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"The Cartoon"〜The New Yorker 誌の80年(5)
●The Complete Cartoons of The New Yorker
Black Dog & Leventhal Publishers, Inc., 2004
ISBN1-57912-322-8
Book Design by Toshiya Masuda
いきなり余談だが、奥付を眺めていて少々感慨深かったのが、この本のデザインが(おそらくは)日本人の手になるものだということだ。ただ、前回ご紹介した「The Complete Book of Covers」などは Printed in Japan だったのだが、この本は Manufactured in China となっており、こういう部分でも時代の流れを感じたりする。
さてこの本、なにしろ本革張り+22金を使った豪華な装幀と、別冊付録の付いたデラックス・エディションまで同時発売するという力のいれようだ(上の写真は通常版)。
分厚い本体に、2枚の CD-ROM が附いている。実は「Complete」なのは CD-ROM の方で、これまでに雑誌に掲載された全ての漫画作品68,647点が収録されているということである。これで60U.S.ドルというのは安いと思う。
CD-ROM は PDF で作られていて、各作品には作者名と掲載号のデータも記載されている。ただし、肝心の作品画像はスキャンが甘かったり解像度が粗かったりで、シビアな鑑賞にはちょっと難しいのが残念。こういう部分では、日本人だと非常に丁寧な仕事をするんだろうな。もっとも、あまり良質なデジタルデータを提供するのは危険という判断もあったのかもしれないが。にしても、せっかくの記念出版にしてはちょっと勿体ないつくりなのが残念。
650ページもある大判のハードカヴァー本の方には、全作品からセレクトされた2,000点あまりの漫画が載っている(書籍版のインデックスに載っている作家数は約180名、むろん CD-ROM にしか収録されていない作家も多いに違いない)。大きい本だし厚いし重いしで、気軽に寝ころびながら楽しむというわけにはいかないのだが、まあそれはしょうがない。1925年から各10年ごとに区切り、各章にはその時代を代表する作家や社会的な出来事についてのミニ特集も。作家では前回掲げた「正真正銘・完全無欠の"THE NEW YORKER"」の4人は当然特集さてれいるし、他に「Television」や「Internet」といった項目がある。ちなみに、この雑誌で Internet をネタにした漫画がはじめて登場したのは1993年なんだそうな。ある犬がパソコンの前で、もう一匹の犬に向かって「ネットの中じゃ、お前さんが犬だなんて誰も知らないよ On the Internet, nobody knows you're a dog.」と言っている漫画がそれだ。
題材やアイディアの出し方はとりあえず措くとしても、絵のスタイルというかタッチというか、そういう部分で The New Yorker の漫画には変化というものがまるでない。1930年の漫画も2004年の漫画も、知らずに見れば全く同じスタイルに見える。この変わりのなさは空恐ろしくなってしまうほどで、良くも悪くもこれがこの雑誌の特徴でもあるのだろう。いや、1950年代頃までの方が、まだ作家それぞれがオリジナリティ豊かな絵を描こうとしていたようにも思える。
何度もくりかえしになるが、「時代の表現としてのカートゥーン」はすでに黄昏を迎えていると思う。しかし、The New Yorker 誌は今後もカートゥーンを掲載し続けるだろうし、こうやって何度もクロニクルを出版し続ける。何のために? カートゥーンが再び、時代を撃つ最先端の表現ジャンルになる日のために?
いや、たぶんそうではないだろう。それがどんなにささやかであっても、彼らは継続し蓄積していくことそれ自体に価値を見出しているのではないだろうか。そして「文化」とは、結局のところそういう「価値観」のことを指すものなのかもしれない。(了)
2005 01 10 [design conscious] | permalink Tweet
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comments
内容のことについてのコメントでなくて申し訳ないんですが、
> 大きい本だし厚いし重いしで、気軽に寝ころびながら楽しむというわけにはいかない
の部分にだけ反応します(ほかの部分はコメントする力がありません)。アメリカ人によくあるらしいのですが、小さい頃はベッドで百科事典を読むのが趣味だったという話を10年くらい前にネットで読んだことがあります。大きくて厚くて重い本の典型のような百科事典をベッドで? と、その当時は目を白黒させましたが、彼らは平気のようです。ま、といっても、仰向けになるわけではなく、たぶん横向きか、俯きではあるだろうと思うのですが。あるいは、ベッドの枕のところの板を背もたれにして、枕を立てて、クッションのようにすれば快適に読めるだろうとは思います。で、たぶん、本が重いので、本の下にも枕を敷くような気がします。って、別に見たことがあるわけじゃないですよ。想像です。
実は私も、ベッドに大きな重い辞書を持ち込んで横向きに寝て読むのが趣味です。机に向かって読むというのがどうも肩が凝るんですね。あ、話が脱線しました。(メールアドレスはクローラー向け対策として余分な文字列を冒頭に附加しました。)
posted: Micheal (2005/01/10 17:57:42)
コメントありがとうございます。
そうですね、やっぱり漫画本は机の前でしかめつらしく読むものというよりも、ベッドで読むのがよく似合いますよね。日本式のふとんでもまあ読めないことはないでしょうが、クッションたっぷりのベッドの方が便利そうですね。
私も、本は横になって読むのがいちばんしっくり来る方なので、この本もできればそうしたいんですが、本を閉じてさてそろそろ寝ようか、となった時に置き場所が…(^_^;)まさかそのまま抱えて眠るわけにもいきませんし(爆)。
posted: とんがりやま (2005/01/10 18:46:46)
はじめまして。
Michealさんのコメントに思わず反応。
>仰向けになるわけではなく、たぶん横向きか、俯きではあるだろうと思うのですが。
8年くらい前に友人と沖縄に遊びに行った時、ちょうどエイサーのシーズンで、そのお祭りに大勢の人たちが集まっていたのですが、そこで見かけた米軍兵士(男性。推定20代半ば~後半)。
人の輪の後ろの方から見学しているためか、
・4歳くらいの子供1人を肩車し、
・赤ん坊1人(または2人)を腕に抱いて、
・腕には3歳くらいの子供が腕に1人ずつ(または片方の腕だけに1人)がつかまっている、
つまり計4人の子供たちを文字通り「引っさげて」、その姿はたわわに果実を実らせた大木のごとく。
・・・・・・百科事典、仰向けかもしれませんよ。
ちなみにわたしは子供の頃百科事典を読むのが趣味でしたが、昼間起きている時、普通に(?)畳の上において読んでました。
内容についてのコメントでなくてごめんなさい。
posted: liyehuku (2005/01/11 3:02:05)
あはは、エントリの本題とどんどんずれてるし(笑)。
いや、面白いのでこのまま勝手に話題をつなげてってください。
・ベッドで仰向けで百科事典読んでるひと大募集!
・あなたはどんなスタイルで本を読みますか?
その他、なんでもお書きください〜。
>liyehukuさん
はじめまして、コメントありがとうございます。
百科事典、そういえば昔はたいていの家にひと揃えありましたねえ。私は子供時代から(昼間でも)畳にうつぶせになってパラパラめくっておりました。ただ、この姿勢だとすぐ疲れますね。
そういえば、いまノートパソコンを使っているので、たまにふとんの中でネットを見たりすることはあります。もちろん仰向け姿勢ではキーボードを打つこともマウスの操作も不可能です(笑)。
posted: とんがりやま (2005/01/12 14:05:25)