« Michael Flatleyの自伝が出たぞ | 最新記事 | ジーン・バトラー・ワークショップの記事がCroiséに掲載! »
ragúsのこと
以下、自分用の覚え書きに…と、書いてるうちに長くなってしまった(笑)。あまりまとまった文章ではないけれど、とりあえず。
* * *
NHKハイビジョンに『世界は歌う、世界は踊る』というシリーズがある。いや、「あった」なのかな。よくわからないけど。
世界各地の民族音楽/民族舞踊系をディープに紹介する番組で、これまでにハワイのフラダンス、スペインのフラメンコ、キューバのサルサ、スイスのヨーデル、アルゼンチン・タンゴ、アメリカのゴスペル、トルコのベリーダンス、ブラジルのボッサ・ノヴァなどが取り上げられていた(順不同。見逃しているのも多いからパッケージ販売してくれたら嬉しいんだけどねぇ)。
そのなかのひとつとして、2002年の10月に「まるごと見せます アイリッシュ」が放映されている(後にBS-2/地上波のNHK総合でも流れたはず)。2時間たっぷり、アイリッシュ・ダンスのうちモダンスタイル・ステップダンスを中心に取材していてなかなか興味深い内容だったが、そのとき放送時間の1/4、約30分を使ってとあるダンス・ショウを延々と紹介していたのがとくに印象に残った。
それが《ragús》だ(オフィシャル・サイト[ragusonlinesales.com])。
番組放送当時「こんなにNHKが熱心に紹介してるんだったらすぐにでも来日するかもねぇ」などと友人と話していたのだが、ようやく現実のものとなった。今年(2006年)7月に、待望の来日公演が行われるのだ(公演概要[koransha.com])。いやぁめでたい…といっても名古屋以西の予定がないようだが…(ダイジェスト版のような短いステージなら、2004年9月に『JATA世界旅行博[ryokohaku.com]』というイベントでお目見えしている。ま、今回はちゃんとしたホールでのフルサイズ公演なので、晴れて「初来日」としてもいいんじゃないかな)。
《ragús》は1998年夏に誕生したショウ(写真左=お土産で貰った2003年のダブリン公演パンフ)。立ち上げの経緯はよく知らないけど、どうもアラン諸島への観光客誘致という目的が大きかったっぽい(現在も「イニシュモア島めぐりとラグース鑑賞」てなツアーがある[viator.com])。観光地のショウだからといってお手軽なモノか、と言えばさにあらず。《ragús》は高い評判を呼び、ヨーロッパ各国やオーストラリアや北米各地で海外公演を行うほどにまでなったという。
《Riverdance》の成功以来、アイルランドでは二匹目のドジョウを狙ってたくさんのダンス・ショウが登場したけれど、評価できるものって非常に少ないと思う。そんななか、これはどうやら相当質の高い部類に入りそうだ。
ところで、ヴィデオなどでアイリッシュ・ダンス・ショウをいくつも観ていると、<ありがちな傾向>が見えてくる。
- ダンス・ショウでは、通常なんらかの物語や世界観が設定されている。
ケルト神話を題材にしたり、アイルランドの歴史をモチーフにしたりとさまざまだけど、ある物語をダンスで展開していく、というパターンがほとんど。
- ダンス・ショウでは、オリジナル音楽が主体。
劇中で伝統歌/伝統音楽が使われることも多いが、メイン・テーマ曲は新しく作られたもの。
- ダンス・ショウでは、あくまでダンスが主役。
ダンスばかりに比重を置きすぎるのか、伴奏音楽や歌がないがしろというか従属物あつかいになっている作品も少なくない。また、どうしても派手さを追求する傾向にあるので、バック音楽を録音に頼ったり、バンドの生演奏があっても電気楽器やドラムス/パーカッションが多用される。

たとえば、このショウはダンスだけに特化したものではない。器楽演奏も歌も同等に存在感があり、聴き応えがある。もちろん、普通の音楽ライブに比べれば相当ダンスが重要視されていることも確かなんだけど、どれが主役というより、音楽-歌-ダンスの三者がそれぞれ際立っているところが魅力だろう。
それと、ケルト神話だとか勧善懲悪のヒーローものだとか、そういうストーリーがないのもかえって新鮮でいい。「物語を語るためのダンス/歌」という縛りから解放されているので、純粋にダンスや歌そのものを楽しむことができるからだ。
だからサントラCD(写真右=Gael Linn RAGCD002/2001年)も、ふつうのトラッド・アルバムとして聴ける。全12曲のうち1曲、バウロン vs. ハードシューズのリズムの競演〈Greg's Rhythm〉のみがライブ録音で、客席からの歓声など臨場感があって何度聴いてもゾクゾクしてくる。

●ragús A Unique Irish Experience
Celtic Music DVD6805
2001年夏のダブリン・オリンピア・シアター公演を収録したもの。ちょっと前まではPAL版のVHSヴィデオしか販売されてなかったと思うが、現在はPAL版とNTSC版の2種類のDVDがある。
これを観れば、《ragús》がこれまで日本で公演があったどのアイリッシュ・ダンス・ショウよりも、はるかに「コンサート」に近いことがよくわかる。
プロデューサーでもありアコーディオン/ヴォーカルも担当する Fergal Ó'Murchú のMCが随所に入るし、〈Green Grow the Rushes〉のsing out(Altan のコンサートでおなじみ)もあったりするしで、まんまアコースティック・ライブの感覚だ。
その分、舞台背景のセットは最初から最後まで同じだし、照明や特殊効果で観客を驚かせることもない。いたってシンプルなステージづくりだから、Michael Flatley ばりのスペクタクルなエンタテインメント・ショウを期待する人には、ひょっとすると向かないかもしれないかなとも思う。
DVD収録の演目は全18曲。このレパートリィが固定されたものかどうかは知らない。サントラCDにあってDVDにないものもあるし、それに長年同じ曲ばかりやっていては飽きもするだろうから、演目は適宜入れ替えをしていると考える方が自然なような気がする。
NHKの番組では、イニシュモア島の公民館みたいな建物(でも専用のハコのような気もする)での凱旋公演をやっていた。DVDのダブリン公演版と比べると舞台がとても狭い。その分ダンサーも少なめだが、逆にDVDの方が「拡張版」だとも言える。いずれにせよ、曲構成から出演人数まで、いろいろな条件に合わせてフレキシブルに対応できるのも《ragús》の利点なんだろう。
2006 03 09 [dance around] | permalink
Tweet
「dance around」カテゴリの記事
- トリニティ・アイリッシュ・ダンス2018日本ツアー(2018.06.17)
- 【Ballet】眠れる森の美女(2018.05.13)
- 薄井憲二さんのバレエ・コレクション!(2018.04.08)
- DUNAS(2018.04.07)
- 55年目のThe Chieftains(2017.11.25)