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海を見に行く

  

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 京都盆地のはずれという内陸部に住んでいるものだから、海とはまるでつきあいがない。最後に海を見たのは何年前だろう? ふと思い立って、海を見に出かけることにした。
  
 あえて地名は伏せるが、つい最近プロ野球チームが消滅することになった、その親会社の運営する特急電車に乗って、京都から約3時間のところだ(分かる人にはこれだけで大体わかるはずである)。
 あわよくば、今抱えている仕事の下調べもしたかったのでその地を選んだのだが、目的地である終着駅に着いたとたん、その気が失せた。そこはいちおう観光地でもあるので、せめてレンタサイクルでもあるだろう、そいつを借りてあちこち回ろうと思っていたが、駅前には小さな土産物屋が数軒だけ、あとは何もない。観光案内所の看板が揚がっている小屋には誰もいなさそうだったので、土産物屋の小母さんに尋ねたところ、
 「あぁ〜、昔はそういうのもあったんだけどねぇ…」
  
 徒歩では到底回れない、かといってタクシーを借り切るのは勿体ない。バスはあるのかないのか、観光ホテル専属のものなら数台走っていたが、こっちは客でもないし、旅館には用はない。着いて30分で、早くもやることがなくなってしまった。しょうがねえ、せめて海を見よう、海だ海だ。
 ということで、湾内遊覧船に乗り込む。さっきから観光客なんて誰もいないなあと思っていたのだが、船内には20人くらいの客がいた。え、いつの間に。
 
 内海だし、天候もおだやかなので、海面はまるで静かである。9月の終わりとは言え日が差すと結構暑い。遊覧船の最上階のデッキに立って、とりあえず潮風をたっぷり浴びてきた。
 
 
 小一時間ほどの湾内遊覧を終えると、本格的にやることがなくなった。再び駅に戻り、食券式の食堂でキツネソバを流し込むと、そのまま切符を買ってふたたび車中の人になる。電車で30分ほど離れたところに、ここよりかはもう少し大きい、別の観光地があるのだ。
 
 
 そこは幹線道路も走っているし、電車の方も、伝統と歴史のあるプロ野球チームをはなはだ不格好な形で終わらせてしまった、その親会社のものだけでなく、JR線も通っている。さきほどの終着駅に比べるとなんだかずいぶん大都会に来た気分である。
 とはいえ、駅前の名店街ビルに入ると、営業を止めてから数年はたっているんじゃないかという感じの店がそのまま残っていたりするなど、どうにも光景が侘びしいのは否めない。まあ、夏の観光シーズンじゃないからかもしれないが、たぶん20〜30年前だったら、今の季節でももっと賑やかで華やかだったんだろうな、という気がする。中も外も、最初に建ってからこのかた改装なんて一切してませぇん、という風情の建物なので、余計うすら哀しさがいや増す。
 
 で、無目的に来てしまったのはいいけれど、結局ここでも何もすることがないのである。駅から少し離れればまた違う表情を見られたのかも知れないが、ここにも貸し自転車はない。観光地だったらどこだってレンタサイクルくらいあるでしょ、と甘く考えていた私が、もちろん全面的に悪いのだが。
 
 しょうがないので、ここでも湾内遊覧船に乗ることにする。遊覧船のはしごだ。海を見に来たのだから、まあいいや。
 
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 船は途中でイルカやアシカのショーをやるという島に寄ったりするのだが、途中下船もせずにずっと階上のデッキにいた。ねっとりとまとわりつくような潮風が、しかし私には新鮮で気持ちがいい。
 暑いとは言え、さすがに秋である。3時近くになるとすっかり夕方の気配だ。一時間ほどで海のお散歩はおわり、下船するとあとはもう本当に帰るだけとなってしまった。
 
 朝、ここへ来るときもそうだったが、電車に乗っているあいだじゅう、ずっと本を読んでいた。ここしばらく、ブログの更新もままならぬくらいドタバタしていたので、ゆっくり本など読めるのはこういう時しかないのである。しかし、車窓からの眺めを愉しむこともなく、読書→遊覧船→読書→遊覧船→読書、とただそれだけをしに、一日をつぶしたようなものである。まあ、ある意味贅沢といえば言えるのかもしれないが、つくづく自分ほど「一人旅」の似合わぬヤツはいないだろうなとも思った。土産屋もひやかさず、海の幸を試すこともなく。やれやれ、まったく何しにここまで来たんだか。
  
  
  
 で、オマケ。ふたつ目に乗った遊覧船の写真をば。

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 その名も『竜宮城』と言う名のフネだ。そっかぁ、関西からプロ野球チームがひとつ減って、そのぶん竜『宮城』へ行くのかぁ…というのはもちろんコジツケのしすぎである(笑)。

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 船の尖端に飾られた像は、もちろん浦島太郎くんだ。「やれやれ」感、ここに極まれり、であります。いや、照れがなくあくまで本気で造っているから、コレはコレで面白いんですけどね。
 
 

2004 09 25 [wayfaring stranger] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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