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[DVD]:Béjart! Vous avez dit Béjart?
●モーリス・ベジャール生誕80年記念 ベジャール!
(原題:Béjart! Vous avez dit Béjart?)
プロデューサー/セルジュ・コルベール、マリー=クレール・コルベール
ナレーション/ジャン=ルイ・トランティニアン
2005年フランス作品 francetélévisions distribution
株式会社アイ・ヴィー・シー IVCS-5145/2006年1月発売
本編91分
解説/佐藤友紀
ベジャールのドキュメンタリー映像作品としては、以前にも『ベジャール、バレエ、リュミエール』というDVDソフトについて取り上げた[tongariyama.jp]ことがあるが、あちらが劇場公開された映画であるのに対し、こちらはどうやらフランスのテレビで放映された作品のようだ。もちろん内容も大きく異なり、あちらが主に新作のできるまでを追ったドキュメンタリーであるのに対し、こちらはモーリス・ベジャールその人に焦点をあて、その半生を丁寧に紹介するものとなっている。
日本にベジャールのファンは非常に多いから、テレビでも彼を扱ったドキュメンタリーはこれまでいくつか放送されてきたと思う。私の手許にも、1992年頃にNHK教育テレビが制作した、東京バレエ団のロシア公演を追いかけたものがビデオテープに残されている。先日十数年ぶりに見返してみて、それはそれでとても興味深く楽しめたのだが、しかしこのDVDのように、ベジャール自身の生い立ちから現在までをまとめたものは、これまで観たことがなかった。それだけに貴重な映像が満載で、1時間半という短い時間のなかによくぞここまで豊富な内容を凝縮したな、と編集の手際のよさに感心した。
そういえば今年(2006年)、ベジャール生誕80年の記念公演として、東京バレエ団がベジャールとディアギレフのそれぞれの代表作を上演するというプログラムがある(参照:NBS 日本舞台芸術振興会:東京バレエ団《ベジャール=ディアギレフ》:公演概要[nbs.or.jp])。このDVDの発売も、おそらくそれにあわせたものなんだろうな。ついでと言ってはナニだけど、この勢いで、昨年アメリカで作られたバレエ・リュスの映画[balletsrussesmovie.com]の国内公開/DVD日本版の発売もやってくれないかなあ。せめてバレエ・リュス100周年となる2009年までにはぜひ観てみたいぞ、と。
DVDは、少年時代の思い出や哲学者だった父親の回想、ダンサー時代の貴重な映像から、サルヴァドール・ダリとの爆笑ものの交友録や劇作家イヨネスコのベジャール評まで、舞台や練習風景をふんだんに織り込みながらすすんでいく。どの映像もはじめて目にするものばかりだから、とても興味深いし食い入るように画面を見つめてしまった。
中でも、私がいちばん強く印象に残ったのは、やはりイタリア・パレルモのカタコンベ(地下墓所)を訪れるラストシーンだろうか。80歳とはいえまだまだ元気なベジャールだが、「老い」というよりその先にある「死」はかなり意識しているように思えた。カタコンベのさまざまなミイラを眺めながら、自らの死生観を語る場面には特に圧倒されっぱなしだった。
無数のミイラに囲まれつつ「ここは平和な気持ちになれる場所だ」とベジャールは言う。「ここでは誰もが死と和解している」と。
なぜ死を恐れなければ/ならないのだろう
避けられるものなら恐れるが/死は避けられないものだ
母親の胎内から/生まれ出てきた赤ん坊が
将来どうなるのか/誰も知らないが
いずれ死ぬことは確かだ
このあと「すべての登場人物を、表情に富んだ生ける屍として描いた」という『ホフマン物語』の一場面が挿入されるのだが、その<生ける屍>たちのダンスがみな、非常にエロティックに感じられるのも面白いところ。
ベジャールの中では、死と生がまっすぐひとつにつながっているんだろうなという気がした。
2006 02 22 [dance around] | permalink Tweet
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