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ロートレックの受け入れられかた

名古屋展 2005年2月9日〜3月1日 松坂屋美術館
東京展 2005年3月16日〜3月22日 松坂屋銀座店
大阪展 2005年3月24日〜4月4日 大丸ミュージアム・心斎橋
函館展 2005年4月9日〜5月15日 北海道立函館美術館
旭川展 2005年5月28日〜6月26日 北海道立旭川美術館

なお、日本での最初の大がかりなロートレック展は、1968年に開催されている。その時、油彩画のひとつ(『マルセル』1894年作=右の図録表紙絵)が盗難に遭い(のちに帰還)、それがために関係者が自らの命を絶つという痛ましい事件が起こっている(事件の顛末は、週刊BEACON:うぇーぶ!!トピックス:第22話に詳しい)。
ところで、作家とその作品の紹介のされかたが時代ごとに異なる場合、過去の展覧会図録を眺めるのはたいへん面白い。もちろん、展覧会ごとにコンセプトがあり、それに沿った作品が集められているわけだから、収録作品がそれぞれ違うのはあたりまえなんだけど、たとえば横山大観が、いつの展覧会でも展示作品や解説テキストに大して変わりがないのとは対照的に、ロートレックの場合はその「受けとられかた」に変化があるのがよくわかる(そう考えると、先に触れた1968年展も観てみたかった。どこか古書店に図録が出回ってないかな)。
1982年のロートレック展では、若き日の習作も含めて、油彩画が半数を占めている。水彩画/木炭デッサンと石版画/ポスターが残り半数で、その当時の私の印象は、印象派の画家のひとり、だけどずいぶん色彩が地味だなあ、けれども人物デッサンは達者だなあ、といった程度だった。つまり、この頃はまだ「フランスの世紀末に活躍した画家」程度の認識しか得られなかった。図録をよく読めば、彼ならではの諷刺性やポスター作家としての活躍にも触れているのだけれども、前半の油彩画のイメージが強いこともあって、そのあたりはいまいちピンとこなかった。いま改めて図録を見直すと、作家の全体像をきちんと紹介しようとする意図がよくわかるし、これはこれで、現在ではかえってなかなかできない構成だろうな、という気もするのだけれど。
1993年の展覧会になると、様相ががらりと変わる。テーマをうんと絞っていたからでもあるのだけれど、82年展の作家と同じ人物を扱った展覧会とは思えないくらい、会場の風景が異なっていた印象がある。この展覧会は、表題通り日本美術、とりわけ浮世絵からの影響を多角的に検証していて、なかなか刺激的だった。なにより、当時ロートレックが実際に目にしていたであろう本物の浮世絵を並列して展示していたのがインパクトがあった。この企画はフランス・アルビ市のトゥールーズ=ロートレック美術館によるもので、ロートレックとジャポニスムの関係を丁寧に研究した成果がよくあらわれた、説得力のある良質の展覧会だった。
で、今度の「ロートレックとモンマルトル」展では、現在一般的にもっとも人気の高い一連の舞台ものポスターと版画作品を中心に構成されている。前半部分にはモンマルトルの演芸場の光景を描いた石版画が多く並ぶ。突然、といった感じでロートレックの隣に歌麿の役者絵が並んでいて、ぎょっとした方もいたようだけど、93年展を踏襲しているという点において、現在のロートレック研究としてこの見せ方は王道なんだろう。ただ、展示のしかたなどにもうちょっと親切さがあってもよかったかな、という気がしないでもないけど。
個人的には、はじめてポスター「ブリュアン」のバリエーションが見られたのが嬉しかった。また、版画作品では連作「彼女たち」が、試刷りも含めてたくさん出展されていて、こちらも興味深く眺めた。
さらに、ミュシャやボナール、スタンランなど、同時代にともにパリの街を飾った他の作家のポスターもいくつか展示され、見比べることができるようになっている。同じ舞台、同じ役者をテーマにしていても、作家により全く違う表現になっているのがよくわかって、面白い。
一方で、かつて盗難事件という社会問題まで引き起こしたロートレックの油彩画作品群は、ここしばらくの日本ではまったく顧みられていないようにも思える。急激に作品価値が落ちたわけでもないはずなんだけど、どうなんだろう。ま、これもまた<時代の推移とともに好みや評価が変化していく>好例なのかもしれない。しかし、ロートレックを「歓楽街に生きた、風刺とポスターの作家」だけにとどめておくのはもったいない話だと思うんだけど。
2005 04 06 [design conscious] | permalink
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