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[DVD]:Antología del Flamenco

 

AntologiaFlamenco

 
●フラメンコ・アンソロジー Antología del Flamenco
 スペイン国立放送制作(1998〜1999年)
 PFBR-0009/株式会社パセオ/2005年10月発売
 ISBN4-89468-164-1/本編58分+特典映像8分
 
 ふぅ。
 見終わって、思わず溜息が出る。
 
 このDVDは、スペイン国立放送 Televisión Española (TVE)が1998年から放送したテレビ番組の中から、フラメンコの名演だけを厳選したものとのこと。番組のタイトルは日本語に訳すと『フラメンコ、もっとなにか』というそうである。フラメンコそのものだけでなく、その周辺をも探っていこうとする、なかなか意欲的な番組だったらしい。
 収録演目は12曲、出演者はクレジットされている名前だけ拾っても16組に及ぶ。<厳選>されているだけあって、確かにどれも見応えのあるものばかりだ。
 このうち、バイレは3人。エバ・ジェルバブエナ Eva Yerbabuena のみ2曲踊っていて、アントニオ・カナーレス Antonio Canales とマリア・パヘス María Pagés が1曲ずつ(マリア・パヘスは特典映像にインタビューも収録されていて、本編以外の踊りを少しだけ見ることができる)。ギター独奏はニーニョ・デ・ブーラ Niño de Pura が1曲入っている。
 
 残る7曲がカンテなのだが、そのうち2曲はTVEのアーカイヴから歴史的演奏を収録している。この古い映像がとても良い。
 というのも、もともとがテレビ番組なので、収録はスタジオ・ライブなんですね。観客は100人足らず、という感じで、拍手や歓声は熱いのだけど、いかんせんセットだから、どうしたって風情には欠ける。そのぶん、クリアな映像だし音声的にも条件は良いんだろうけども。
 その点、アーカイヴ映像の方は、どこかのタブラオで撮ったものだろう、確かに映像は古びてはいるけれども、雰囲気が最高にいい。個人的な趣味としては、こういう古い映像だけをたっぷり見たいところである。
 
 カンテの人たちも含めて、私はフラメンコの世界はほとんど無知に等しいから、個々の演奏について細かく云々することはできない。いずれ劣らぬ名演であることには違いないはずだから、あとはそれぞれの好みの問題になるだろう。私も、これから幾度となく見返そうと思う。
 
 本場スペインの貴重な放送が見られるだけでも誠にありがたい話ではあるのだが、こうなると欲も出てくる。このディスク一枚で当代の名人・巨匠たちの名演が存分に楽しめ、また古いフラメンコの匂いも感じることはできるのだけど、そのため番組名の『もっとなにか』の部分が大幅にカットされているのは残念に思う。総放映時間がどのくらいになるのか知らないが、ぜひオリジナルノーカット版もDVDでシリーズ化して欲しいものだ。
 
 
 私はマリア・パヘスの大ファンで、このDVDもマリアの名前が載っていたから買ったんだけれども、彼女はここでもマリア・パヘスだった。いや、こういう書き方は意味不明だな。つまり、他の出演者がみな「伝統的なフラメンコ」の枠組みに存在しているのに対して、マリア・パヘスはひとり「その先」を突っ走ろうとしている、その対比が非常に面白かったのである。本編に収録されている演目はアストル・ピアソラ Astor Piazzolla の「コントラバヒッシモ Contrabajisimo」(かの名盤『タンゴ・ゼロ・アワー Tango : Zero Hour』(1986)に収録)。本ディスクの大トリ・12曲目での登場で、堂々たる名演である。いかにもテレビ的なアングルとカット割りには少々不満が残るが、まあ、そこまで言うのは贅沢すぎるだろう。
 
 先にも書いたが、特典映像に彼女のインタビューが入っている(約4分)。そこからごく一部を引用する。
—あなたを他のダンサーと区別しているものは何だろう?
 
—わたしはいつも 芸術は第一に自由であるべきだと考えてきました
 自由な感じかたを持っていたことで フラメンコを別の視野から見れたんでしょう
 ほかの人には見えなかったのか 見えてもやる勇気がなかったのか
(訳・高場将美)

 彼女の独自性と自信のほどがよく表れているインタビューだと思う。

2005 11 12 [dance around] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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