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読書の秋スペシャル・芋ヅル式本読み日記(1)

 本を読むのは楽しい。って今さら改めて言うことでもないのだが、何が楽しいって、一冊の本を読んでいるうちに、次々と妄想が脳内で連鎖反応していくのがなにより楽しかったりするのだ。
 私が主に買う本はエッセイだったり軽めの評論なのだが、ある本を読みすすめているあいだに別の本が無性に読みたくなり、そうやって次々といろんな本をハシゴする、というふうな読み方をしている。
 
 ここでちょっと、そんな一例を再現してみようか。こういう遊びって、最初の本からはたしてどこまでぶっ飛んでいけるかが芸の見せどころ(?)なんだけど、さて、首尾やいかに。
 
 
 
 スタートとなる本は、つい最近買ったばかりのもの。本屋で一度は手に取ったもののすぐには買わず、けれどもなにか引っかかるので翌日改めて書店に走ったという、私にしては珍しい買い方をした一冊だ。

 
 
MaboroshiOsaka.jpg●まぼろしの大阪
 坪内祐三著/ぴあ(株)関西支社/2004年10月刊
 ISBN4-8356-0963-8
 装幀/橘浩貴
 
 なにより、この本は装幀が素晴らしい。色合いがなんともいえず上品で、いかにも「まぼろしの大阪」だな、と思う。ナニが「いかにも」なんだか、なのであるが、こういうのは説明するのが難しい。強いて言うなら、本書にも名前が出てくる小出楢重画伯の絵のあの雰囲気、あの気分がよく出ているデザインだ、ということになろうか(説明になってないかもしれないけど)。ペーパーバックにハヤカワのポケミスみたいなヴィニール・カヴァーというのも小粋な感じで、適度に力の抜けた感じが、とてもいい。なのでこの本は「ジャケ買い」だったりもします。いや、著者が坪内祐三でなければ立ち読みで済ませていたかもしれないですけどね。
 
 本書は情報誌『ぴあ関西版』に連載されているコラムに、対談をふたつ加えて編集されたもの。著者の坪内祐三はご存知の通り東京生まれの東京育ち、「京都にはちょくちょく出かけているくせに」大阪はほとんど未体験なんだそうで、そんな“おっかなびっくり感”が行間のあちこちから感じられるのが楽しい。
 情報誌での連載コラムなので、基本路線は軽めのエッセイなんだけど(たとえば昨年のタイガース現象とか)、単にただ軽いだけに終わらないのがこのひとの魅力。なにせ自分の本に『古くさいぞ私は』(晶文社・2000年)というタイトルを付けるくらいだから、とうぜん著者の関心(すなわち本書の主題)は古いもの、すなわち今ではもう失われた<大阪モダニズム>の探求に向かう。具体的にはいつ頃かというと、
 

日本の都市モダニズムが一番花開くのは昭和一ケタの、昭和三、四、五、六、七年頃である(16ページ)

 西暦で言うと、1930年を中心軸とした前後5年間になる。では、その頃の大阪はどんな街だったのか、この本だけではその全体像がよく見えない。そこで、あるいは参考資料となるかもしれないと思って、本棚から取り出した次の一冊がこれ。
 
hanshinModernism.jpg●阪神間モダニズム 六甲山麓に花開いた文化、明治末期—昭和15年の軌跡
 「阪神間モダニズム」展実行委員会編著/淡交社/1997年10月刊
 ISBN4-473-01575-0
 ブックデザイン/吉林優
 
 これは1997年に兵庫県立近代美術館・西宮市大谷記念美術館・芦屋市立美術博物館・芦屋市谷崎潤一郎記念館の4つのミュージアムが合同で企画・開催した展覧会の図録である。ずいぶん昔の展覧会だけど、この図録じたいは現在でもミュージアムショップで入手できる。
 副題にもあるように、ここでは「昭和ヒトケタ」よりも幅広い時代を扱っている。また、主眼が「大阪」ではなく「阪神間」なので、ここに「その昔の大阪」だけをみようとすると、若干無理がある(厳密に言うなら「大阪」と「阪神間」はそれぞれ別の存在として捉えた方がいいのだろう)。けれども、戦前まで関西の地には輝かしい文化が存在していたこと、それが今ではちょっと信じられないような大きな影響力を持っていたことなど、いろんなことを知るうちにとてもワクワクしてくるのだ。そして、こういう歴史を知ってみると、なぜ坪内祐三が『まぼろしの大阪』を追い求めるのかが、よくわかる気がする。
 
 阪神間の発展の貢献者といえばまっさきに名が挙がるのが小林一三で、同書(というか展覧会の構成)は、小林翁が手がけた交通網という名の都市のインフラからはじまり、都市計画・建築・ライフスタイル・ファッション・音楽・出版・文学・美術・スポーツ・娯楽など多彩な項目を取り上げ、同地に花開いた文化をまるごと描き出そうとする。同書はさまざまなジャンルのトピックスから成っているから、自分の興味のある分野を拾うだけでもOK。図録だからもちろんビジュアル資料も豊富で、ぼんやり眺めているだけでも充分楽しかったりする。
 
 先の坪内さんの指摘によれば、昭和ヒトケタが日本の都市モダニズムの全盛期なのだが、同じ時代を、この図録のなかのある論文ではこう規定している。
 「ベル・エポック」とは、ヨーロッパで華麗な都市文化が開花した世紀末から第一次世界大戦前夜にかけての古き良き時代を指す言葉であるが、小出楢重が四十三歳の若さで没した昭和六年前後から戦争の影が世相を暗くおおうようになる昭和十五年前後までの、西暦でいう一九三〇年代は、阪神間の、ひいては日本のモダニズムにとっての「ベル・エポック」であったといえるだろう。(「阪神間の美術家たち」/平井章一/187ページ)

 
 広く世界史的にみると、1930年代の、特に装飾美術のジャンルには、後年ひとつの名前が与えられている。それは日本でも例外ではなかったし、いや、むしろ都市文化が急速に明るさを増した1930年代だからこそ、欧米文化を大胆に取り入れた先進的な展開のしかたをしていた。
 
 ということで、次に書棚から抜き出した本は…(つづく)

2004 10 16 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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