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[book]:都市の香り
●SCENTS OF THE CITY/都市の香り
Isabel Naegele, Ruedi Baur編著
2004年/Lars Müller Publishers刊 (Switzeland)
ISBN3-03778-012-6
Design:Ruedi Baur, Isabel Naegele
コンサイズ判というのかな。大きさだけでなく、全体のブック・デザインも辞書のようなつくりになっているこの本、実は写真集である。
世界中の都市の、交通標識や店の看板や道ばたの消火栓や公園のベンチやゴミ箱や路上の自動販売機や公衆トイレの表示など、どこの街の片隅にでも見られるさまざまな「光景」——風景、とまでは言えないだろう——の膨大なスナップが、AからZまでのキーワードごとに編集されているのである。
キーワードは必ずしもひとつのアルファベットに対し一項目だけというのではないのだけれど、たとえばこんな感じ(一部抜粋)。
・A AUTORITAIRE(権威主義)
・B BEZAUBERND(魅惑)
・C COMPLEX(複雑)
・C CONCENTRADO(集中)
・C CONTRADICTORY(矛盾)
・C CONTRÔLÉ(コントロール)
・D DIRECTIF(方向づけ)
・D DISCRETO(控えめ)
・E ÉLECTRFIÉ(感電)
・E ENVAHISSANT(でしゃばり)
・E EXTROVERTIDO(外交的)
・G GIGANTESCO(巨大)
・L LABORIEUX(骨折り)
・N NOMMÉ(指名)
・N NUTRITIOUS(栄養豊富)
・O OMNIPRÉSENT(偏在)
・Q QUIRKY(気まぐれ)
「注意」の項には、いわゆる「飛び出し坊や」(海外にもあるんだねえ)や「通学路」の標識、「危険につき立ち入り禁止」の看板など。「方向づけ」では「ロータリー」や「一方通行」などの道路標識の他に、道路にチョークで手書きされた矢印など。他には、たとえば「GEDULDIG(忍耐)」の項には世界のさまざまな郵便ポストが、あるいは「GESCHWÄTZIG(多弁)」ではおなじく世界のいろんな公衆電話、はたまた「SNOBBISH(俗物)」には駐車場に立てられた「VIP専用車」の看板、かと思えば「URGENT(緊急)」では公衆便所…というふうに、ときに標題にニヤリとさせられつつ、路上のいろんな造形物を楽しむことができる(出版社のサイトでわずかだが中身を見ることができる。 Lars Müler Publishers: Catalogue: Photography から「Scents of the City 」→「Details」をクリック)。
上の表紙写真からもわかるように、本書は日本語を含む10カ国語が併記されている。このブック・デザインもまるで多言語収録のDVDみたいで面白いのだが、収録された写真じたい、日本を含む世界のさまざまな街角で撮影されているようだ。巻末に撮影した都市の一覧が載っているが、どこの国かさっぱりわからない地名も多く、詳しめの世界地図帖を引っ張り出しながら読んでいくのも楽しい。
著者の興味は多岐にわたるので、ひとつのジャンルをとことんマニアックに追求しているわけではないけれども、それでも「歩道」や「歩行者横断」を示す標識、あるいは「歩行者用信号機」の各国のピクトグラム・デザインがずらっと並んでいるのは圧巻だし、こういう図柄ひとつとっても国によって違いがあり、実にさまざまなバリエーションがあるんだなあと感心させられる。
ピクトグラムだけではなく、貼り紙や落書きグラフィック、車道と歩道の境界を示す車止め、柵、パーキングメーター、看板建築、エレベーターのボタン…などなど、路上観察ネタが好きな御仁なら思わずニヤニヤしてしまいそうな写真がいっぱいだ。
こういうのが好きなのってデザイナーが多いんだよなぁと思ってたら、やっぱり著者のふたりは、フランス生まれとアメリカ生まれのいずれもデザイナーであり、また学校で教えてもいるらしい。それにしても、これだけの量を集めるまでにどのくらいの時間がかかっているのか見当もつかないけれども、その情熱には脱帽ものである。
我々がふだん眼にしていて気にも留めない光景——たとえば道ばたの自動販売機群——も、こういう写真集の一コマとして紹介されると、なんだかとてもユニークなものと感じさせられる。世界は実に多様だな、と思うし、けれども世界じゅうどこでも似たようなものなんだよな、と、まったく正反対の感想も同時に頭に浮かぶ。同じだけど違う、違うけど同じ。文化的な差異はそれとして認めつつ、ニンゲンがつくるモノって地球上のどこでも結局似てるよね、という事実も楽しめる。少し大げさな言い方になるかもしれないけれども、<グローバリズム>って要はこういう行為を味わうことでもあるんじゃないか、などとさえ思ったりする。その昔『WHOLE EARTH CATALOG』という本が流行ったことがあるけれども、この写真集だって<全地球カタログ>と言ってしまっていいのかもしれない。
と、そういえばこの本には、たぶんアイロニーが込められていると思うんだけど、ずばり「GLOBAL(グローバル)」と題された項もある。神戸や大阪や上海、プラハやモントリオール、ニコシア(キプロス)やフェズ(モロッコ)など、撮影された場所は違えども、写っているのはおなじみのあの赤い地色に白抜きのロゴマーク。…そう、Coca-Colaの看板である。
2005 09 04 [design conscious] | permalink Tweet
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