[magazine]:季刊 本とコンピュータ

創刊号からの定期購読者としては、本号を含めあと4冊でおしまい、というのがなんとも寂しい。…ま、正直書くと、ほとんど読んでない号も中にはあるのだけれども(苦笑)。
●季刊 本とコンピュータ 2004秋号(第二期13号)
トランスアート/20047年9月刊
ISBN4-88752-190-1
アートディレクション:平野甲賀
デザイン:木下弥・田中直子
※本とコンピュータ ウェブサイト
「終刊まで総まとめ特集・第一弾」と銘打って、今号は『本のために「コンピュータ」はなにができたか』という特集を組んでいる。以下、冬号では『日本人の読書習慣』、春号は『出版ビジネス』、そして最終号は『出版の国際化』をテーマにするという。これから1年間をかけてじっくり総括していく、という態度は腰が据わっていていい感じだ。どれも興味深い問題だが、この13号はその中でもとくに本誌の根本主題(だからむしろこのテーマを最終号に持ってくればよかったんじゃないか、とも思えるが)だっただけに、ひときわそそられる。
1997年7月、本誌創刊号に巻かれていたオビには、こうあった。
活字本と電子本、そして印刷——
本はどう変わるか。コンピュータは本の敵じゃない。
新しいものには、
古いものを
叩きつぶすだけ
でなく、それを
思いがけない
しかたで甦らせ
る力もある。
創刊!
そして、創刊特集は『コンピュータで本が読めるか?』である。
隔世の感、という言い方が適切かどうか。創刊の背景にあったのは、当時なんとなく漂っていた「コンピュータの出現によって本が消えていくかもしれない」という危機感だった。ただ、出版業界ともコンピュータ業界とも無縁の、普通のいち消費者の感覚としては、これはあまりぴんと来なかったし、今も実はよくわからない。私の個人的な感慨で言うと、インターネット上のテキスト系サイトやウェブログを巡回してまわる時間は飛躍的に増えたけれども、かといって本も毎月相変わらず買っているし、読書時間が目に見えて減ったということもないのである(おっと、この辺の話題は冬号のテーマにかぶるのかな)。
「本=旧」と「コンピュータ=新」は対立するものではなく、補完し合う関係になればいいと創刊号で言い、実際いまでは両者はそういう関係に近い。なにより「コンピュータは本の敵だ」という人は、おそらくもういないはずだ。
にもかかわらず、たぶん、出版業界は相変わらず「危機感でいっぱい」なんだろうなという気がする。外から眺めているだけなので、実体は知らないけれども。
ま、もっとも、今やどこの業界でも(たとえばプロ野球業界も含めて)危機感でいっぱいなのだが。客が集まらない、製品が売れないといった直接的な問題から、不祥事の発覚や人為的ミスの多発による信頼性の低下にいたるまで、毎日のようにどこかの「業界」のネガティヴな報道が流れている。いま「健全で安心な業界」ってえのが、はたしてこの世に存在するんだろうか。
最後にちょっと想い出話。同誌第一期の編集長(現在は総合編集長)の津野海太郎さんに『本とコンピューター』という著作がある(晶文社/1993年/ISBN4-7949-6133-2)。私は当時、それはそれは熱心に、この本にハマった。その頃から仕事でコンピュータを触る機会が増えてはいたが、それはあくまで仕事用の道具でしかなかった。だが、同書を読んで自分用の「パーソナル・コンピュータ」がどうしても欲しくなり、まもなくボーナスをはたいて新品のパソコンを買ってしまったのだ。一冊の本が自分に与えた影響としては、おそらくもっとも高価な部類に入る「出来事」でありました。
2004 09 13 [booklearning] | permalink
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