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【寿々】—大正時代の趣味絵本

 

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●寿々(Jou jou)
 山内神斧著/芸艸堂/大正7年6月初版・平成6年12月再版
 ISBN4-7538-0163-2
 
 初版が大正7年というから、えーと1918年になるのか。再版が平成6年だから1994年で、ほとんどヒトの一生ぐらいの時を越えての再版。なんだか凄みがあります。
 写真左側に映っているのは保管用の段ボールケースで、本体は右。和装本二冊が帙(ちつ)にくるまれています。
 
 中身はなんだというと、画集です。それも、木版多色刷という凝ったもの。部分的に手彩色も加えられているようにも見受けられますが、どうなんだろう。復刻や複写ではなく文字通りの「再版」で(出版社も同じ)、当時の版木を使い美濃紙に手刷りという、初版通りの方法で作られた本。ちなみに、版元である芸艸堂のサイトには「日本で唯一の木版本の出版社」とあります。この「寿々」などは、本と言うよりむしろ美術品扱いと言っていいかもしれません。
 ちなみに摺師のクレジットも入っていて、第一巻は竹中清八、第二巻は椙本喜一となっています。

 
 

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 帙を開けたところ。本冊が二巻と、再版時に附された解説書が一冊。
 
 何の画集かというと、当時まだまだ珍しかった世界の玩具コレクションを描いたものです。写生というには画家の個性が強く、イラストレーション・アルバムとして味わえます。
 集められた各国の玩具は、ドイツ、スリランカ(セイロン)、インド、ミャンマー(ビルマ)、中国、トルコ、イタリア、タイ(シャム)、ロシア、フランス、スイス、イギリス、ベルギー、ハンガリー、中華民国(台湾)、マレーシア、オーストラリア、インドネシア(ジャワ)。それと「南洋」とだけ書かれて国名不明のものもいくつか。なかなか幅広いです。その多くが画家仲間の協力で集められたものだそうで、その中には浅井忠や小林古径、岡本一平など、いまでもよく知られている名前も含まれています。
 
 
 別冊の畑野栄三さんの解説によると、ほんらい子どものためだった玩具に大人が関心を持つことは江戸時代からあったそうですが、その頃はまだ一部の好事家の道楽だったとか。明治から大正にかけてその「趣味」は広がりをみせ、若い知識層をも巻き込むようになったんだそうです。彼らも当時、コレクションを眺めつつ「激萌え〜」とか「キタコレ」とか言ってたんでしょうか(^_^;)。
 収集した世界の玩具は、もうすこし時代が下がれば写真集にでもなったのでしょうが、「寿々」は多色刷木版画(当初は木版画に手彩色)という手法を選びます。いかにも趣味の世界というか、まず著者本人がとても楽しんでいたんでしょう。大津絵ふうというか民画ふうというのか、非常に味のあるタッチで描かれています。
 
 
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 そのなかのいちページ。色が綺麗です。手書きのキャプションに「獨乙 伯林/板組焼繪線描/油絵具彩色/動物園」とあります。ドイツの木製の教育玩具、なのでしょう。
 
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 右ページは「南洋/厚紙のお面」。左はハンガリーの木製玩具で、どうやら羊らしい。この次のページには同じくハンガリーの木製山羊も描かれてます。白く塗られた木地に、赤と青の装飾がユニークです。一つ目の妖怪ふうにも見えますが。
 
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 「印度 ベナレス市/縫ひぐるみ 布細工」とあり、右が「男風俗」、左が「女風俗」。この写真ではわかにくいと思いますが、グレーのように見える部分は銀で着彩されており、なんとも品のある美しい絵です。ページを切り取って、このまま額装してもいい感じ。
 
 
 玩具といってもゲームの類はなく、人形や家のミニチュア、お面がほとんど。操り人形のように遊技性の高いものも含まれますが、いずれも素朴で民俗色豊かなデザインのものばかりコレクションされています。すでに現地でも消え去ってしまった玩具も多いことでしょうし、そういう意味でも今や貴重な資料となっていることと思われます。
 
 
 
 
 どの絵も素朴で愛らしくて…と書きたいところですが、なかにはこんなのもあります。
 
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 セルロイド製の、いわゆるおきあがり小坊師。「ハイデルベルヒの大學生」とあるからドイツのものでしょう。それにしてもなんというおっさん顔のビール腹。こ、こんな大学生はいやだぁ。

2005 08 24 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

うわあ、欲しいなあ、と思って調べてみたら絶版でした。(あ、「原版を廃して、以後重版をしない」わけではなさそうだから、正しくは「在庫切れ」「品切れ」なのかもしれませんが。)
残念だけど、結構なお値段(←当然のことですが)なのでそれはそれで運が良かったのかも・・・と思うことにします。

posted: liyehuku (2005/08/27 2:38:51)

コメントありがとうございます。
あ、現在はもう入手が難しいですか。芸艸堂のサイトには当該ページ
http://www.bookmall.co.jp/unsodo/jyu.html
が残っているので、てっきりまだ生きてるものだと思っていました。

>それはそれで運が良かったのかも
手に入らないと判ればかえってホッとするっていうのは、すご〜くよくわかります(^o^;)

posted: とんがりやま (2005/08/27 10:55:02)

 

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