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読書の秋スペシャル・芋ヅル式本読み日記(3)

 中学生になったばかりの頃だったろうか、親戚のおばさんから「お祝いに本を買ってあげる」と本屋に連れていってもらったので、嬉しくなって手に取ったのが『和田誠百貨店』(美術出版社/1978年刊)だった。大判の画集で、当時としては高めの本だった。おばさんにしてみれば、まさかそんなに「高い本」を持ってくるとは思わなかったんだろう、結局それはダメ、ということになったので、しょうがないからこづかいを貯めて何年か後に自分で買った。いやあ、あの頃は欲しい本が長い間店頭から消えなかったし、「いつか買ってやる」がちゃんと実現できた、いい時代だったんだねえ。
 
 …おっと、昔話をしてしまった。えーと、そういうワケで、和田誠という名前は、私にとって長い長いあいだずっとあこがれの的なのでありました。とはいえ、彼の著作をそんなに読んでいるわけではない。ひところ撮っていた映画も、結局一本も見ていないし。で、先の『和田誠百貨店』のあと、私が買った2冊目の和田本がこれ。

 

LondonParis.jpg

 
●倫敦巴里
 和田誠著/話の特集/1977年初版
 ISBN記載なし
 著者自装
 
 このブログの読者は平均年齢が高そうなので(?)、この怪作についての余計な説明は不要かもしれない。強いて言うなら「パロディ本」ということになるのだろうが、当人はシャイな都会人らしく「なあに、ただのモジリだよ」と謙遜してみせる。
「パロディ」って言葉をわざと使わないのはね、何か近ごろ、只の真似や亜流にすぎないものを「パロディをやったんだ」なんて本人が弁護するのに使ったり、評論家なんかもそんなふうに使ったりする風潮があるような気がして、ちょっと反発するんだな。それと、本来は「パロディ」って本当に権威を引きずり下ろすくらいの力があるものをそう呼ぶんじゃないかと思うんだ。それに比べれば俺のやってることなんか、やっぱり「モジリ」程度なんだなあ。(158ページ)
 
 と本人は語っているが、今の目で読み返してみると意外に毒っ気がピリピリしている。下手すりゃ訴訟騒ぎになるのかも、てなものもあるし、たとえばいま不用意にインターネット上などで発表したら、そのサイトはたちまちワケわかんない連中に荒らされまくるかもな、という感じもする。当時はのどかだったんだなあ。ていうか、現代って、パロディ作家にとってはやりにくい時代なのかもなあ。などと思いつつ、ブヒブヒと笑いながら秋の夜長を過ごす。いやあそれにしても、ここに似顔絵で取り上げられている作家や文化人たちの、みんな若いことよ。そりゃま、なんと言っても30年近く前の作品だもんなあ。
 
 さて、この本の中に、谷岡ヤスジを芸術家たちが描いたら、というのがある。ルネ・マグリットふうもなかなか味わい深いが、なかでも棟方志功ふうあたりがサイコーに可笑しい。ということで次に本棚から出してきたのは、1999年に没した谷岡ヤスジの作品集。
 
 
Tanioka.jpg

(写真上から)
●谷岡ヤスジ傑作選 天才の証明
 谷岡ヤスジ著/実業之日本社/1999年12月刊
 ISBN4-408-61206-5
 装丁/南伸坊
●アギャキャーーーーーーーーマン傑作選
 谷岡ヤスジ著/呉智英・夏目房之介編/実業之日本社/2000年8月刊
 ISBN4-408-61208-1
 装丁/関善之(VOLARE inc.)
●ヤスジのメッタメタガキ道講座 もうひとつの「少年マガジン黄金時代」
 谷岡ヤスジ作/内田勝監修/実業之日本社/2004年2月刊
 ISBN4-408-61237-5
 装丁/南伸坊

 没後にこれだけまとまった作品集が出されると言うことは、やはり作家にとっては幸せなことなのだろう。しかしご存じの通り、おっそろしい速度でかっ飛ばす、とてもアクの強い作風なので、まとめて読むにはちょっとしんどい。読み手側の体力がそうとう要求される。というか、一冊のマンガ週刊誌の中での数ページならスパイスが利いていいのだけれど、じゃあスパイスだけ食えっていわれてもなあ、って感じだろうか。
 
 そういえばこの谷岡ワールドを、自分の連載エッセイの一回分をまるまる使って詳細に「解析」したお方がいましたっけね。誰あろう、山下洋輔であります。なにせこの人は、筋金入りの谷岡マンガファンだ。その証言をひとつ。

南 「点目(テンメ)」というのがあって、山下洋輔さんがまず使い出したわけよ。普通の文章の中で「点目」と書いただけで、谷岡さんの画からそういう状況が全部わかっちゃうわけ。(『アギャキャーーーーーーーーマン傑作選』所収「巻中対談 糸井重里 vs. 南伸坊」:519ページ)

 山下洋輔自身は、「点目」ではなく「点眼」と表記していたように思う。ともあれ、その谷岡マンガ徹底分析が収録された単行本が、急に読みたくなった。えーと、どれに載っていたっけ…(さらに、つづく)

2004 10 18 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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