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シャン・ノース・ダンスのこと
もうすぐ来日するポール・オショネシーとハリー・ブラドリーに帯同するショーサヴ・オ・ニャクタンだが、Blog Mhichilに実に美しいステップとあって、あぁ、なるほどその通りだなあと思いながらエントリを読ませていただいた。
実は私も先日、アイルランドのテレビ局が放映した2004年度のシャン・ノース・ダンス競技会の録画ビデオを鑑賞する機会を得た。アイリッシュの他のダンスと違ってシャン・ノース・ダンスは専門のビデオも(たぶん)まだ市販されておらず、だから「そもそもどんなダンスなんだ」という基本的な部分すらよく知られていない存在かもしれない。私自身、これほどまとめてシャン・ノース・ダンスを観たのは初めてだったので、競技会で繰り広げられるダンスの数々はたいへん興味深いものだった。
ちょっと専門的な話になるが、以下、自分なりにシャン・ノース・ダンスを位置づけてみたい。もっとも、ワタクシ学者ではアリマセンので、間違っている部分も多々あると思いますよ、と先に言い訳しておきますが。
アイリッシュ・ダンスのうち、ソロで踊るステップ・ダンスには大きく4種類あると言われている。大まかにマッピングするとこうなるか。

時系列としては左上の「シャン・ノース」からぐるっと時計回りになるが、もちろんそれを「進化の系譜」などというつもりはない。現在ではそれぞれ別ジャンルとして並立・共存しているダンスであることは強調しておく必要があるだろう。「歴史的」だからといって、まるで<カビくさく骨董品のようなもの>と捉えてしまうのは大間違いだし、大変もったいない話なのだ。
一般的にはリヴァーダンス(この秋、4度目の来日公演の噂も)に代表されるステージ・ダンスがもっとも知られているだろう。その基本というかもとになっているのがモダン・スタイルのコンペティション(競技会用)・ダンス。およそ100年ほど前にフォーマットが決められたもので、高いジャンプや足を大きく蹴り上げるなど、メリハリが効いていて見栄えも派手なダンスだ。
モダン・スタイル以前のダンスはオールド・スタイルと呼ばれ、足は膝より上の高さには上げないなどモダンに比べると一見地味だが、そのぶん味わいが深いダンスと言える。比較的年齢に関係なく踊れるのも特徴かも。
このふたつのステップ・ダンスは、ふつう「アイリッシュ・ダンス」と言われてすぐにイメージできるような、上半身をピンと伸ばし両腕もほとんど身体の横に固定させるという「基本様式」をもつ。アイルランドの歴史の中で、長い時間をかけて磨き上げ作られてきたスタイルだ。
さらにそれ以前、もっともっと昔から彼の地で踊られていたとされるダンスがあり、それが現在「シャン・ノース・ダンス」と呼ばれるものである。
「シャン・ノース sean-nós」はアイルランド語。詳しい解説がはてなキーワードに取り上げられているのでご覧いただきたいのだが、この中の
英訳ではよく 'old style' が使われるが、'old way' のほうがニュアンスが近い。様式を表す「スタイル」とはニュアンスが違う。というくだりがポイントだろうか。つまり、オールドもモダンも「スタイル」と名の付く制度化されたダンスだが、シャン・ノースは「古くからのやり方」である、というところが大きな違いだと思う。上の図でシャン・ノースを「自由度」側へ置いたのはそういう理由による。厳密に言えば、自由度が高いと言っても「古式伝来」である限りまったくの「なんでもアリ」ではないはずだが、即興で踊る場合ならたとえモダン・スタイル風の大技が入っても「シャン・ノース」と呼ばれることもある。つまるところ、現在では「アイリッシュダンス・フリースタイル部門」という理解でもいいのかもしれない。
オールド・スタイルでもモダン・スタイルでも、背筋をピンと伸ばし、かかとをすこし浮かして立つ姿勢が基本ポジションだ。これだけでも、あたかも天上界にも昇ろうかという美しさがある。蹴り上げる時には膝から下、足首もぴしっと伸ばしたままで、それがアイリッシュ・ダンスならではのシャープさを醸し出す。ところが狭義のシャン・ノース・ダンスではどうやら立ち姿から違っていて、多少腰を落としたり膝を曲げたりしていても構わないようだ(全身やたらぐにゃぐにゃしたまま、というのも観たことがある)。新旧ふたつのスタイル・ダンスのもつ上昇志向に対し、どちらかというと地面をしっかり踏みしめている感じ。あるいは、ややもすれば人工的にすぎるモダン系とは対極にある、人間くささがたっぷり含まれた普段着のダンスだと言っていいだろう。
冒頭に書いた2004年の競技会の模様は、とても楽しいものだった。コンペティションならではのレベルの高いダンサーが集まっているから、実に多種多様な個性が楽しめて、飽きることがない。こんなビデオを市販してくれたら、もっとシャン・ノース・ダンス・ファンが増えるのになあ。
とてもユーモラスだったり、あるいはダイナミックで激しかったり、あるいはフェイクな小技の効いたステップをこれでもかと披露するダンサーが多いなか、われらがショーサヴ氏のダンスは、他の参加者と比べて格段にステップが軽やかかつ滑らかで、無駄な動きのない洗練されたものだった。なんというか、ノーヴルな品格さえ感じさせる。
うーん、これはぜひライブで観なければ。彼らの来日が今からとっても楽しみであります。
2005 02 23 [dance around] | permalink
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