« 春を告げるハーディングフェーレの音色 | 最新記事 | 世界の国からこんにちは »
イームズ展、ふたたび

「チャールズ&レイ・イームズ」展 創造の遺産
THE WORK OF CHARLES AND RAY EAMES:A LEGACY OF INVENTION
THE WORK OF CHARLES AND RAY EAMES:A LEGACY OF INVENTION
和歌山県立近代美術館 2004年11月2日〜12月26日
大丸ミュージアム・東京 2005年3月3日〜3月14日
大丸ミュージアム・梅田 2005年3月24日〜4月4日
大丸ミュージアムKYOTO 2005年4月14日〜4月25日
愛媛県美術館 2005年5月3日〜6月12日
目黒区美術館 2005年10月8日〜12月11日

で、大丸ミュージアムでチャールズ&レイ・イームズの展覧会をやると知ったとき、なんでまたイームズなの、と素直に思った。ついこの前やったばかりなのに。と。
けれど、このふたつはまったく性格が異なるものだった(もちろん、たとえば映画《Powers of Ten》のように共通する出品物も多いけれども)。実は、イームズ夫妻の業績を展覧会という形式で紹介するという企画は、今回のものの方が古いのだという。
以下、2001年の東京/大阪のイームズ展を「01展」、今回の巡回展を「97展」と表記する。なぜ「97」かと言うと、この展覧会の第一回開催が1997年だったからだ。構想自体は、レイが没した(1988年)直後からすすめられていて、今回の日本巡回展までに、ロンドンやニューヨークやミラノを含む12の都市で開催されている。冒頭に掲げた図録は、ドイツのVITRA DESIGN MUSEUMとアメリカ議会図書館が制作した、本展のためのカタログの日本語版。展示物をそのまま収録したものではなく、副読本のような編集だ。
01展は日本独自企画で、イームズ夫妻の仕事をできるだけ網羅することを主眼としていた。椅子やチェスト、ファブリックなどのプロダクトはもちろんのこと、建築からおもちゃそして映画まで、夫妻の多彩なクリエイティヴ・ワークの数々に圧倒されたものだ。
対して97展は、なるほど製品としてのプロダクトも並んではいるけれども、その前に「そもそもこんなステキな椅子を創ったのはどういう人間か」という部分の方に重点が置かれている。たとえて言えば、01展が企業の公式サイトだとするなら、97展は個人ブログみたいな感じ。
97展では、イームズ夫妻の創造物と同じくらい、あるいはそれ以上のスペースを割いて、夫妻が集めた雑貨や民族的な道具や玩具、彼ら宛に送られたクリスマスカード…などが大量に並べられていて、圧巻である。ライトテーブルにぎっしり並べられた35mmスライドフィルムもあって(ルーペ付きというのが芸が細かい)、つまりは夫妻が「何を見ていたのか」「どんなモノ・コトに興味があったのか」がストレートに伝わる内容なのだ。
じっと眺めて飽きなかったのは、オフィスの壁を再現したという、各種スモールグラフィックスが無造作に貼られた壁面。雑誌の切り抜き、どこかのレストランの開店告知フライヤー、友人からのカード、そのほかなんだかよくわからないものまで、イームズの美意識のアンテナに引っかかったグラフィックの数々が「適当に」ピンナップされている。いかにもアメリカのミッド・センチュリーを彷彿させるグラフィックも多く、デザイン史の観点からも興味深いものだった。
また別のコーナーには、立体モノのコレクションもたくさん展示している。民族衣装、ミニチュア・フィギュア、文房具、ハギレ、おもちゃ…
クリエイターにコレクターは多い。そして、たいていは、フツーこんなもん集めないだろというガジェットを嬉々として蒐集していたりする。イームズ夫妻のコレクションも、やっぱりヘンテコなものばかりで、それでいて、集まったモノたちが、いかにもこのふたりらしいものばかりで、とてもほほえましく楽しいものだった。
イームズ夫妻が活躍した20世紀後半——特に、大量生産と大量消費が何の疑いもなく善とされ、プラスチックが夢と希望にあふれた新素材で、見渡す限り輝かしい未来しかありえなかった頃のアメリカ。その空気感や手触りが、この展覧会には上手にパッキングされているように感じた。
そして、今では単なる「ブランド」だけれども、本来チャールズとレイ・イームズがいかに「デザイナー」であり「ものづくりの職人」だったのか、さらには、いかにして家具が「ポップ・カルチャー」になり得たのか、その秘密を丁寧に解きほぐすことに成功している展覧会だと思う。
2005 03 30 [design conscious] | permalink
Tweet
「design conscious」カテゴリの記事
- 中川学さんのトークイベント(2018.07.16)
- 大塚国際美術館へ(2017.07.17)
- 『デンマーク・デザイン』展(2018.05.06)
- 薄井憲二さんのバレエ・コレクション!(2018.04.08)
- ブランドとしての<ブリューゲル>(2018.04.01)