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[book]:Viva La Musica

 

Vivalamusica

●ビバ・ラ・ムジカ
 奥村恵子著/マガジン・ファイブ発行/星雲社発売
 2006年4月刊/ISBN4-434-07076-2
 カバー・表紙デザイン:小石和男
 
 長くパパ・ウェンバ Papa Wenba のバンドで活躍されていた、パーカッショニスト奥村ケイコさんの自伝エッセイ。まぁほんとに大変な半生というか何というか、何がどう大変なのかは、奥村さんのアフリカン・ミュージック・クラスのサイトに掲載されているプロフィール[infoseek.co.jp]をご覧いただくだけでもよくわかる。このプロフィールは、いわば本書の「あらすじ」でもある。
 
 そして、22歳になったある日、父や母や友人たちに、
「3ヵ月ほど、アメリカ方面に旅に出かけたい。理由(わけ)は聞かずに行かせてくれい」
と言って、日本を後にした。(pp.8-9)

 これが1979年のこと。3ヵ月なんてとんでもない、そのままメキシコからコロンビアへと放浪し、1年後に日本に戻ってきたときには日本人とわかってもらえず入国審査の特別室で取り調べを受ける(笑)ほどすっかりコロンビアーナになりきっていたというエピソードを皮切りに、次から次へとぶっとびの半生が綴られている。無鉄砲もいいところなんだけど、無茶の半歩手前で無事なのは、天性の邪気の無さをお持ちだからだろう。もっとも、1995年のアフリカツアーに予防注射なしで出かけ、直後にマラリアに罹り生死の境をさまよったあたりは無謀としか言いようがないのだけれど…。
 
 ともあれ、最初の10年は中南米、パパ・ウェンバとその音楽に出会って以降の10年はアフリカへと、たった一人で世界各地を放浪し続ける著者のタフさには感嘆するしかない。まったく、世の中には凄いヒトがたくさんいるものであります。
 好きな音楽に一途に生きようとする日本人女性の書いた、とことんポジティブで明るい本ではあるけれど、ヨーロッパをはじめ西欧諸国が抱える人種差別や経済至上主義がもたらす、現代のさまざまな問題ともまったくの無関係ではありえない。筆者自身、レコーディングを終えた早朝にパスポート不所持という理由でパリで逮捕されているし、仲間たちがビザの期限切れ→不法滞在→強制送還になるさまを多く体験している(もっとも、みんな数ヶ月後にパリに見事に舞い戻っているんだけれど)。今年に入ってフランス全土を揺るがしているあの騒乱が象徴するように、パリが彼ら彼女たちにとってこの世の楽園でないことは明らかだ。
 しかし、多くのアフリカ人がそうであるように、そんなことくらいで「はいそうですか」と帰るわけがない! たとえ刑務所に入ってでも、なんとか居続けるのである。不法滞在で捕まると、普通、数カ月から1年くらい刑務所に入るか、強制送還かを選ばされるので、刑務所に入る事を選び、出所してからまた生き延びる方法を考える奴が多いと言う。一生に一度外国に出るだけでも命がけの国だ。そう簡単には戻らないぜってとこだ。
 どんな問題だらけの困難な状況でも、やっていく逞しさは彼らの内なる財産だ。そのパワーで、本当に難しくて不可能と思われることでも現実化させてしまうのだ。(p.100)

 
 去る3月9日に惜しまれつつ亡くなられた木立玲子さんが、ジョイス・ブニュエル監督の映画『サルサ!』をめぐるパリの評判について、かつて(2000年7月)こう書かれたことがある。
(前略)ル・モンド紙はじめ映画館の入りに影響を与える新聞の映画評は、概して冷たかった。(中略)その国の音楽が好きだからといって、わざわざ低開発国の人間になりたいなんて、ありえないと。フランス在住の外国人が、皆フランス国籍を取りたがっている時に、キューバ人になりたいなんて、ありえないと。ここでは、生存のための国籍取得願望と、愛情に起因する変身願望が混同されている。問わず語りに、白人至上主義が露呈している。(中略)
 ル・モンド紙は、「この映画で最後に残るのは音楽だけ」と冷たく言い放っているが、どうしても肉体と脳細胞を切り離さなくては気が済まないらしい。最初にリズムありきの映画もあるという事実を認めたくないらしい。(中略)
何事も、始めにリズムありき。リズムの振動が、小さな窓を全開させないとも限らない。(「サルサは何故、フランスに定着したか?」pp.31-32『きままに フロム ヨーロッパ』所収/ラティーナ/2003年12月刊/ISBN4-947719-03-6)

 奥村さんの刻むリズムの鼓動も、きっと<小さな窓>を開けさせ続けてきたことだろうし、きっとこれからもそうであるに違いない。
 
 
 本書にはDVDが附いている。1時間程度の短いものだけど、これがなかなか見応えがある。
 内容は大きく3つ。まず、ブルキナ・ファソのバラフォン奏者マハマ・コナテと彼のバンド「ファラフィナ・リリ」を訪ね、彼らの住む村で取材したクリップが3本。ふたつ目がコンゴのパーカッション・グループ「バナキン」が2002年秋に東京にやってきたときの模様。3つ目は、2001年の12月にパリで撮影された、パリに住むアフリカ人たちの一面が垣間見られるスケッチ。
 
 どのヴィデオも興味深かったが、私は特に最初のブルキナ・ファソのが面白かった。以前このブログで『ブルキナ・ファソのドラムとジェンベ』というDVDの感想を書いていたせいもある。
 中でもマハマ・コナテ自身の言葉や「ファラフィナ・リリ」のバンドメンバーたちの言葉が印象に残った。いくつかを引用する。

感性や才能を持っている人達には、それを全うする義務がある
才能を注ぐ事ができるならそれを続けなさい
それが人生であり、ベストを尽くすべきなのです(Mahama Konate / Lead Balafon)
 
音楽は、時に難しく、時に簡単です。
音楽の秘訣は辛抱強くあることです。
そうすれば、音楽を深く理解し、上手く弾くことができます。(Issa Diarra / Balafon)
 
音楽は兄の様なものですから、尊敬しなければなりません。
同等のものと思っているかもしれませんが、それは誤りです。
演奏をしているからといって、同年代のものということではないのです。
尊敬すれば、より深く理解し、前進することが出来ます。(Salifou Traore / Balafon, Djembe)
 
良質のDjembeが出来たときは、演奏するのがとても嬉しいですし、それを聴いている人もまた幸福な気持ちになります。
人が幸せになっているのを見ると更に上手く演奏しようという気持ちが湧いてきます。(中略)
だから、お金のためといって質の悪いDjembeを作るべきではないのです。(Christian Kambou / Djembe)

2006 04 16 [face the music] | permalink このエントリーをはてなブックマークに追加

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