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読書の秋スペシャル・芋ヅル式本読み日記(4)

 なにしろ山下洋輔のエッセイ集が次々と出版され、読者である私が日も夜もおかずむさぼるように読んでいたのは、考えてみると今からおよそ20年くらい昔のことである。たくさんある著書のなかで、確かどこかで谷岡マンガについて書いていたはず、という記憶はあっても、具体的な書名まではとても思い出せない。本棚の奥の方に鎮座まします一角をえんやこらと引き出してきて、薄く積もったホコリを払いつつ、コレかアレかとページをめくる。…あった。

 

DontTouchPianist.jpg

 
●ピアニストに手を出すな!
 山下洋輔著/新潮社/1984年6月刊
 ISBN4-10-343702-2
 装幀・挿画/山藤章二
 
 実際にセミの復讐というものは存在し、その一例がすでに谷岡ヤスジによって描かれている。谷岡マンガを言葉にするのは、史上三大愚挙の一つだということは世人の認めるところだが、特殊な題材でもあり、あえてここに行ってセミの考察への若干のつけ足しとしたい。(「せみまるも きるけごうるも いんもうも とかげもえびも みなたにおかる のこと」:178ページ)

 史上三大愚挙などといいながら、このすぐあとで谷岡ワールドを完璧に文字に写し取っているのだから、平伏するしかない。
 
 そういえば、処女作の『風雲ジャズ帖』(オリジナルは音楽之友社/1975年刊)に旅日記ほかを加えた『[新編]風雲ジャズ帖』と、楽旅日記関係を集めて新たに編集しなおした『新ジャズ西遊記』が、今年になってなんと平凡社ライブラリーに入った(いずれも相倉久人編。『[新編]風雲ジャズ帖』は2004年6月、『新ジャズ西遊記』は同9月刊)。山下エッセイフリークとしては、まことに喜ばしい限りである。ただ、上に挙げた谷岡マンガを分析した文章は、1998年秋に晶文社から出た『山下洋輔エッセイ・コレクション』(全3巻)にも収録されていないし、今度の平凡社ライブラリー版にも選ばれていない。山下エッセイフリークとしては、まことに残念な限りである(ま、採録されないのは当たり前といえば当たり前か)。ということで、全文を読みたい人は写真の単行本か、新潮文庫(1987年刊)を古書店で探すべし。ちなみに「原作」のマンガの方は、『天才の証明』213ページに収録されてます。
 

 さて、久々に山下洋輔本の山を眺めていると、思わずにやにやしてしまう。晶文社の選集も悪くないし、平凡社ライブラリー版を読んでいても新たな発見があったりするのだけれど、やっぱりオリジナル版には、オリジナルにだけしか持ちえないパワーを感じるのだ。
 CDプレーヤーに『Dancing 古事記』やらマル・ウォルドロンとの共演盤やらソロピアノ集やらニューヨーク・トリオやらをとっかえひっかえしながら、なつかしの80年代にどっぷり浸っていると、一日や二日なんてあっという間に過ぎてしまう。あうあう。そろそろ次へ行かなきゃ。
 
 山下洋輔本はどれも好きなので「この一冊」というのが決めにくいんだけど、個人的には処女作の『風雲ジャズ帖』(この場合、あくまでも音楽之友社版ね)か、もしくは『ドバラダ門』をイチ押しとしたい。
 

DobaradaMon.jpg

 
●ドバラダ門
 山下洋輔著/新潮社/1990年8月刊
 ISBN4-10-343703-0
 装幀/山藤章二(楽符は著者自筆、写真は増田彰久)
 
 自分の記憶の中ではこの本は、発売日に勇んで買って夕方から読み始め、晩ご飯も食べずにそのまま真夜中まで、460ページあまりをまるで熱に浮かされたように読みふけったことになっている。最後はふらふらだった、という記憶もある。
 著者の祖父は実は建築家で、明治時代に日本各地の刑務所を設計していたことがわかる。ちょうどそのころ、鹿児島刑務所の移転問題があり、古い石造の刑務所は取り壊すことに決まっていたからさあ大変。貴重な明治の建築をなんとか保存できないかという市民運動は、ついには刑務所門前でのゲリラ的ストリート・ライヴ敢行、という前代未聞のイベントにまで発展する…というおはなし。明治維新と現代、東洋と西洋、戦争とジャズ、その他さまざまな要因が、ぶつかり合い火花を散らしてドタバタ・セッションを繰り広げるクライマックスの、このエネルギーの濃密さはどうだ。改めて読み直してもやはりクラクラするぞ。
 いやあ、時代の変革期というのは、やはり面白い。
 
 
 そういえば、明治というと西洋音楽が本格的に日本に導入された時代でもある。「西洋音楽事始め」とその周辺の話題は嫌いではないので、関連本は見つけたらなるべく買うようにしている。で、これは先日購入したばかりの本。をを、ここんとこずっと旧刊本巡りばかりしていたが、どうやら無事新刊書に戻ったようだぞ。
 
JJRousseau.jpg●「むすんでひらいて」とジャン・ジャック・ルソー
 西川久子著/かもがわ出版/2004年10月刊
 ISBN4-87699-837-X
 装幀/上野かおる
 
 このテーマでは『むすんでひらいて考』(海老沢敏著/岩波書店/1986年)がつとに有名だが、私は未読。西川さんのこの新刊は、海老沢本の成果を踏まえつつ、きっとさらなる発見に満ちた一冊となっているに違いあるまい。楽しみ楽しみ。
 …などと思わせぶりな書き方になっているが、そう、このエントリを書いている現在、実はまだ最後まで読み終わっていないのだった。ということで、坪内本から始まった「芋ヅル式本読み日記」はひとまずここでおしまいです。また別の日にやれば、たとえ同じ本からスタートしても全然違うルートを辿ると思うんですけどね。ともあれ、最後まで読んでくださった方、どうもご退屈さまでした。
 
 
 
 にしても、自分ではけっこうあちこち飛び回ったつもりだったけど、あらためて振り返ってみると大阪モダニズム→アール・デコ→フレッド・アステア→和田誠(と話の特集)→谷岡ヤスジ→山下洋輔→明治維新と唱歌、という流れになって、うーん、結局どれも坪内さんの守備範囲内のような気がするな。なんだかお釈迦様の手のひらから一歩も出られなかった孫悟空みたいな気分にもなってきたぞ(って、非常にエラそうな書き方だナ)。
 そうそう孫悟空といえば、『西遊記』を訳した中野美代子さんのエッセイ本に、メッチャ面白い話があったっけ…。

2004 10 19 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

わ~長い芋づるでしたね~私もツボの系脈(でしたっけ?)をずーーと押さえられたカンジ。
和田誠『倫敦巴里』も大好きでしたし、山藤さんの山下洋輔も懐かしい。装丁って、大事ですよね。坪内氏は私と年代が変わらないぐらいなんですが、凄いですよね坪内ワールド。(この人の元奥さんの写真集知ってます?)

posted: sato (2004/10/21 8:10:41)

をを!  ナカーマ(・∀・)人(・∀・)ハケーン!
ツボな人がいてくれて良かったぁ。
いやそれにしても、これを書いてる間は70〜80年代にひたりっぱなしでした(遠い目)。

>坪内さんの元奥さんの写真集
いやあ、全く知らないですぅ。だ、誰です?

posted: とんがりやま (2004/10/21 10:32:49)

ヨコからすみません。
奥さんの写真集ってずーっと気になってるんですけど、
本屋で見かけたことがなくて。
やっぱり写真集のコーナーに置いてあるのかなあ?
と書きつつ、名前もタイトルも思い出せない……(^^;)。

posted: beeswing (2004/10/22 15:06:19)

遅くなってごめんなさい!
元奥さんは神蔵美子さんで写真家なんですが。
私の知ってるのは、こちら。
壮絶です。でも、目が離せない。
http://www.bekkoame.ne.jp/~andos/03/1g/diary28.html

中原中也と小林秀雄、長谷川泰子を彷彿させます。

posted: sato (2004/10/23 23:11:33)

>satoさん
 写真集のご紹介ありがとうございます。
 なるほど、おっしゃるように壮絶ですねえ。このへんの事情は全く知りませんでした。この方の写真集も今度探してみることにします。女装写真も見てみたいし(^_^;)。

posted: とんがりやま (2004/10/24 1:09:35)

 

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