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[exihibition]:アール・デコ展

●アール・デコ展——きらめくモダンの夢 ART DECO 1910-1939
東京展 2005年4月16日〜6月26日 東京都美術館
福岡展 2005年7月10日〜9月4日 福岡市美術館
大阪展 2005年9月15日〜11月6日 サントリーミュージアム[天保山]
企画:ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館+ギレーヌ・ウッド
【写真】展覧会カタログ
編集:天野知香+読売新聞東京本社文化事業部
発行:読売新聞東京本社
デザイン:美術出版デザインセンター 垣本正哉+笠毛和人+河野素子
この展覧会は、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館が企画し、2003年からカナダやアメリカでも巡回された同題の展覧会の日本版ということだ。日本展はすでに春の東京と夏の福岡を終えていて、この秋ようやく大阪にやってきた。私はオリジナル版を観ていないので、日本版とどこが違うのかは詳しくはわからないが、大阪での展覧会も、なかなかに見応えのある内容だった。
ところで、カタログの巻頭論文によれば、そもそも「アール・デコ」の定義すら、いまだに確定していないのだという。おおまかにいえば20世紀初頭、ふたつの世界大戦に挟まれたごく短い期間に、西欧社会を中心に爆発的に流行した装飾芸術、ということになるのだろうけれど、首尾一貫した様式や制作理論があったわけではない。だからひとくちに「アール・デコ」といってもその内実はさまざまであり、人によっては「これもアール・デコなの?」と首をかしげてしまう<デザイン>も含まれることになる。
このあたり、同時代の芸術運動、たとえば「キュビズム」や「ダダイズム」のような「〜主義」とおなじようなものとしてアール・デコを捉えてしまうと、かえってよくわからないヌエのようなものになってしまうのかもしれない。
あえて言うなら、アール・デコとはせいぜい「時代の美意識」ではないか。
私なりの理解では、これは20世紀を通じて発展していく大量消費社会の幕開けを告げる、いわば<ビッグ・バンの輝き>のようなものだと思う。
少なくとも、決してひとりの天才が創った「アール・デコという様式(スタイル)」が世界じゅうでもてはやされたということではない。この時代、工業/商業/マスメディアが急速に発達したおかげで、西欧の(主に裕福層の)一般市民が「消費者」となっていく。それまでの時代とは比べものにならないくらい種々雑多なモノが大量に作られ、売られ、消費されていったのがこの年代で、その過程で徐々に洗練され、同時に大規模な流行をも生み出した、その総体がこんにち「アール・デコ」と呼ばれているのだと思う。
(前略)ほぼ全ての解説者たちは、商業的、装飾的で、本質的には保守的なその様式の特質を認めてきた。アール・デコの作品は大抵の場合、装飾的な外観の価値や効果を重視し、斬新で革新的ではあるが、急進的でも革命的でもないのである。(カタログ序文、ギレーヌ・ウッド/吉田紀子訳・pp09〜10)
この展覧会では、「アール・デコ」を狭い様式では定義せず、それが種々雑多な趣味趣向の集合体であると主張する。たとえば、展覧会冒頭でアール・デコに影響を与えた先行美術を例示しているのだが、古代エジプトもあれば同時代のアヴァン=ギャルドもあり、ドメスティックな民族主義もあればエキゾチックなオリエンタリズムも、というふうに、デザインのアイディアソースはてんでバラバラなのである。そして、これらのソースはどれも代替可能な均等な一要素として扱われ、適当に取捨選択され組み合わされ改変されて、同時代の「消費者」に提供されていく。ここで優秀なデザイナーに問われるのは、おそらく何をチョイスしどう編集していくかというセンス、つまりは「美意識」であろう。上の引用文が指摘する<保守的>で<急進的でも革命的でもない>アール・デコの本質を、具体的に鮮やかに示した導入部だと思った。
とはいえ、この展覧会のいわば<目玉商品>は中盤以降だろう。とりわけ「アール・デコ」という名称の元になった、1925年のパリの<現代産業装飾芸術国際博覧会 Exposition Internationale Des ARTS DÉCORATIFS Et Industriels Modernes>の出品作をたくさん観ることができたのは幸せだった。他にも、30年代のなんとも優美なイヴニング・ドレスは息を呑むほど官能的だったし、カルティエの宝飾品の数々も圧巻。また、カッサンドルの有名なポスターと一緒に上映されていた、伝説の豪華客船「ノルマンディー号」を撮った短いフィルムも興味深いものだった。ポール・コランの描いたジョセフィン・べーカーのスケッチはどれも自宅に飾ってみたいものばかりだったし、大好きな画家のひとりであるラウル・デュフィがデザインしたテキスタイルが、思いのほかたくさん展示されていたのも、個人的にサプライズだった。
サプライズといえば、展覧会の「サントラ盤」とでもいうんだろうか、「アール・デコ展」のための3枚組のオリジナルCDが販売されていたのにも驚いた。
●The ART DECO Music Collection
RRCD116/117/118/VA
2003 River Records/Victoria and Albert Museum, London
ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館制作のこのCDは、一枚目がニューヨークのコットン・クラブ、二枚目がフレッド・アステアを中心としたハリウッド・ミュージカル、そして三枚目がヨーロッパのキャバレー・ソングと、「アール・デコ」の時代を象徴する音楽を集めたコンピレーション・アルバム。CDつきの展覧会なんて初めてなのでとてもビックリしたんだけれど、ブックレットを見ると同美術館ではこれまでにもテーマ別のCDをたくさん制作していたようだ。中には日本を主題にしたアルバムもあるようで、うーん、これはちょっと聴いてみたいかな(ウェブショップはこちら)。
2005 09 24 [design conscious] | permalink
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comments
はじめまして。
とても解りやすくて、読みやすい文章ですね。
こんな風に書けて羨ましい。
「時代の美意識」って、納得です。
posted: むむむ (2005/09/28 1:17:19)
はじめまして、コメントありがとうございます。
お褒めいただき、恐縮しております。
絵に限らず本や音楽でもそうですが、感想を書くのってホント難しいなぁと、つくづく思う今日このごろです。
posted: とんがりやま (2005/09/28 13:38:19)
はじめまして。興味深く拝見させていただきました。先ほど展覧会に行ってきたのですが、なかなかまともに感想が書けずに(いつもなのですが)困ってしまいました。「20世紀を通じて発展していく大量消費社会の幕開けを告げる、いわば<ビッグ・バンの輝き>のようなものだと思う。」という表現が、とても素敵です。
勝手に申し訳ありませんが私の駄ブログでご紹介させていただきましたのでご報告をば。また、ちょくちょく伺わせていただきます。
posted: 熊猫(HAL) (2005/10/24 23:05:01)
はじめまして、コメントありがとうございます。
アール・デコって何? っていうのは、確かにわかりにくいですよね。私もこの展覧会を観るまでは、漠然としたイメージしか持ってませんでした。そのあたりを明確に示してくれたことだけでも、とても良い企画だったと思います。
このオリジナルCD、私も何度も聴いてます。もともとアステア大好きってこともあって、すっかりお気に入りになりました。
難点といえば、ケースに指紋がつきやすいことでしょうか(^_^;)
posted: とんがりやま (2005/10/25 13:23:27)