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[exihibition]:Gustave Moreau

●島根展 2005年3月19日〜5月22日 島根県立美術館
●兵庫展 2005年6月7日〜7月31日 兵庫県立美術館
●東京展 2005年8月9日〜10月23日 Bunkamuraザ・ミュージアム
○展覧会図録(写真上)
監修:木島俊介
編集:島根県立美術館+兵庫県立美術館+Bunkamuraザ・ミュージアム+東京新聞
制作:アイメックス・ファインアート
発行:東京新聞
(写真下:1995年展版カタログ)
編集:国立西洋美術館
デザイン:浅井潔
制作:アイメックス・ファインアート
発行:NHK+NHKプロモーション

1995年と今年の展覧会の両者の図録を見比べてみると、出品作にあまり重複がないのが嬉しい。たとえば、モローの代表作のひとつ、洗礼者ヨハネの首が宙に浮かぶ《出現》(1876年)などは、95年展では習作のスケッチが、05年展では最晩年に手を加えられたという油彩画ヴァージョンが出展されている。実は、もっとも完成度の高い水彩画の方はルーヴルにあって、どちらにも展示されていないのが残念だけれど、ふたつの図録を行ったり来たり眺めているだけでもそうとう面白い。
今回の展覧会では上記の《出現》の他に、《一角獣》(1885年頃)が観られたのが嬉しい。このふたつの作品に特に顕著な技法として、装飾部分(《出現》では背景の建築部分、《一角獣》では衣服やアクセサリーなど)を線描にしているのだけれど、意外に思えるほどざっくりとした色面と、極上の工芸品のような繊細な線描の対比が面白く、いくら眺めていても飽きなかった。こういう手法はモローのまったくのオリジナルってわけでもないんだろうけど、しかし一目で「ああモローだな」と思わせられるだけの独創性があると思う。
自分がその作品を買うつもりで絵を観ろ、という意味のことを、たしか赤瀬川源平さんとか橋本治さんあたりが言っていた記憶があるんだけど、本当に買うかどうかは別にして、ああ、これは手元に置いておきたいな、と思える作品があった。ギリシャ神話に出てくるアポロンと9人のミューズたちを描いた《アポロとムーサたち》(制作年代不詳)がそれ。B5サイズほどの小さな水彩画だが、色彩の美しさに魅入られてしまった。会場出口でポストカードを買ったのだけど、原画の微妙なニュアンスは、もちろんのこと、きれいさっぱり消されてしまっている。
モローは少年のころ、ひとつ下の妹を亡くしてからは両親の愛を一身に受けていたそうだが、彼が36歳のときに父親が没すると、母はモンマルトルに親子3人分の用地を購入したという。彼自身も母親を愛し(生涯独身だったが、ただし一生をともにした女性はいた)、58歳のときに母が亡くなると深い悲嘆にくれていたという(ま、こういう話はよくありがちなのかもしれないが)。最晩年には、自宅を美術館として遺すよう計画し、死の半年前には正式な遺言も準備した。そして、かねてから母親の用意していた墓に、予定通り埋葬されたという。芸術家といえばとかく破天荒な生涯というイメージを持ちがちだが、ギュスターヴ・モローは自分の人生の環を、計画通りきっちり閉じることができた。没後5年たらずで、念願だった自分の美術館を国家に引き受けてもらうこともできたし、かなり幸せな一生だったと言っていいんじゃないだろうか。
2005 07 04 [design conscious] | permalink
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