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飛行機嫌いの海外旅行記

 

OndaRiku

 
 『夜のピクニック』で第2回本屋大賞と第26回吉川英治文学新人賞をダブル受賞したばかりの、恩田陸さんの初めてのエッセイ集。
 
●酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記 イギリス・アイルランド
 恩田陸著/講談社/2005年4月刊
 ISBN4-06-212763-6
 ブックデザイン/坂野公一(welle design)
 イラストレーション/田中英樹
 
 誰もがすぐにピンとくるように、本書のカバーデザインは非常にベタ(笑)である。新刊だし、作者も受賞作家という旬の人だけに、書店でも平台に置いてあったから目にとまったわけだけど、これ、棚に差してあるだけだったら果たして手に取ったかどうか。
 
 で、なんでこんなベタなデザインなんだと思ったら、中身を読んでよくわかった。作者の恩田さん、じつは大の飛行機嫌いで、そのためこれまで一度も海外に行ったことがない。そのくせ、なぜかパスポートだけはすでに持っていた、とうのが笑えるけれども、そういうわけで、この英・愛行きが彼女にとって生まれて初めての海外旅行となったのである。このブックカバーは、なるほど「はじめての海外旅行」にふさわしいというか、そのまんまやんけというか、そんなデザインでありますな。
 造本の話題ついでに、この本には「フォントディレクション/紺野慎一(凸版印刷)」というクレジットが載っているんだけど、最近の書籍ってそんなポジションの人がいるんだぁ、と、ちょっとびっくり。出版社が組んだDTPデータをもとにフォントの指定をする役割なのかな。「組版設計」っていうのは以前からあったけれど、どう違うんだろう?
 
 
 閑話休題、このエッセイ(『IN☆POCKET』2004年1月号〜10月号に掲載)は、なんと200ページとちょっとのボリュームのうち約半分が、いかに飛行機が怖いかを縷々述べたものなのである。「小説家には飛行機嫌いが多いような気がする」と考察(いや、なにも特に小説家に限ったことでもないでしょ。彼らはモノ書きだから目立つだけで)しつつスーツケースを買いに行き、機内で読む本には何を持って行くべきかリストを並べて悩みに悩み、千秋真一(ご存じ『のだめカンタービレ』ね)に深いシンパシーを覚え、その他モロモロの現実逃避思考を経てようやく機内に乗り込んだはいいものの、酒を飲んでも酔わず、読書もどこか上の空、機内食も手に着かずという有様。飛行機が無事ヒースロー空港に降り立ったときには、すでに本書の70ページぶんを費やしていたのであった。あはは…は。
 
 同じ飛行機嫌いの方なら、おそらくここまでで手に汗握りまくりだろう。まあ、よりによって初の海外旅行に、十数時間のフライトを要するヨーロッパを選ばなくても、という気もするんだけど。香港とか台湾とかグアムとか、比較的近場で小手試しってテもあったろうに。これって、一種のショック療法なんだろか。
 しかもこの方、目的地がロンドンだけならまだしも、そのあとダブリンにまで足を伸ばすのである。自虐的という他ないな(笑)。ま、本書のラストで、作者自身もうろたえるような出来事が身の上に起こってるんだけど、…ってこれ以上書くとネタばらしになるのでこのへんで。
 
 軽く読めるエッセイだし、事実私は2時間ほどで読み終えてしまったんだけど、このタイトルは結局よくわからなかった。『恐怖の報酬』といえばイブ・モンタン主演のあの映画で、なぜその題名をそのままこの本のタイトルに借用したんだろう。いちおう、その説明は冒頭でされているんだけど、なんだかなあ、である。「酩酊混乱紀行」というのもなぁ、って、いま書き写していて「酩酊酒乱」じゃなく「酩酊混乱」だったんだということに初めて気づいたわけなんだが、「混乱」はともかく「酩酊」って、そんなに酩酊している風にも読めないぞ。確かに旅行中、毎日酒は飲みまくっていたようだけど、行動はいたって常識的であります。ま、とんでもないハチャメチャを期待していたワケでもないんだけれども。
 
 
 飛行機の恐怖から逃れるためだけではなく、おそらく小説家って皆そうなんだろうと思うんだけど、旅のあいだ恩田さんは実にさまざまな夢想空想妄想あるいは考察を行う。活字として定着しここに公開されているのはそのうちの一部に過ぎないんだろうし、いちばん肝心な部分はいつか作品として結晶化されるに違いない。けれども、たとえ断片としても、思考の飛びっぷりや感受性の豊かさは、読んでいて面白い。作者がこれまでに親しんできたたくさんの小説や映画や音楽が、その記憶の倉庫から縦横無尽に引っ張り出されていくさまが楽しいのだ。このひと、相当な文学少女だったんだろうなあ(とにかく乱読だったと、WEB本の雑誌:作家の読書道というインタビューで語っている)。
 
 
 ところで、作者は東京で『リバーダンス』を観たことがあるそうで「度肝を抜かれた」と書いてあるのはいいんだけれど、えーと恩田さぁん、フィドルとバイオリンって、同じ楽器なんですけどぉ。
 

2005 05 01 [wayfaring stranger] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

飛行機嫌いの気持ち、非常によくわかります。僕は金属の塊が空を飛ぶことを全く信用していません。
そもそも、神様は人間は地を歩くようにと、羽をつけなかったのだと思います。だから人間が空を飛ぶのは、「神への冒涜」と常々主張しているのですが、まわりの人は「単に高いところが怖いだけでしょ」と簡単に片付けてくれます。当たっているだけに、反論できないのがつらい・・・。
ヨーロッパに行くのなら、新潟から船でウラジオストク、そこからシベリア鉄道でモスクワへ、後は電車とか船を乗り継いで行きます。だって、飛行機、怖いもん。たばこも吸えないし。

posted: helga (2005/05/06 12:17:19)

コメントありがとうございます。
ワタシの場合、飛行機は特に好きでも嫌いでもないですが、エコノミークラス症候群が怖いですね。一度だけビジネスクラスに座ったことがありますが、やはり快適さは全然違いました。とはいえ、ひとつ所に十何時間も閉じこめられている苦痛は変わりないですけど。

>新潟から船でウラジオストク、そこからシベリア鉄道でモスクワへ、後は電車とか船を乗り継いで行きます。
船酔いは大丈夫なんですね。羨ましいなあ。あと、シベリア鉄道って相当お尻が痛くなりそうで(笑)。

posted: とんがりやま (2005/05/06 13:24:13)

 

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