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ウディ・ガスリーの頭のなか

 

woodysartbook

●WoodyGuthrie ARTWOKS
Steven Brower & Nora Guthrie
with contributions from BillyBragg & Jeff Tweedy
Rizzoli/2005年初版
ISBN 0-8478-2738-0
Design:Steven Brower

 ウディ・ガスリーの膨大なスケッチを集めた、なんとも嬉しい画集だ。この人の絵がまとまった形で出版されるのは、おそらく今回が初めてじゃないだろうか。
 
 ウディ・ガスリー(1912-1967・オフィシャル・ウェブサイト)はオクラホマの生まれ。父親の事業の失敗など度重なる家族の不幸をきっかけに16歳で家を出、さまざまな仕事をしながらアメリカ各地を放浪。シンガー、ソングライター、ラジオ番組の制作など多方面で活躍した。アメリカン・フォーク・ソング・リバイバルを牽引した重要人物として、アメリカ音楽関係の本ではたいていピート・シーガーとセットで言及されることが多い(実際、一緒にグループを組んでいた時期もあった)。彼のレコードを聴いたことがない方でも、ボブ・ディランなど多くのフォロワーを通じて、彼の作った歌はどこかで耳にしているはずである(代表曲となるとやはり『This Land Is Your Land』になるのかな)。
 
 いやそれにしても、ウディ・ガスリーの絵がこれほど面白いものだとは。本書は1935年〜41年、1942年〜47年、1948年〜57年の三期に章を分けて収録している。そのほとんどがノートやメモ帳に気ままに描かれたスケッチで、カンバスに描かれた油彩画もあることはあるのだが、いずれにせよアカデミックな絵画教育は受けていないだろう(なにしろハイスクールを終える前に放浪の旅に出ているんだし)。とはいえ、というか、だからこそ、その闊達で生き生きとしたタッチは眺めていて飽きない。
 
 この本に収録されているほとんどのドローイングは、たぶん文字通りのスケッチとして、気分のおもむくまま気軽に描かれたものと思われる。画材も多彩で、鉛筆、ペン、筆、あるいはパステルなどさまざまである。きっと、最低限ノートとペンはいつも肌身離さず携帯していたんじゃないだろうか。詩が浮かんだら言葉を書き留め、簡単な五線譜に音楽をメモし、その傍らに簡単な絵を添える…といった感じで、言葉も音もビジュアルも、ウディ・ガスリーの中ではどれも同じくらい大切なものだったに違いない。

Woody1 ちょっとだけ図版を引用してみる(以下、画像クリックで拡大します)。右は1942年のダイアリーに描かれたもので、“Rubberface John”と彼自身が名付けたオリジナル・キャラクターの百面相。1940年代初期まではこのようなマンガが多く、当時のアメリカン・コミックスやカートゥーンからの強い影響をうかがわせる(Steven Browerの解説文には、たとえばジェームズ・サーバーの名前も挙げられている)。時節がら戦争をテーマにしたドローイングもたくさんあるが、ギターをかき鳴らすブルーズ・シンガーのスケッチや社会問題を扱ったカートゥーンなど、いかにもウディ・ガスリーらしいテーマも多い。
 
Woody0
 左は1946年ごろのもの。この頃から、女性を描いた絵が多くみられるようになる。ズバリ性愛をテーマにしたものも少なくないが、それ以上に母性をイメージさせるスケッチが多い。なかでも後ろ姿を描いたものが多いのが特徴かもしれない。幼い頃に、忙しく立ち働く母親の後ろ姿をたくさん見てきたんだろうか。どのスケッチも、殴り書きのような荒っぽい筆遣いだけどデッサンは確かで、ちょっとマティスを連想してしまった。
 
 
 1952年に、ウディは母親と同じ不治の病にかかり、以後長い長い闘病生活に入る(レコードデビュー前のボブ・ディランが病室に通い詰めたのは有名な話)。この画集には闘病生活に入ってからのスケッチも収録されているが、どこかユーモアを感じさせる自由でおおらかなタッチは最後まで変わることがなかった。
 
Woody2
 本書の最後には、ちょっとしたサプライズがある。ノートをそのまま縮小したレプリカが附録になっていて、なんとも楽しい(写真右。なお、重しがわりに使った右下のCDジャケットは、1988年に発売されたガスリーとレッドベリーのトリュビート・アルバム『FOLKWAYS:A Vision Shared』)。このあたりの芸の細かさは、シンプルだけど品の良いブック・デザインとともに、いかにもアメリカならではという気がする。
 そうそう、レプリカといえば、このところボブ・ディランのちょっとしたブームのようで、自伝が出版されたり、映画『ボブ☆ディランの頭のなか/Masked and Anonymous』やマーティン・スコセッシのドキュメンタリー『No Direction Home』が話題になったり、2006年3月からはじめてラジオDJに挑戦するのがニュースになったりと、なんだか御大ますます元気、てな感じなんだけど、そんな勢いのなか出版された、あのおもちゃ箱のような『BOB DYLAN SCRAP BOOK 1956-1966』の日本版を出したソフトバンク・クリエイティブさん、そのノリで次はウディの画集も出してみません?

2005 12 29 [design conscious] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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comments

こんにちは。
去年だったか一昨年だったかテレビでボブ・ディラン主演の"Masked and Anonymous"(2003年)という映画を観ました。
http://us.imdb.com/title/tt0319829/
彼が演じるのは伝説のシンガー(ただし過去の人)・・・つまり本人とだぶる役柄。終始、ボブ・ディランの愚痴(過去への後悔、自嘲)が聞こえてくるような映画で、正直あまり楽しい映画ではありませんでした。(ただしキャストが豪華なので眺めているだけでも結構満足できます。)
私は全盛時代の彼をリアルタイムで知らず、後々有名な歌を偶然耳にしたり彼の伝説を何かの本で偶然読んだりしたことしかないのですが、それでも映画を観ながら「すっかり過去の人になってしまったんだなあ」とちょっと寂しく思いました。
最近のボブ・ディランのブームは、何となく彼が既に過去の人である前提で出発している感があり、何となく奇妙な感じがします。どこへ行くんだろう?

posted: liyehuku (2006/01/11 6:38:24)

 コメントありがとうございます。
 ディランはホントに不思議な人だなぁという印象です。これまでにも、何度も何度も「過去の人」扱いされていたはずですが、その都度ふらっと戻ってきて復活を遂げているような。
 ガスリーの方は、さすがに故人ということもあって、もはやすっかり歴史上の人物ですが、こういった形でその新しい魅力を紹介されるとは思ってもみませんでした。きっと、ガスリーの歌を知らずとも楽しめる画集ではないかと思います。

posted: とんがりやま (2006/01/11 14:23:00)

 

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