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いつか見た未来
●WORLDS of TOMORROW
The Amazing Univers of Science Fiction Art
Forrest J. Ackerman with Brad Linaweaver
2004年/Collectors Press, Inc.
ISBN1-888054-93-X
Cover Design:Drive Communications
丸善のラストバーゲンで手に入れたうちの一冊をご紹介しましょう。
これは、1930年代から1950年代にかけてのアメリカのSF小説雑誌/単行本のカバーイラストを集めた本で、いやあこれは楽しいです。
私はSFには全く詳しくないので、マニアックな見方はまるでできないですが、ただ眺めているだけでも見飽きません。
B級というか通俗的というか、アメリカ産のSF映画とともに一般的な「SFのイメージ」を広く浸透させたのが、ここに扱われているたくさんのパルプマガジン。ひたすら読者を驚かせ楽しませることに意を注いで想像/創造された図像群は、今からみると笑えるものも確かに多いですが、しかし20世紀後半以降に生きる人々にとって、これらはほとんど無意識のうちに刷り込まれてきたビジュアルイメージであることも事実でしょう。それらは所詮ヴァーチャルでありフィクションなんだけど、しかし限りなく実在に近い存在として、われわれのうちにしっかり根付いています。
こういうビジュアルを創り出してきた画家やイラストレーターたちの発想の源がどのへんにあるのか。そのあたりの丹念な考察はたぶん誰かがやってることでしょうが、ガクモン的な研究はさておき、この本を見ながら思いついたところをいくつかあげてみましょう。
たとえば宇宙人。神話時代の昔から、妖精だのドラゴンだのといった想像上の生物を図像化してきた例は枚挙にいとまがないですが、なかでも宇宙人をタコみたいな造型として描いたのはH.G.ウェルズが最初なんでしたっけ。なんでわざわざ「タコ」だったのか、そのあたりはとても興味深いです。
左の図版は1936年の「Thrilling Wonder Stories」誌ですが、小人、頭でっかち、ぎょろりとした目玉、骨格を無視した腕、ひょろ長い指、鱗に覆われた無毛の身体など、古典的な宇宙人の姿になってます。どうもSFに出てくる「未知の生物」って、このように魚や海の生物的イメージが多いようです。ぬるっとした感触が、不気味な感じを演出させてくれるからでしょうか。ただ、ここでは図版を引用しませんが、中にははっきりアジア系の人間をイメージしていると見受けられる造型もあって、この時代のアメリカ人の人種意識なんかが透けて見えるものもあります。これはなにも宇宙人の造型に限ったことではなく、いわゆる「American Way of Life」を脅かす存在として、異なる言語や文化をもつ異邦人が悪役/敵役にさせられる例は、小説・演劇・映画を問わず、当時かなり多かったことでしょう。
この本にはロボットの絵も多いのですが、そのなかでもクリーチャーに近いものをひとつ。1952年の「Biology "A"」という作品の表紙だそうです。まんなかにはめ込まれているのは人間の脳なのかな。だとするとこれは、ロボットというよりアンドロイドになるんでしょうか。手足が見あたらないので、たぶん据え置き型かと思います。ふたつの大きな目玉はなかなか愛嬌があります。バイオロジーというタイトルでもあるし、おそらくこれは人工知能ならぬ、人間の脳の機能をブーストさせる装置なんでしょうか。どんなお話なのかはわかりませんが、こういうのって必ず、発明した博士に反乱を起こし、人類を支配しようと企むんですよね(笑)。こんな間抜けなデザインの「知能」には支配されたくないぞ、と誰もが思ってしまうような絵に仕上がってます。
ロボット方面は面白い図版が多いんですが、キリがないのでぜんぶ省略。かわりに、へんてこなヘルメットを被った作品をひとつ。テレビ人間? 後方の紳士ふたりが驚いてますが、そりゃびっくりしますよねえ。スクリーンが外向きになってるということは、画像を(自分自身ではなく)対面する相手に見せるための装置ってことなんでしょうか。つーか相手も同じヘルメットを被ってたら、見えないじゃん。いったい何をするためのヘルメットなのか、まったくわからないところが恐ろしい(笑)。
実はこの絵、1929年の「Science Wonder Stories」誌のもの。調べてみると、イギリスのBBCがTV実験放送をはじめたのがこの年だそうです。つまり、これは当時の最先端技術を取り入れた画期的なイラストレーションなのですね。ちゃんとアンテナもついてるあたりがリアルです。しかしそれにしても、重そうだなあ。ぜったいむち打ち症になりますよね、これ。
この本に取り上げられている1930〜1950年代はSFの黄金期で、さすがにその絵は今見ても<SFらしい>イメージに溢れています。図版は1953年「Magazine of Fantasy and Science Fiction」誌。宇宙ロケットはもちろん流線型で、こういう造型デザインは、20世紀初頭の未来派や構成主義、1930年代のアールデコ、あるいは第二次大戦前のバウハウスあたりが直接的なルーツになるんでしょうか。
芸術運動からの流れといえば、未来派などと同じように、ダダやシュールレアリスムも多大な影響を与えていそうですが、中でもまんまダリ風なのが1956年のアーサー・C・クラーク「Reach for Tomorrow」。ちょっと格調が高いというか、あまり通俗的な雰囲気はしませんが<悪夢の未来>的なイメージを演出するにはシュールレアリスムはぴったりはまります。
放射状に伸びた道路、空中を飛び交う自家用車…。こういう未来都市のイメージなんかは、もはや古典中の古典と言ってもいいでしょうね。この絵は1950年のものですが、「21世紀になったらこんな社会になってるんだ」と胸をときめかした少年たちも多いはずです。
ふたつの世界大戦および核爆弾に代表される科学/軍事技術の発達をはじめ、映画やテレビなどのマスメディアの急激な発展も、これらSFイラストレーションの質的向上に大きく貢献してきたことでしょう。20世紀後半にはさらにコミックスやアニメーションも加わり、イマジネーションはより精緻に、よりリアルになりました。今ではこういったかつての<SFイメージ>は、逆に現実のモノづくりのビジュアルイメージのためのアイディアソースともなっています。もっとも、今こんな形の自動車が実際に走っていたら、かえってノスタルジーを感じてしまうかもしれないですが。
図版をあげていけば際限がなくなるので、そろそろ打ち止め。これは1952年の「Galaxy Science Fiction」誌。フレドリック・ブラウンの名作「火星人ゴーホーム(1955年)」を思わせる情景ですが、この絵の方が少しだけ早い。この宇宙人は、あの小説ほどはなれなれしくも意地悪でもなさそうかな。もっとも、宇宙人から珍しそうに写真に撮られるっていうのは、どのみちあまり気分のいいものではないでしょうけど(笑)。
※各図版はクリックすると拡大します。
2005 08 15 [design conscious] | permalink Tweet
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