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[VIDEO/BOOK]:DANCING〜世界のダンス

本書は全8巻からなる同題のヴィデオシリーズの書籍版である。TV放送もされたそのシリーズは1993年制作(ヴィデオリリースはおそらく1997年?)で、書籍版の初版も同時期のはずである。
おそらく、とか、はずである、などとあやふやな書き方をしているのは、本書のどこにも原著の刊行年などの書誌的な記載がないからで、確実なのは日本語版の初版が2000年4月である、ということだけだ。
まぁそれはともかく、本書およびヴィデオの試みがユニークなものであることには間違いない。もともとダンス研究というのはそれほどメジャーなジャンルでもないらしく、自分で踊ったり、あるいは超人的な舞台を観るのは大好き、という人はたくさんいても、ダンスについて考えるのが三度のメシより好きという人は、あまりいないということなのだろう。
その理由として、ダンスについて考えるといってもダンスというフィールドそのものがあまりに広大すぎて、どこから手をつけていいかわからないという点があげられる(だから、しばしば「踊りの宇宙」などという言い方がされる)。民族文化、歴史学、宗教学、社会学、ジェンダー論、身体論、芸術論、美学…などなど、「ダンス」はちょっと思いつくだけでもさまざまな学問領域を越えてそこに在る。研究する側も、またその研究成果を享受する側も、それなりの広範な予備知識がなければ、とても歯が立たないのである。
さて、そこで本書だ。いま書いたように、「ダンス」を考えるポイントは無数にある。そのことをよく分かった上で、なおも「ダンスをできるだけ広い視点から総合的に眺める」という、蛮勇にも似た試みをあえてしている点で、この本はきわめて興味深い。
大型の版型のこの本は、カラー写真や図版を多く含んでいるので、書籍版だけでも資料価値は高いのだが、やはり制作者の意図どおりヴィデオシリーズと合わせて評価されるべきだろう。ただし残念ながら、ヴィデオ版は日本語化されていない(ひょっとすると過去にNHK教育TVあたりで放映されたことがあるのかもしれないが、私は未見)。逆に、書籍だけでも日本語版で刊行されたおかげで、英語がよく理解できなくともヴィデオ版がある程度は鑑賞できるようになったとも言える。いずれにせよ、ダンスは動きが命。たとえ言葉がわからなくとも、ヴィデオシリーズを観る価値はじゅうぶんある。
●世界のダンス——民族の踊り、その歴史と文化——
ジェラルド・ジョナス著・田中祥子、山口順子訳
大修館書店刊/2000年4月初版
ISBN4-469-26436-9 装丁/下田浩一
●DANCING(全8巻・VHS Hi-Fi)
Created by Rhoda Grauer (Executive Producer)
Produced by Thirteen / WNET in association with RM Arts and BBC-TV
58 min.×8
KULTUR International Films, Ltd.※ No.1537(0012〜0019)
1993年
※このエントリを書いている2004年8月現在、KULTUR サイトではカタログに見あたらないようだが、たとえばAmazon.com ではまだ買えるようだ。いずれにせよ発売後それなりの時間が経ち、いつ入手困難になっても不思議ではないタイトルではある。気になる方は、早めに入手しておくに越したことはないと思う。
以下、章立てを書き写す。邦題は日本語書籍版から、英題はヴィデオ版からそれぞれ採っている。
- ダンスの力 The Power of Dance
- 踊りの神 Lord of the Dance
- 国家と舞踊 Sex and Social Dance
- 社交の踊り Dance at Court
- 古典舞踊の舞台 New Worlds, New Forms
- ダンスの新世界 Dance Centerstage
- ダンスの近代化 The Individual and Tradition
- ダンスの国際(グローバル)化 Dancing in One World
なお、書籍版とヴィデオ版では第5章と第6章が入れ替わっている。従って上のリストでは邦題と原題が一致していないことをお断りしておく。
本書の原題は《DANCING The Pleasure, Power and Art of Movement》と言い、けして意識が「民族舞踊」のみに傾いているわけではない。むしろ、西ヨーロッパの宮廷舞踊からバレエ/ボールルーム・ダンスに至るいわゆるメイン・ストリームも、あくまで「ダンスのいちジャンル」と捉えて他のダンスと並列に扱っている。それに比べると邦題の方が「世界の」「民族の」とことさらに強調している分、かえって「いわゆる民族舞踊」という枠組みに囚われているような気がしないでもない。
もちろん、ふだんなかなか観ることのできない、世界中のいろんな民族舞踊が、ここではふんだんに取り上げられている。しかし、原著者の視点は「世界の珍しいフォーク・ダンスの紹介」ではないのはあきらかである。言語も住環境も背負っている歴史も全く異なるのに、人間はみな踊る。それは何故だろう? ダンスとは、人類にとってどういう意味があるのだろう? そんな、シンプルだけれども根元的な興味から、この企画は始まっているのだ。
だからこそ、というべきか。にもかかわらず、というべきか。《DANCING》シリーズは難しいし、面白いし、奇妙だし、楽しい。本書を読み、ヴィデオを全て観終わった頃には、「人間は考える葦なんかではなく、踊る足である」と言ってしまいたくなる。ダンスについて考えたい、ダンスについて何ごとかをわかりたいと思ってこの本を買ったはずなのに、読後には「やっぱり人間ってヘンだなぁ、ダンスってフシギだなぁ」が残るのである。もちろんそれは本書が悪いのではない。功罪でいえば、むろん「功」の方である。
本書では、世界に広がるダンスの集成資料の中から、次のような点に注目してダンスの具体例を抽出した。まず、ダンスの進展、伝統を守るための努力、そして古いダンスを新たな目的に適合させている例など、歴史的に重要な問題への洞察を提示してくれるものである。同時に、舞台芸術の形式とそうでないダンスなど、異文化相互間の比較ができるものを抽出した。これらは世界のダンスの一端を示すものでしかないが、より広がりをもった普遍的な問題に光を投げかけてくれるものであると考えて選択の対象とした。特殊な事例を深く探究することによって、世界中に広がるダンス文化全般を考える新たな見解を生むことができればと願っている。(本書11ページ・「序章」より)
なお、ヴィデオ版第6巻には三代目市川猿之助、五代目板東玉三郎、片岡孝夫らの歌舞伎座での舞台が収録されている。
細部の議論はともかくとして、ダンスそのものをまるごと捉えなおそうと言う企てを、質の高い内容で書籍とヴィデオという形に見事まとめあげた関係者の熱意に対し、感謝を込めて特大のスタンディング・オベーションを贈りたい。
2004 08 17 [dance around] | permalink
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comments
ダンス!
すごく興味深い本ですね。
チェックしてみます。
posted: akino (2004/08/19 22:45:00)
