く, ということは, 調査の基本中の基本です. どれだけ活字情報があふれ, どれだけインターネット上の情報があふれていたとしても, この世の情報のほとんどは, 書かれることもなく, 人々の頭の中に眠ったままです. (18ページ)
冒頭で「スカッとする」と書いたのは、こういうことをきちんと書いてくれているからだ。
ただ、こういう考え方は、ひょっとするとやがては貴重な意見になってしまうのかもしれない。原風景として、ものごころがついたときからすでにパソコンがあり、義務教育の授業中に世界中のウェブサイトを見て回れた世代が、人口の何割かを占めるようになる頃には、「調べる」とはまず、何をおいてもまず「検索」でしょう、というのが常識になってしまうような気がする(どこかのサイトに転がっていた誰かの「感想文」を、ちゃっかりコピー&ペーストしてレポート一丁あがり、という程度なら、すでに日常茶飯事かもしれない)。
だからこそ、こういう本が今後ますます重要な意味を持つようになるのだ、という言い方もできる。ネット検索でこと足れり、というのが「常識」になる前に、中学か高校あたりで本書をテキストに使ってきっちりと教えてはどうだろうか。
何かについて調べるということは、結局のところ「自分は何を知らないか」を検証していく旅に他ならない。言い換えれば、「自分はこれがわからない」をひとつひとつ確認していく作業である。
「調べれば調べるほど分からなくなってゆく」という経験は、たぶん多くの方がお持ちだと思う。調べていくうちに、そもそも最初に立てた設問じたいがはなはだ見当違いだった、ということだってある。いったい自分は何を知りたかったのだろう、と迷路に入ってしまって、身動きが取れなくなることだってある。
調べるとは、つまりはそんな迷路の中で、それでも出口を探すべく考えてゆく過程のことでもある。本書の表題『自分で調べる技術』は、だから『自分で考える技術』と言い換えてもいいだろう。調べることが楽しくなれば、それについて考えることもまた楽しくなる…はずだから。
2004 08 08 [booklearning] | permalink
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comments
気に入っていただけたようで嬉しいかぎりです。
著者は現在ソロモン諸島に滞在中とのこと。
「行動派」かどうかはちょっと怪しいところですが(^^;)。
今後もご贔屓にどうぞ。
posted: beeswing (2004/08/10 1:20:39)
コメントありがとうございます。
beeswingさん、良い本を教えてくださって感謝です。
仕事の上でももちろんですが、こういうブログで記事を書く際にも参考になることが多かったです。
>著者は現在ソロモン諸島に滞在中とのこと。
おお〜。何かの調査なんでしょうか。
出不精のワタシからすれば、ものすごく「行動派」でらっしゃいますぅ。
posted: とんがりやま (2004/08/10 18:09:21)