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[BOOK]:山名文夫のグラフィックデザイン

突然、といった感じで刊行されたので、少し驚いてしまった。生没年などの節目にあたるわけでもないのに、なぜいま山名文夫なんだろう、と。
それはともかくとして、この人の作品集としては、おそらく初めての普及版かもしれない。3600円という、比較的手の届きやすい価格で出たことは、素直に喜んでおきたい。
●山名文夫のグラフィックデザイン 装丁・広告・プライベートな挨拶状まで
ピエ・ブックス/発行 2004年11月刊
アートディレクション・監修:水野卓史
ISBN4-89444-375-9
山名文夫、1897年生、1980年没。言わずと知れた資生堂の広告デザインのベースを築き上げた人である。あまり知られていないかもしれないが、スーパーマーケットの紀ノ国屋の手提げ袋のデザインも、この人が手がけている。
SHISEIDOのロゴマークや雑誌「花椿」のロゴデザインはもちろんのこと、資生堂のグラフィックワークには太平洋戦争中から関わっていた人だから、広告史に関心のある向きは、その作品を必ずどこかで目にしているはずである。もちろん本書にも、資生堂の1950年代頃までの広告が多数収録されており、流麗なペンタッチのイラストレーションと絶妙のタイポグラフィが組合わさった、まるで教科書のような見事な仕事が堪能できる。
しかし、実は本書の目玉は別にある。
ところが、出版準備の段階でよくよく聞いてみると、収録の中心になるのは、私の予想とはまったく異なり、作者自身が手がけた幾つかの作品集や個展でも発表することのなかった「都民劇場音楽サークルのプログラムデザイン」なのである。(序文/水野卓史)
いわば「知られざる山名文夫」であり、多くの人にとってもおそらく初めて見る仕事群であろう。
その「都民劇場公演パンフレット表紙」は、本書の中でおよそ90ページをかけて紹介されている。1953年からの約10年間分というボリュームだ。<REGULAR CONCERT>というタイトルと、第何回目かをあらわす数字、そして小さく<TOMINGEKIJO MUSIC CIRCLE>の文字が入るだけという、テキスト原稿だけでいうと非常にシンプルな要素の表紙だが、色合いといい図柄の構成といい、なんとも品があり、単純ながら贅沢ささえ感じさせる。監修の水野さんによれば、印刷に使用している色は特色3色で、これは「時代背景を考えると異例かもしれない」とのことだが、おそらくほとんど手弁当に近かっただろう仕事にも、非常なこだわりを持ち細心の注意を払ってデザインしていたことがうかがえる。
大半が抽象的な図案で構成されているが、「音楽」をテーマにしているだけあって、どの表紙も軽やかにリズミカルだし、色のハーモニーが美しい。山名文夫といえばビアズリーばりの耽美な作風が思い浮かぶのだが、ここでは当世風なモダンなテイストを存分に展開させていて、楽しい。
抽象デザインだけでなく、「トスカ」や「椿姫」などの、オペラや演劇の作品名をテーマにした表紙も収録されていて、そちらも面白い。「十二夜」や「白鳥の湖」「三人姉妹」あたりが特に個人的なお気に入り。
2004 11 20 [design conscious] | permalink
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