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マンガの中の大阪ことば
大阪を舞台にしたマンガはけっこう多いですよね。たとえば「じゃりン子チエ」(はるき悦巳)、「ナニワ金融道」(青木雄二)、「ミナミの帝王」(天王寺大/郷力也)あたりはナンバかその周辺。南海ホークス時代の「あぶさん」(水島新司)もいわずもがな。古いところでは「嗚呼!! 花の応援団」(どおくまん)がちょんわちょんわと大暴れしていたのは南河内大学でした。キタに行けば、「大阪豆ゴハン」(サラ・イイネス)の一家はたしか市内中心部(梅田近辺?)に住んでいたはずだし、東淀川では「バイトくん」(いしいひさいち)たちが安下宿共闘会議で遊んでいたし、やたらメ〜ル〜ヘ〜ンなマスターがいる「バーバー・ハーバー」(小池田マヤ)は吹田にあるお店なんでしたっけ。そうそう、連作「少年少女」(福島聡)の中の「ヨシコとゴロー」シリーズ。あれはたぶん大阪市内というより、その近郊って感じでしょうか。
いまサクッとぐぐってみたら、私が読んだことがない大阪マンガに「きらきらひかる」(郷田マモラ)「ラブ★コン」(中原アヤ)「アベノ橋魔法☆商店街」(鶴田謙二)などがあるようです。ふーん、「ラブ★コン」面白そう。
大阪が舞台ではなくとも、たとえば「ののちゃん」(いしいひさいち)のおばあさんやお母さんは徹底して関西のことばですね。またたとえば水島野球マンガには、舞台がどこであっても必ずひとりは河内弁を使う人物が登場している気がします。そういうのまで含めると「大阪ことばマンガ」という、それなりに大きな一ジャンルができあがりそうですね。こういうのって、どこかで研究されてるのかな?
あンなァニイちゃん、ヒトクチに関西弁ちゅうてもやナ、キョート滋賀オーサカ奈良コーベ、みィんなコトバちゃうんやデ、ワカッテッカ。
…とは言え実際のところ、いまは相当ごちゃまぜになっているようにも思うワケでして。
つきあう人間関係からして、大学に入る時にシャッフル、社会人になるときにもいちどシャッフル、その後も結婚離婚人事異動に転職と、引っ越しの機会だっていくらでもありますから、みんな「いろんなお国言葉」の影響を自然に受けますよね。たとえば、たまたま近しい友人に岡山出身が多かったので、いつの間にかソレっぽい口調がうつっちゃったりとか。
小中学生あたりだと「あっさり味の標準語をベースに、産地を問わない関西味でこってりと味付けし、CMやドラマやアニメの流行語をふんだんにトッピング。スパイスに地元コトバを少々振りかけて仕上げた逸品です」という感じかな。なんとなく、最近のガキの会話ってのっぺりしてるなあ、という印象を持っているんですけど、いかがでしょう。
つまり、「煮詰めたような大阪人どうしの会話」って滅多に出会うチャンスがないんですね。同じように「生粋の神戸っ子のおしゃべり」も「和歌山ネイティブの話し方」も今まであまり聞いたことないですし、実は「純京都人の京ことば」もすっかり耳にしなくなって久しいワケです。ていうより、ナニが「生粋」で「純粋」で「ネイティブ」なのかが、スゴイ勢いで分からなくなってきている今日この頃なんでありますけれど。
テレビなんかの影響もあって、大阪のことばは全国的に知られるようになりました。大阪ことばを使ったマンガが多いのも、その認知度の高さによるのでしょう。
とはいえ、「大阪らしい大阪ことば」を自在に使ってるマンガ作品は、意外に少ないような気もします。この辺は作家の耳の良さにも大きく左右される部分でしょう。上にあげたいくつかのマンガでいうと、私は「じゃりン子チエ」ではじめて大阪のことばって美しいなァ、と思いました。ヨシエはんの言葉づかいもいいですが、特におバァはんのセリフがキレイだなと感じたんですね。まあ、「ホンマの大阪コトバ」をロクに知らないワタシが言うのもナニですが。ピュア大阪人な方、そのへんどうなんでしょうか。
で、今は10月刊行予定のサラ・イネス「誰も寝てはならぬ」第2巻(講談社/週刊モーニング連載中)を心待ちにしているワタシです。舞台は東京なんだけど主な登場人物が大阪出身という設定なので、結局はコテコテのオーサカ・ワールドが展開します。ゴロちゃんもハルキちゃんも、妙にオバハンくさいしゃべり方のようにも思えるんですが、それはそれでいかにも実在しそう。
中年男の恋愛(?)なんつう地味ィ〜なハナシだし、ていうかソモソモ筋書きってあってないようなものだし、とてもじゃないが一言で説明できるようなマンガではないんですが、親しい友人の気の置けない会話を聞いているような心地よさが、いい感じ。
今どきの30代40代あたりは、たとえ生まれがネイティブでも学校教育やテレビのおかげでとっくに「ハイブリッド・スピーカー」なので、このマンガの登場人物たちのしゃべり方は「煮詰めたような大阪人どうしの会話」というのとはおそらく違うでしょう。とはいえ、東京が舞台という設定にしては、そうとう濃すぎる会話が飛び交ってます。
チエちゃんのおジィはんおバァはんたちから世代がふたつみっつ下がって、「大阪ことば」は今こうなってるんですよという、良質な作例のひとつと言っていいのではないでしょうか。
2004 09 17 [booklearning] | permalink Tweet
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