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[live]:@ロバハウス

 

robahouse

 
 
 年に一度、秋の終わり頃にロバハウスに通うのが習慣になって、かれこれ5〜6年くらいだろうか。
 守安功&雅子ご夫妻の主催する「アイルランドの風」というコンサートシリーズを聴くのが目的である。このシリーズは、アイルランドから夫妻と交流の深い著名ミュージシャンをゲストに迎えておこなわれるもので、めったに聴くことのできない質の高いアイリッシュ・トラディショナル・ミュージックを間近でたっぷり堪能することができるのだ。
 会場のロバハウスはロバの音楽座の練習場で、べつにステージがしつらえてあるわけではない。観客は背の低いイスもしくは座布団に座り、ミュージシャンとの濃密な時間を共有する。この「会場の狭さ」がひとつのポイントかもしれない。コンサートとはいえ、ここではマイクのたぐいは一切使わないし、時間によってはガラス窓の向こうから西日が差してくるような、限りなくナチュラルでアコースティックな空間なのである。
 何人くらい入るんだろう? どれだけぎゅうぎゅう詰めにがんばっても、おそらく100人が限度じゃないだろうか。見渡すと、壁の至る所に古楽器や珍しい民族楽器がぶらさがっていて、それらを眺めているだけでも楽しくなってくるような、そんなアーティスティックな空間のなかで行われるライブは、いちど体験したらもう他のPAつきの大会場コンサートがバカバカしくなってくるくらい、独特の雰囲気に包まれている。
 
 ロバハウスは玉川上水駅から徒歩5〜6分のところに位置していて、今頃の季節だと上水沿いの雑木林がキレイに色づいている。あの周辺のクヌギの香りが私にはとても懐かしく、いつかはあたりをゆっくり散歩したいなと思うんだけど、毎年ライブを聴くだけですぐに帰ってしまう。ううむ。
 
 
 今年はこのライブが10月と11月の2回にわたって行われた。10月の方は行けなかったが、そのぶん11月26日と27日のコンサートに通い詰めてきた。
 今回のゲストはショーン・ライアン Sean Ryan 。ティン・ホイッスルの名人として、アイルランド音楽ファンには広くその名を知られている人だ。
 
 
 先日、アイリッシュ音楽と古楽との親和性についてちょっとしたエントリを書いたんだけど、偶然というのかどうか、このショーン・ライアンに魅せられたひとりとして、バロック・フルート/リコーダー奏者の田中潤一さんがいる。なんでも今年の5月にはじめてショーンのCDを聴いて強い感銘を受け、夏には彼に会いに渡愛、そしてこの秋にはショーンの来日ライブをいくつかコーディネートするに至ったということで、なんともはや実にスバヤイ人である(参考:リコーダー二人旅)。
 26日には、その田中さんも会場に来られていた。さすがに「バロックとアイリッシュトラッドのフュージョン」はなかったが、バロックフルートをアイリッシュのウッド・フルートに持ち替えて、何曲かショーンと共演されているのを聴きながら、ああ、やっぱり古楽とアイリッシュってなだらかな地続きなんだなという思いを強くした。
 
 2日間通い詰め、と書いたが、ライブは一日2回あるので、つごう4回聴いたことになる。なんだかあきれられそうだが、このライブは「決まったプログラムを決まった通りに演奏する」たぐいのものではなく、その場その場で曲目も進行も全く変わってしまうから、いつでも新鮮なのである。同じ曲でさえ、その内容ががらりと変わってしまうことも少なくない。まさに「一回きりのスペシャルな」ライブだから、こちらに時間の許す限り、できるだけ何回でも聴いておきたくなるのだ。どうせ交通費と宿泊代を使うことにはかわりはないんだし。
 
 今回のショーン・ライアンも、土曜と日曜では全く違ったライブになった。さらにいえば、それぞれ第一回目と第二回目とでも、がらりと印象の異なる内容だったのだ。
 ショーンには、キアラちゃんという娘さんがいるのだが、土曜日のコンサートの最中、じつは本国アイルランドでは、ダンスの全愛選手権大会が開かれていたのだそうだ。ショーンの奥さんは著名なダンス教師で、キアラもごく小さい頃からアイリッシュ・ダンスをやっていて、彼女がそのコンペティションにエントリーしていたのだ。
 土曜日、ショーンはコンペの結果をしきりに気にしていたらしい。結果は「審査委員全員から満点を獲得しての堂々たる優勝」だったということで、そのおかげで(?)日曜日のショーンのプレイはノリにノっていた。
 その日曜日、第一回目前半は大ダンス・チューン大会で、ぶっぱやいチューンが矢継ぎ早に繰り出されるさまが圧巻。二回目の公演おなじく前半では、一転してスロー・エアと無伴奏歌(彼の声がまた素晴らしく良い)がたっぷり聴けて、このふたつは、これまでちょっと経験したことのないくらい、こちらの胸に迫ってくるものがあった。
 
 全部の公演が終わり、私と同じく二日間通い詰めていたホイッスル吹きの友人とふたりで、いやぁ、神業以外のなにものでもないよねえ…という話をしていた。でもまぁ、いい音楽を聴くことは、耳への栄養なんだよね、などと言ってると、「や、その栄養がなぜかこっちについちゃって」と、軽く目立ち始めた腹のあたりをなでさすりつつ苦笑していたおぢさんふたりでありました(笑)。
 
 しかし、そういう話でいえば、ショーン・ライアンのあのみごとな腹、あの中には最高級の音楽がたっぷり詰まっているに違いない。
 
seanswhistle

(写真:ショーン・ライアンが使っていた二本の笛)

2005 11 28 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

金曜日の武蔵野スイング・ホールも No PA でした。黒い方の笛しか使っていなかったと思います。やはりちょっと時間が短くて、ようやく乗ってきたときに終わりという感じでした。何もかもすばらしかったですが、3度目のアンコールでショーンがソロでやった〈チーフ・オニールへの哀歌〉がもう、この世のものとも思えませんでした。

posted: おおしま・ゆたか (2005/11/28 23:57:42)

ライブを堪能されたようでうらやましい!とても素敵な空間&時間だったというのが伝わってきました。
予定が重ならなければ行きたかったです(涙)
土日4公演というのは…全く問題ないです!
その時にしか味わえないライブの体験というのは、なにものにも替え難いと思いますので。
私も結果的に広島で同じことをしてしまいましたしー(^^; しかし、私の場合、贅沢の前後はせいぜい働かねば(汗)
でもでも、Riverdance日本公演ラストはとても盛り上がって楽しかったので、
自分にとって行くだけの価値はあったと思います!
ロバハウスのライブもきっとそうですよね?次の機会にはぜひそれを味わってみたいものです。

posted: にーぐ (2005/11/29 2:20:30)

こんにちは。
いつぞやは、うちのBlogにもコメントありがとうございました。
私も、今回スイングホールの方に足を運びました。(おおしまさんもいらっしゃったんですね)
一度ロバハウスにも行きたいと思っているのですが
なかなかタイミングが合わなくて未だ行けてません。(^ ^;)
レポートを読みながら演奏を思い出しました。

posted: こやまけいこ (2005/11/29 13:09:32)

 コメントありがとうございます。

>おおしまさん
 記憶に間違いがなければ、白いホイッスルはC菅だったかと思います。確かに、滅多に使われることはなかったような。
 エアーは、17世紀後半の英国支配下時代にちなんだ曲や歌が多かったですね。〈チーフ・オニールへの哀歌〉も聴くことができましたが、仰るとおり、この世ならぬものを感じました。さすが精霊の棲む城で暮らしているだけあって、ショーンにとっては17世紀も現代も等しく「同時代」なのかもしれません。


>にーぐさん
 広島遠征お疲れさまでした(^_-)。そちらも充実されていたご様子。
 >私の場合、贅沢の前後はせいぜい働かねば(汗)
 同じくでーす。一年後に向けて、今からせっせと貯金せねば(笑)


>こやまさん
 ご無沙汰しております。武蔵野もよかったらしいですね(ギネス付きってのがいいですよねぇ)。でも、あそこはいつもチケット入手が困難を極めそう…。
 ロバハウスは、アイリッシュ関係以外にも定期的にいろいろコンサートを企画されているようですので、機会がありましたら、ぜひぜひ。って、あそこも熱心なファンが多い場所なので、あまり宣伝めいたことを書くとアレかもしれませんが(^_^;)

posted: とんがりやま (2005/11/29 16:25:50)

 そうそう、スイング・ホールはギネスもありがたかたったですが、何と半パイント・グラスまでおまけでいただきまして、あれは嬉しかったです。もちろん、ギネスのマーク入り。武蔵野は固定ファンがいらっしゃるので、チケットを取るのはなかなか大変ですが、それでもご一緒したSさんの笛仲間が最前列ど真ん中を取っていたそうですから、気合いを入れて電話すれば思いは天に通じるでしょう。
 それとCCEの山本さんが飛び入りでステップ・ダンスを披露されたのも、良かったです。
 こやまさん、はじめまして(だと思いますが)。年末進行、ご苦労様です。職種を限らず、フリーにはなかなか大変な時期でありますね。無事、くぐりぬけられんことを。

posted: おおしま (2005/11/29 19:11:26)

>とんがりやまさん
ロバハウス、そう聞くと行きたくなりますね。(笑)
まめにチェックするようにしようと思います。
ちなみにギネスビールはこれで、もらったグラスにセルフでついで飲みました。
http://www.sapporo-guinness.co.jp/

>おおしまさん
はじめまして。いきなり名指ししてすみません。
メルマガなどででいつも文章を楽しんでいます。
今やっている仕事はあまり年末進行に関係ないのですが、
なにかと気ぜわしい時期ですよね。おおしまさんもご自愛ください。

posted: こやまけいこ (2005/11/30 21:13:47)

にょき。
こんばんは。

とんがりやまさんが写したロバハウス、すばらしい“作品”ですね。
あの日の風景がよみがえってくるようです。

S.R、今でも私の中でじわじわと“来てます”。

もうひとつの画像の白い方の笛は、C管でまちがいないでしょう。
ロバハウスに住む精霊、ののほさんが歌った“Salley Garden”で使っていたと思います。

それにしても私、とんがりやまさんに向かって、思い切りベタな会話してますね。猛反省!

posted: のすけTheふうらい六穴縦笛吹き (2005/11/30 22:11:27)

>ギネス
 おお、グラスまで! なんと太っ腹なサッポロ。そうそう、あれで飲むとまた格別なんですよねぇ。

>のすけさん
 どもども、その節はお世話になりました。写真お褒めいただいて恐縮です。画像傾いとるやんけゴルア!と、セルフツッコミしておきます(^o^;;)
 >思い切りベタな会話
 ふっふっふ。「ベタな会話」は、関西人にゃア・プリオリ。つーかデフォルトですぜ、ダンナ(笑)。またどこかでバカ話しましょう。

posted: とんがりやま (2005/12/01 12:21:45)

 

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