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読書の秋スペシャル・芋ヅル式本読み日記(2)

 ということで、気分はすっかり1930年代であります。こういう気分のとき、必ず手に取るのがこの本。
 
JapaneseArtDeco.jpg●日本のアールデコ
 末續堯著/里文出版/1999年12月刊
 ISBN4-89806-115-X
 カバーイラスト/斉藤誠次
 
 偉大なるかなコレクター。1920年代後半から1940年代初期にかけての、いわゆる「アール・デコ様式」のプロダクト/グラフィックデザインの、それも国産のものばかりを収集した本として、これはおそらく唯一のものではないだろうか。よくもまあ個人でこれだけ集めたものだ。モノクロ図版が多いのが残念だけれど、オールカラーだったらちょっと手が出ない値段になったかもしれない。ともあれ、この時代のデザインは何度眺めてもタメイキが出るほどステキだ。
 で、私はこの本のこんな一節が目にとまって、ハゲしくときめいたりする。

 

 ロシアバレエがアールデコに与えた影響は甚大なるものであった。バレリーナは好んで絵に描かれ、また陶製人形に作られて一世を風靡した。ダンスが流行し、ジョセフィン・べーカーのショウやフレッド・アステア、ジンジャー・ロジャースコンビの映画「コンチネンタル」のヒット等々、ダンスが最大のレジャーとなったのもこの時代である。(58ページ)

 アステア&ロジャース! 何を隠そう、私がもっとも好きな映画俳優であり、ダンサーである。そういえば、思い出した。上で例に挙げられた『コンチネンタル(The Gay Divorcee, 1934年)』ではなく、確か『艦隊を追って(Follow The Fleet, 1936年)』だったと思うが、クライマックスとなるダンスシーンのいちばんラスト、ふたりがロマンティックなダンスを踊り終えて舞台袖に向かう瞬間、突然ピタッとポーズを決めるシーンがある。片足をクイッと曲げ、背中を大きくのけぞるように反らせたあのポーズは、たしかにアール・デコ時代のクリスタル人形かなにかにそっくりそのまま出てきそうなスタイルだった。いかにも時代を象徴しているポーズなので、とても印象に残っているのだ。
 30年代、「アール・デコ」なる言葉はまだなかったし(このネーミング自体は1960年代以降のもののはず)、あの時代をリアルタイムで生きていた人にとってどこまでそんな意識があったのかは知る由もないけれど、無意識であれなんであれ、「アール・デコ的センス」は確かにこの頃、都市文化を生きる人々の隅々にまで息づいていたのだと思う。
 
 こうなると、アステア映画を無性に見直してみたくなる。持ってるかぎりのヴィデオテープやDVDを机に並べ、さてどれから観ようかな…おっと、今回のテーマは「読書」だったっけ。あやうくヴィデオに浮気するところだった。こっちはこっちでハシゴしだしたらキリがなくなるのだ。せいぜい読書のBGMにアステアのCDを流すことで我慢しましょう。米国のCOLUMBIA/Sony Music Entertainmentからその名もズバリ「ART DECO SERIES」というコンピもののシリーズが出ていたことがあって、その中の一巻『FRED ASTAIRE〜TOP HAT:Hits From Hollywood』(CK64172 / 1994年)のセレクトがとてもいい感じなのだ。手軽なベスト盤として最良の一枚だと思う。
 
 
 さて、となると次に選ぶ本をどうしよう。アステアものということで彼の伝記本『アステア ザ・ダンサー』(ボブ・トーマス著/武市好古訳/新潮社/1989年)に行ってもいいし、<ミュージカル映画>という方向ではそのものズバリの事典『ハリウッド・ミュージカル映画のすべて』(スタンリー・グリーン著/村林典子訳・岡部迪子監修/音楽之友社/1995年)や『私の愛した音楽・映画・舞台』(野口久光著/中村とうよう編/ミュージック・マガジン/1995年)を読んでさらにどっぷり浸りたい気もする。あるいは『ぼくの採点表別巻 戦前篇』(双葉十三郎著/トパーズプレス/1997年)も名文揃いで読んでいて気持ちがいいしなぁ。
 あ、もう一冊、なんとも小粋で忘れがたい本があった。そうだそうだ、この本を読み直そう。
 
UtaebaTengoku.jpg●唄えば天国 ジャズソング  命から二番目に大事な歌
 色川武大著/ミュージック・マガジン/1987年刊
 ISBN4-943959-09-1
 ブック・デザイン/和田誠
 
 『レコード・コレクターズ』誌に1982年から1984年にかけて断続的に連載された文章を集めた一冊。長い間探していて、昨年だったか一昨年だったか、梅田の新刊書店で見つけたときは本当に嬉しかった。だって、たとえばアステアのダンスについて、こんな指摘をさらっとできるひとはそうそういないと思うからだ。
 
 
 
 

 ダンス、という芸、ダンサーという職業、これがすでに男にとっては不利なコースであろう。男は、女の身体の美しさを効果的であらしめるための存在におちいりやすい。そこのところで、スターになるということが、実にどうも至難の技であろう。(中略)フレッド・アステアに一番スリルを感じるというのは、完全ということに対する覚悟のほどが、張りつめて感じられるからであろう。(「プランを変えて」:183ページ)

 
 ところで、この本の挿絵は和田誠が担当している。というか、この種の本なら和田誠以外に考えられない(和田唱の父親、という方が、今は通りがいいのかな?)。和田さんのイラストレーションを楽しく眺めているうちに、うんと昔に買った一冊をふと思い出した…(まだ、つづく)

2004 10 17 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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