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[book]:水木しげる伝

 

mizukiden

 
 私が水木しげるという作家に関心を寄せるようになったのは、2004年夏に大(Oh!)水木しげる展を観てからなので、ま、にわかもいいとこです。今のところ作品よりも作者本人への興味の方が大きく、展覧会にその一部分が並べられていた自伝マンガの類が読みたいなあと思っていたんですね。そうこうしているうちに昨秋、文庫で自伝マンガが出ていたのを見つけてさっそく購入。11月から毎月1冊ずつ刊行されて、全3巻合計1400ページを優に超える大作なんですが、2005年1月に無事完結しました。
 
●<完全版>マンガ水木しげる伝
 水木しげる著/講談社漫画文庫
 上巻/戦前編(2004年11月刊)ISBN4-06-360836-0
 中巻/戦中編(2004年12月刊)ISBN4-06-360837-9
 下巻/戦後編(2005年1月刊) ISBN4-06-360838-7
 アート・ディレクション:湯村輝彦
 カバー・本文デザイン:金井充・甲斐雅(フラミンゴ・スタジオ)
 
 波瀾万丈を絵に描いた、というか不思議なほどの生命力をお持ちの方で、なるほど熱心なファンが多いというのもうなづけます。民俗学方面にはときどきこういうとんでもない「巨人」があらわれるのも興味深いところです。
 
 ところで、あとで調べてみてちょっとびっくりしたんですが(妖怪庵:水木しげる所蔵リスト参照)、水木しげるという人は、自伝もしくは自伝的作品が飛び抜けて多い作家ではないでしょうか。テレビドラマにもなった『のんのんばあとオレ』(1977年刊)を皮切りに、以後たくさんの自分にまつわるエッセイや漫画作品を描いているようです。ようです、と書いたのは、総数がいったいどのくらいあって、全作品のうちどれくらいの割合を占めるのか、その全体像がまるでつかめないからなんです。が、さらにややこしいことに、いちど書いたモノをばらして再編集もしくは再利用してるってパターンがけっこうあるらしく、たとえばこの文庫のもとになった『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ』(講談社刊・2001年・全6巻)も、実はそのひとつなんだそうです。
 
水木しげるは不思議な作家で、膨大な数の本が世の中に出回っており、漫画界を代表する大作家として名前だけは世に広く知られています。本も本当に簡単に手に入ります。なのに、実際にその作品を読んだことのある人はとても少ない。そういう特殊な土壌のなかで本を作っている人だからこそ、こういう変な本を堂々と売り出せたのかなとも思いました。(catpaw.info:僕の自伝はゲゲゲの切り貼りだ

 はい、私も「実際にその作品を読んだこと」がほとんどない一人でありまして。とはいえ、日本広しといえども、こういう本の作り方が許されるのはこの人くらいなのかもしれませんね(笑)。まぁ別にそれでもいいんじゃないのぉ、って思えてしまうのがまた不思議なところ。これも人徳、なんでしょうかしらん。

 下巻の巻末には、関東水木会(ファンの集まりというか研究会みたいなもの、らしいです)の平林重雄さんが編んだ詳細な年譜が載っています。2004年12月までの記事が載っていますから、少なくとも現時点ではこの文庫版は「完全版」を謳うにふさわしいでしょう。ところでこの年譜、34ページにわたってびっしりと細かな文字で埋まっていて、全部読むとへとへとになるんですが、悲しいことに校正がきちんとなされてないらしく、誤字脱字があちこちに(笑)。たぶん貴重な資料でもあるだけに、ここは第二版以降ぜひ訂正してもらいたいところです。

2005 01 28 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

こんにちは。ああ、先に書かれちゃった。
わたし、おそらくそのいっぱいある水木しげるの自伝の数々を比較的よく読んでる方だと思ってるんですが、それでも、自伝の全貌がつかめておりません。だって、人生相談みたいな本にも自伝みたいな文章があるんですよー。

posted: 漫棚通信 (2005/01/29 22:17:08)

コメントありがとうございます。

>ああ、先に書かれちゃった。
何をおっしゃいます(笑)。そちらでお書きになるのを楽しみにしてますです。

>だって、人生相談みたいな本にも自伝みたいな文章があるんですよー。
きっともう「自分自身が作品」となってるんでしょうねえ。で、自伝ってすくなからず脚色とかも混じってるでしょうから、後生の研究家とかが考証するのが大変だろうなあ、って思ったりします。

posted: とんがりやま (2005/01/30 0:07:10)

初めまして。トラックバックを辿ってきました。
ご紹介されてる本、存在を知りませんでした!また自伝が出たんですか?私はちょっと「ゲゲゲの楽園」でうんざりしたので、水木氏の自伝からは目が離れていました。タイトルは違うようですが、内容は要するに「ゲゲゲの楽園」の文庫版と考えていいのでしょうか?

しかしそういう妙なところも味と割り切って楽しめるのが水木作品の魅力だと思います。「ふはっ!」と嬉しい溜息を漏らしながら、これからも楽しみたいと思っています。

posted: catpaw (2005/01/31 16:31:59)

はじめまして。コメントありがとうございます。
「本書は『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ』を改題・再編集したものです」旨の断り書きがついております。ただし、上巻と中巻の巻末には「水木しげるの幸福論」と題したインタビューがついていまして、これは2004年のインタビューなので文庫オリジナルと考えていいかと思います。

切り貼りというか過去の資産の再利用というか(笑)については、catpawさんのエントリで教えていただくまで全然知りませんでした。でも、いかにもこの作者らしいといえば言えるのかもしれませんね。

posted: とんがりやま (2005/01/31 17:08:11)

 

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