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コンテンポラリー・ダンス meets トラディショナル・ミュージック

 

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 Rambert Dance Company は、ポーランド人の Marie Rambert によって英国で1926年に結成された。1960年代にバレエからコンテンポラリー・ダンスへ方向転換し、さらに1987年には、それまで Ballet Rambert だったカンパニー名を現在のように改めている。英国では歴史のあるダンス・カンパニーのひとつだ。
 
◎Rambert Triple Bill  Rambert Dance Company
 KULTUR ISBN 1-56127-085-7/1987年 98 min. 
 
 このビデオには3つのオリジナルダンス作品が収録されている。ひとつ目がロック/ポップスを使って都会の荒廃と孤独を表現した《Lonely Town, Lonely Street》、最後がヤナーチェクの弦楽四重奏を使用した《Intimate Pages》。そして、その間に入っているのがブリテンやアイルランドの伝統曲を素材にした《Sergent Early's Dream》である。
 
 1984年10月初演というこの《Sergent Early's Dream》は、以来カンパニーの重要なレパートリィになっているようだ。というのも、現在ヴィデオとして入手可能な Rambert のダンス作品集は、KULTURが制作・販売している上記ヴィデオと、カンパニーのサイトで買える『Different Steps Video Pack』というヴィデオのふたつだけなのだが、本作だけはそのどちらにも収録されているからだ。ちなみに、コレオグラフは同カンパニーの芸術監督を長く担当していた Christopher Bruce の手になるもの。
 
 
 ポップスや民俗音楽などのいわゆる「大衆音楽」を、コンテンポラリー・ダンスの素材に使うという手法は、どうやらこのカンパニーの得意ワザのようだ。上記“ロンリー・タウン”や“アーリー軍曹”の他にも、1981年にはインカンテーション INCANTATION(デスメタルの方ではなくって、イギリス人初のフォルクローレ・バンドの方であります)をフィーチャーした《Ghost Dance》という作品も上演したことがあるという。
 話は逸れるが、そういえば《Sergent Early's Dream》と《Ghost Dance》がカップリングされたサントラCDを、ずっと昔知人に聞かせてもらったことがある。私も長い間手に入れたかったのだが、どうやら現在は廃盤になっているらしい。残念。
  
 
 正直なハナシ、ここに収録されている3本の作品のうち《Lonely Town, Lonely Street》と《Intimate Pages》は、さほど面白いとは思えない。たぶん発表当時はそれなりに斬新だったんだろうが、今の目で見直すと、あまり完成度が高いとも言えない。純粋にダンス作品として観るならば《Sergent Early's Dream》だってもはや古くさいだろうし、たとえば私のこの記事を見た方が「期待して観たのに面白くなかったぞバカヤロー」と文句を言ったとしても、そりゃそうかもなあ、とも思う。
 もっとも、「古い/新しい」ということで言うなら《Sergent Early's Dream》に使われているのは伝統音楽である。初演時からこのかた「新しかったことは一度もない」という言い方だってできる。とはいえ、愛/英/米のトラッドを使ったモダン・ダンス作品なんて他に観たことがないから、その意味ではやっぱり「いまだに新しい」とだって言える。うーん、どっちだ(笑)。
 
 ともあれ、私はこの作品を何度も見返してきた。その理由は、やっぱり好みの音楽が鳴っている、というのがいちばん大きい。

 もちろん、彼らがここで伝統的なアイリッシュ・ダンスやイングランドのカントリー・ダンスを踊るわけはない。この作品はチャイルド・バラッドを含む「歌詞つきの歌」を多く選曲していて、歌詞=物語をイラストレイトした振付が施されている。語法はいわゆるコンテンポラリー・ダンスなのだろうが突拍子もない抽象モノではなく、腕や指先といったパーツはもちろん、顔の表情までフル活用して、動きのスミズミにとことん「意味」を持たせている。加えて歌詞のないダンス・チューンにまでコントのようなオハナシが作られていて、もう至るところ「意味」だらけなのだ。実は、私にはこの「意味だらけ」というところが非常に面白かったのだ。
 
 伝統的なアイリッシュ・ダンスの大半は、身体の動きに意味をもたせず(あるいはすでに形骸化している)非常に抽象度の高い(というか図式的・幾何学的な)ダンスである。幾何学的、という点ではたとえば Riverdance も意外なほど「伝統的」である。それを考えると、Rambert の作品は「この音楽にしてこの意味のカタマリ」というギャップが面白さを生んでいるように思うのだ。ま、このへんはひょっとすると、単にコレオグラファーがトラディショナルなダンスを無視あるいは軽視していただけ、という見方も可能なんだけど。
 
 
 なお、画面には全く出てこないが、参加ミュージシャンは以下の通り。

・Maggie Boyle    vo., whistle, bodhran
・Paul Boyle     fiddle
・Paul Brennan     uilleann pipes, whistle, vo.
・Jacqui McCarthy  concertina
・Chris Swithinbank  guitar, vo.
・Mike Taylor     flute, whistle, bodhran, alto flute, vo.
・Steve Tilston    guitar, mandolin, mandola

 
 酔っぱらいの演技が大爆笑ものの〈Peggy Gordon〉から、静謐な哀しみを湛えた〈Barbara Allen〉まで、最後まで飽きさせないバラエティの豊かさもワタシ好み。最後は移民の話で終わるから、やはりアイルランドを舞台にしていると言っていいのかな。
 ともあれ、「どれだけアイルランド伝統音楽を使って踊っていても、絶対にアイリッシュ・ダンスたり得ない」こういう作品を眺めていると、それではいったいアイリッシュ・ダンスとは何だろうか、という設問が、逆に鮮明に浮かび上がって来るような気がするのである。
 

2004 09 04 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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