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いいなァ。

 

warauchawan

 
 
●笑う茶碗
 南伸坊著/筑摩書房/2004年9月刊
 ISBN4-480-81466-3
 装丁:著者自装
 
 まァそれにしても、だ。
 この人も本をいっっっっぱい出している人で、いったいエッセイ集だけでも何冊あるのか、皆目見当がつかない。ワタクシけっこう読んでる方だとはおもうけれど、それでもたぶん三分の二も行ってないような気がする。
 
 まァそれはいいとしても、だ。
 80年代のサブカル全盛時代のころの、飄々とした佇まい(そういやチキンラーメンのTVCFに出ていたこともあったなァ)は今も変わらず、けれども語り口はずいぶん変わったなァ。読みやすくわかりやすい言葉だけで綴られた軽いタッチ(これは実はすごい芸だと思う)こそそのままだけど、さらにマイルドになりました、というか、やわらか成分大増量(当社比)、という感じなのである。で、その分、読後のシアワセ感も大増量(当社比)なワケでありまして、日当たりのいい縁側でのんびりひなたぼっこをしているような、ぬくぬくとした小さなヨロコビが、一冊読んでいるあいだじゅう楽しめる、とまァそんないい感じのエッセイ集なのである。
 
 まァそんなことより、だ。
 このエッセイは「月刊日本橋」というタウン誌に連載の文章を収めたもので、南伸坊・文子夫妻の日常セーカツを淡々と綴ったものなんだけど、その日常セーカツがなんともコノヤロ的にウラヤマシイのである(どーも今回の文体はモロに80年代風だナ)。
 なにしろ、夜明けと共に蓮の花が開く時、果たしてポン!という音がするのかどうかを確かめるために、茨城県の古河総合公園に野宿しに行くのである。あるいはおすもうさん(敷島関)の断髪式に出かけちゃったりもするのである。それからまた、長崎は五島列島までわざわざ蛍を観に出かけちゃったりもするのであるし、そうかと思えばしし座流星群に「オーッ」と言うために、大島の民宿で寝袋と毛布にくるまったりしているのである。なーんか、人生楽しんでるよなァ、などと、日頃アクセクするしか能のないこちらは思うのである。
 
 まァとはいえ、だ。
 上の書き方だとこの夫婦、しょっちゅうアチラコチラを飛び回っているただのディスカバー・ジャパン(ってコレは70年代か)夫婦のようにも思われるかもしれないんだけど、このエッセイ集のほとんどを占めているのは家のまわりを散歩したりウグイスの声に耳をそばだてたり日比谷公園でカエルを捕まえたりするような、そんなごくありふれた毎日だったりするのである。
 と言いたいところだが、根っこに「オモシロ好き」が有り余ってる夫婦でもあるのだから、そんなありふれた毎日が、しかし過剰に面白すぎる毎日でもあったりするから油断がならない。ダンナの手の平にできたマメの皮を切りとる権利をよこせとツマが「居ずまいを正して」言ったり、テレビニュースを見ていて小泉さんが「ジュクリョにジュクリョを重ねて…」なんて言ってるのを聞きながら「じゃあ都合2ジュクリョってことになるナ」「都合って、どこにオーダーしてんのよ」などと漫才みたいな会話をしたりしているのである。
 
 まァそれはそうとして、だ。
 これだけなら「まあ何年たっても仲のいいご夫婦なのね。どうもごちそうさま」なのであって、それはそれでイマドキ貴重な存在かもしれないとはいえ、夫婦善哉というか夫婦漫才というか、こちらもあははと笑っているだけでおしまい、なんであるけれども、そこはそれ、毎日生活しているとそれはもういろいろあるワケで、階段から転げ落ちてツマが大けがをしたり、旅先で救急車を呼ぶほどの腹痛におそわれたり、そして夫婦ゲンカなんかも当然あったりするワケで、あ、南さんちもやっぱりケンカするのね、などとちょっとホッとしたりするご家庭も世の中には多いんじゃないでしょうか。そしてまた、いつ見ても童顔だなァ、若いなァ、などと無責任に眺めている世間の眼を知ってか知らずか、当の本人は「オレはもうおじさん以外の何者でもないんだ…」と寂しくつぶやいたりもし(四捨五入したら還暦だもんねェ)、老いてゆく自分、ということに静かに向き合ったりもしているのである。
 
 まァということで、だ。
 このエッセイ集は、こんなにやわらかであたたかな感性の持ち主と同時代を生きているんだということを実感させてくれて、あァこうやってみんなゆっくり年を取っていくのだナ、デモもしかしたら老後って時代もそんなに悪くはないのかもしれないゾ、という気分にさせてもらい、なんだかんだ言っても夫婦って悪くないよなァ、などとしみじみ思わせてくれる、そういうささやかなシアワセとヨロコビがたっぷり詰まった本、なのである。そうしてパタンと本を閉じて、軽いタメイキと共に出るコトバが、本エントリの表題なのである。
 
 いいなァ。
 
 

2005 02 03 [booklearning] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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