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彼の信奉者たちによって裸にされたデュシャンよ、なぜくしゃみをしない? が与えられたとせよ
さて、国立国際美術館開館記念特別展「マルセル・デュシャンと20世紀美術」です。展覧会は大きくふたつのパートに分かれていて、第一部がデュシャン自身の作品を、初期の代表作『階段を下りる裸体』から<遺作>である『(1)水の落下(2)照明用ガス が与えられたとせよ(暗闇のなかで)』(ただし「再現」です)までを集めたもの。第二部はデュシャン以後の日本と欧米の美術作品から、デュシャンにインスパイアされたものやデュシャンへのオマージュなど、何らかの作品的なかかわりを持ったものを並べています。
●MIRRORICAL RETURNS マルセル・デュシャンと20世紀美術
編集:国立国際美術館、横浜美術館/2004年11月刊
デザイン:西岡勉
発行:朝日新聞社
●展覧会「マルセル・デュシャンと20世紀美術」
2004年11月3日〜12月19日
国立国際美術館
主催:国立国際美術館、朝日新聞社、朝日放送
2005年1月5日〜3月21日
横浜美術館
主催:横浜美術館、朝日新聞社、神奈川新聞社、テレビ神奈川
デュシャンのやっかいなところは、この人の作品は常に「ことば」と共にあって、理屈だの背景事情だのを知っていないと「作品を理解した」ことにならない、みたいな感じがするところでしょうか(まあ、実際その通りなんですけれども)。ダダもシュルリアリスムも詩人が提唱したものだから「ことば」はどこまで行ってもつきまとう問題で、これはしょうがない一面もあるでしょう。デュシャン本人はもっとシンプルに考えていたんじゃないかとも思うんですが、ともあれ「謎」を謎のまま残してこの世から去ったので、その謎をどう解き明かすかという議論が死後も絶えることがなく、デュシャンは「現代美術の源」みたくなっちゃいました。
会場で第一部をゆっくり眺めていて、気づいたことがひとつ。この人の描く絵って、どれも色彩が非常に地味なんですね。印象派のあの突き抜けた明るさを知っているはずなんですが、まるでその輝きに反発するかのように、デュシャンの絵はどれも沈んだ茶系のモノトーンに統一されています。このへんは、ストイック、という語がぴったりするほど見事に徹底されているようです。
このストイックさは、画家であることを放棄してからも彼の基調を成していたらしく、レディメイドを含む各種オブジェ作品でも、派手な色彩のものは一切ありません。このあたり、やっぱりこの人はヨーロッパ人なんだな、と思ったことでした。
ヨーロッパ人、ということでいえば、「エロティスム」を最後まで放棄しなかったのも、興味深いものでした。この一点において、彼は西洋美術の歴史の正統な継承者であったとも言えるのではないでしょうか。
マルセル・デュシャンは「エロティスム」をこう語っています。
私はエロティスムを大いに信じていますが、それは、本当に世界中でかなり一般的なもの、人びとが理解しているものだからです。もしお望みなら、それはほかの文学の流派がサンボリスムとかロマンティスムと呼んでいたものに取って代われるのだ、とも言えるでしょう。(中略)個人的な意味付けをそれに与えているわけではないのです。それは、本当のところ、カトリックの宗教や社会の規則などによって恒常的に隠されているもの——それは必ずしもエロティスムに属するものばかりではないのですが——そういうものを明るみに出そうとする手段です。(中略)エロティスムはひとつのテーマ、あるいはむしろ、ひとつの《イスム》であり、それは『大ガラス』の時期に私がつくったあらゆる作品の基礎だったのです。それで、私は、すでに存在していた美学やなにかの既成理論にとらわれるのを避けることができました。(『デュシャンの世界』192〜193ページ)
【写真上から】
●デュシャンの世界
マルセル・デュシャン+ピエール・カバンヌ著/岩佐鉄男+小林康夫訳
エピスメーテー叢書11/朝日出版社刊
1978年3月初版 ISBN記載なし
装幀/辻修平
●DUCHAMP マルセル・デュシャン
カルヴィン・トムキンズ著/木下哲夫訳 みすず書房刊
ISBN4-622-07020-0
2003年1月刊
装幀者名記載なし
デュシャンに関する本はあまり持ってませんが、おすすめ本を2冊。上の方は今は絶版になってますが、のちに『デュシャンは語る』と改題されてちくま学芸文庫からも出ています(ISBN4-480-08489-4、1999年5月刊)。デュシャン本人へのインタビュー本で、もうすっかり中身は忘れてしまいましたがひどく面白かったという印象だけは残っています。上に引用した一節も、この本からのものです。この機会に、もう一度ちゃんと読み直そうっと。
下の本は、今回の展覧会場で買いました。これほど詳細な伝記本は、この本が唯一なんだそうです。出ているのは知ってたんですが、あまりに大部なので敬遠していたもの。この機会に、がんばって読んでみようっと。
2004 11 07 [design conscious] | permalink Tweet
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