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耳を澄ます

 

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 ハンマーダルシマー奏者の山口智さんが、ここのところ京都市内のお寺を舞台に定期的に演奏会をしている。会場は、豊臣秀次ゆかりの瑞泉寺という名の寺で、河原町三条からほど近い繁華街にある。山口さんをホストに、毎回違うゲストを呼んで共演するという意欲的な試みで、つい先日、三回目のコンサートが開かれた。このシリーズは友人が企画に関わっていることもあってずっと行きたかったんだけど、前二回は都合をつけられず、今回ようやく聴きに行くことができた。
 
 
 実は、お寺というのは、意外なほど音響がいい。京都は寺の街で、ちょっとした演奏会などの会場に使われることも多いし、私もそういった催しにたまに出かける。ハンガリーのフォークグループ、アイリッシュ・トラッド、あ、山下洋輔さんのピアノソロというのもあったな。コンサートホールやライブハウスとはちょっと比べられないくらい、いつもしみじみ聴き入ってしまうのだ。
 ふだんより音楽に集中できることのひとつには、もちろん、ロケーションのもつスピリチュアルな雰囲気、という点も大きいだろう。本堂のご本尊を眺めながらいい音楽を聴いていると、それだけでちょっとした極楽浄土への旅、という感覚でもある。ワタシはとくに信心深い人間ではないのだが、やはりこういう場所に来ると、それなりに神妙な心持ちになるんだろう。
 

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 さて、山口さんの今回の共演者は、コントラバス奏者の岡野裕和さん。絹のような高音を奏でる楽器と、豊かな重低音が心地いい(コントラバスのハイトーンも大好き)楽器の組み合わせという、たいへん興味深いものだった。前半の一時間は、1セット30分くらいの即興演奏が2セットという聴き応えたっぷりのもの。うんとフリーになるかとおもえば、次の瞬間にはリリカルなメロディーが流れ、そしてまた力強いリズムが響き…と、心ゆくまで流れに身を任せていられる。後半はスタンダード曲も織り交ぜながらで、緩急自在、変幻自由な演奏会だった。
 
 従来は本堂の中での演奏会だったのが、この日は一日中天気がよかったので、急遽外でやろう、ということになったらしい。日が落ちてからはさすがに花冷えのする境内だったけれども、夕暮れの鴉の鳴き声や風の音なども一緒に耳に入ることになって、これはこれで面白い体験だった。もっとも、街中のお寺だけに、救急車のサイレンやら近所の中華料理屋がナベをガシガシやってる音やら(焼きそばのいい匂いも ^_^;)もおかまいなしに耳に入ってくるんだけれど(笑)。と、それにしても、繁華街のまっただ中とは思えないくらい、意外に静謐な空間でもあるのは、さすがお寺。
 
 
 ライブに行くことの喜びのひとつに、音楽って「その場で生まれては消えてゆく」ものなんだなあということを、再確認させてくれることがある。
 普段、CDだのDVDだのといったパッキングされたものに慣れてしまっていると、ひとつひとつの「音」に真剣に耳を向けるということが、いつの間にかなくなっているような気がする。
 山口さんと岡野さんの、名手お二人によるこの日の演奏は、まさに純粋に「音」に耳を澄ませることの重要さを、再確認させてくれるものだった。
 
 …などと書きつつ、そろそろ山口さんの新作CDも聴きたいなあ…などとこっそりリクエストしてみたり(^_^;)。

2005 04 19 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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