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最近買ったアイルランドの写真集(1)
友人に「こんな本出てるよ〜」と教えられた本を二冊、2回にわたってご紹介したい。いずれもアイルランドを撮った素敵な写真集だ。

●IRELAND EVER
Jill Freedman著/Frank McCourt, Malachy McCourt テキスト/Harry N. Abrams, Inc./2004年9月刊
ISBN0-8109-4340-9
著者のジル・フリードマンは、現在ニューヨーク在住の女性フォトグラファー。ピッツバーグ大学卒業後の60年代前半は、ロンドンなどヨーロッパのいくつかの都市のナイトクラブで歌って生活していたんだそうな。カメラは独学だそうで、写真家になると決めたのは1968年、早くも1970年には最初の写真集を発表している。
彼女がアイルランドをテーマにした本を出すのはこれで2冊目で、1987年の《At Time That Was : Irish Moments》以来となる。私はこちらの方は持ってないのではっきりしたことは言えないが、収録写真のかなりの部分は重複しているもよう。ちなみに、本書には『アンジェラの灰』のフランク・マコート Frank McCourt がエッセイを寄せている。
この写真集には撮影地以外のデータが記載されていないので詳細は不明だが、おそらく1973〜74年頃に撮影されたものばかりだと思われる。北のドニゴールから南のコークまで、東のダブリンから西のメイヨーまで、アイルランド全土をかなり精力的に動き回っている。
フリードマンの写真がアイルランド音楽ファンにとって見逃せないのは、伝統音楽家を撮ったものが多く含まれているという点である。それになにより、彼女の写真からはアイルランドに生きる人々に対する、愛情に満ちた暖かい視線が感じられるのが嬉しい。
ウェブ・サイトでフリードマンの写真を観ることができる。
○http://www.irelandever.com/index.html
こちらは《IRELAND EVER》専用サイト。フリードマンの略歴等も載っている。写真集の一部はここでも閲覧できるが、下に記す公式サイトの中に《At Time That Was : Irish Moments》があり、こちらの方が点数が多く、画像も若干大きいのでおすすめ。
○http://jillfreedman.com/
公式サイト。ジル・フリードマンの過去の仕事がここで一覧できる。これを見れば、上に書いた「愛情に満ちた暖かい視線」がアイルランドに限らない、フリードマン作品全体を包む大きな特徴であることがわかる。警官や消防士を撮った作品群でも、緊迫したドキュメント写真につきもののクールな激しさというより、どこかユーモラスで、やわらかく大らかな印象を受ける。
公式サイト→《At Time That Was : Irish Moments》の冒頭に出てくる〈Fiddler's Light〉と題された写真(本書11p)は、アイリッシュ・フィドル・コム:A MOMENT IN TIME[irishfiddle.com]に詳しい解説が載っている。それによるとこのショットは1974年にドニゴールで撮影されたもので、フィドラーはジョン・ドハティ John Doherty 。後の男性ふたりは若き日のジョー・バーク Joe Burke とパディ・オブライエン Paddy "Cit" O'Beirne とのことだ。…と、こういう説明が本書には全く載っていないのは、ちょっと残念。
他にもたとえば、雄大な牧草地のど真ん中で一心にホイッスルを吹いてる男の写真がある(pp.24-25)。ハンチングを被ったホイッスル吹きの後方には牛の親子が音楽に聴き入っていて、思わず微笑んでしまう写真なのだが、クレジットには「DOOLIN County Clare」とだけ。ドゥーリンでホイッスルっていえば、マイコー・ラッセル Micho Russell の名前が真っ先に思い浮かぶし、手持ちのCDの写真と比べても似てる気がするが…うーん、どうなんだろう。…などなど、一枚一枚の写真がいろいろ気になるのである。このあたりは先頃DVDになった《Come West along the Road》などが、あるいは参考になるかもしれない。
「ミュージシャンの写真集」というテーマの本じゃないんだし、被写体が誰だなんて詮索する方が野暮だよ、と言われるかもしれない。実際、音楽関係以外でもいい写真はたくさん収録されているし(表紙の寝ている子供の写真なんかもそのひとつ)分量的にもミュージシャンが写っているのは全体の1〜2割程度だろう。ただ、アイルランドの人がこの写真集を見たら、たちどころに「ああ、この人は誰それで、その息子は今こんな仕事をやっていてね」などといった話に花が咲くことだろう。彼らにとってはこの写真集の誰もが「見ず知らずの赤の他人」ではないはずだし、当の本人に関する思い出はもとよりその家族や友人のことにまで、うわさ話が延々続くにちがいない。そういうおしゃべりに耳を傾けることこそが、まんまアイルランドを体験するということでもあるんじゃないかとも思う。
まあ、そういうことを抜きにしても、ガイジンである我々の目から見ても、写っている人たちの誰もがみな、なんていい笑顔をしていることか。そして、地面にしっかり足を着けて生きているように見えることか。
お気に入りのアイリッシュ音楽CDをかけながらゆっくり写真集をめくっていると、見覚えのあるショットが。《Far From the Shamrock Shore: The Story of Irish-American Immigration Through Song》(Mick Moloney/The Collins Press/2002年刊/ISBN1-903464-13-7)のあの印象的な表紙写真、あれもジル・フリードマンの写真だったんだぁ(本書pp.132-133。撮影地はこれもクレアだが、誰だろう)。へぇぇ。ついでで恐縮だがCD付きのこの本もなかなか面白く、主題はサブタイトルの通りアイルランドからアメリカへ渡った人々の歌についての本なんだが、40ページほどの本文のあちこちにちりばめられた古い写真や広告グラフィックは、眺めているだけでも興味深い。
「最近買ったアイルランドの写真集」、二冊目は次回エントリにて。
2006 02 12 [wayfaring stranger] | permalink
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comments
はじめまして。
ジル・フリードマンのことを、こちらで初めて知り、写真を見て、オーッと感激しました。
いい本を紹介してもらって感謝です。
なんだか、また、ケルトにはまりそうな予感がしています。
posted: dunkel (2006/02/17 9:17:37)
コメントありがとうございます。
拙エントリがきっかけになれたのでしたら嬉しいです。写真集は好きなんですが、なにせ高いのと大きくて場所をとるので、なかなか買えないのが悔しいですねぇ(^_^;)
posted: とんがりやま (2006/02/17 17:22:32)